赤鼻になるデバフと白ヒゲになるデバフ

『ドンッ』


『『『バッ!』』』


「3」と書かれた球が落ち、ドジョーさんを含めた何人かのビンゴ用紙に穴が開く。


 次の瞬間、穴が空いた方々の鼻が赤くなった。


「ドジョー、鼻が赤くなっているぞ」


 トトキがドジョーの耳に顔を近づけてデバフの効果を知らせる。


 なんかそれ以外のことも伝えていたようだが僕には聞こえなかった。


「え?!マジかトトキ!ホントだ!めちゃくちゃ赤ぇ!でもこれはこれでカッケぇ!」


 ドジョーさんが金属製ブーメランに写った自分の顔を見て自画自賛する。


「チッ……つまんねえ男だな。バカみたいな姿になったお前の不幸を存分にわらいたかったのに……」


 クネヒトがバルコニーに退屈そうに呟く。


「おいクネヒト!どうしてオマエは強引な形でビンゴ大会を開こうとしたんだ!アポ無しでコレは迷惑だぜ!」


「そもそも、これはビンゴ大会ではない。不幸な男が幸せな人々に行う復讐だ。だから、ビンゴになった人間は問答無用で腹に穴が開いて致命傷を負う!」


「じゃあただの魔術犯罪じゃねえか!犯罪はあんまりよくないし自分のためにならないぞ!」


 ドジョーがクネヒトに軽く説教をする。


「オマエ、真面目すぎるな。絶対センタさん信じているだろ。まあ、俺のもとにセンタさんは来なかったんだがな」


「いや、センタは迷信だと割り切っているが、元ネタであるセイタンの実在性は信じているぜ!」


「あ、それはワタクシも信じているけど。ちゃんと証拠もあるし現時点でここに同族もいるわけだし」


 こうして、ドジョーとクネヒトは対話というより雑談に近い話し合いを始めた。




「やはり、クネヒトが別のことに気を取られていると抽選機は回らないみたいだな。ドジョーに彼と雑談をするよう指示して正解だった」


 クネヒトが雑談に気を取られているなか、僕たちはトトキさんの指揮のもと魔道具を作り続けているマテリアを中心に固まった。


 そして、クネヒトに聞こえないくらいの声量で話し合いを始めた。


「マテリア、その魔道具が完成すれば改新世界から出ることはできるか?」


 集中して魔道具を制作し続けているマテリアがトトキさんの問いかけに首を縦にうなずく。


「あとどのくらいで完成する?」


 マテリアが一瞬だけ両手で6をあらわすジェスチャーを行う。


「6分か?」


 マテリアが全力で首を横に振る。


「60分か?」


 マテリアが首を縦に振った。


「なるほど……というか、なかなか魔力切れしないな。もしや、クネヒトの魔力保有量が我々の想像以上にあるのか……?」


「ちょっと憂眼で見てみる」


 僕はクネヒトの魔力量の現状を見るべく、憂眼を生成して彼を見た。


「どうだイドル?」


「最大魔力保有量自体はトトキさんの予想通り5万くらいだった。でも、なぜか常にマナが回復して魔力切れを防いでいるみたい」


「なるほどな……おそらく何らかの方法で魔力を補給し続けているのか。ってことは外部の救援かマテリアの魔道具完成までもっと時間を稼がないとな」


 そうトトキが言ったとき、手すりを叩くような音がした。


「もういい!オマエのきれいごとは聞いていてイライラする!ワタクシを含めた貧乏人全員がオマエみたいに心が強いと思うなよ!」


 どうやら、クネヒトがドジョーさんの発言をきっかけにキレたようだ。


「すまない!俺はただ、オマエを元気づけたかっただけなんだ……!」 


「うるさい!ケンカばかりして子供にクリスマスプレゼントも渡せないようなクソ親のもとで育ったワタクシの心は、もうボロボロなんだよ!」


 クネヒトが泣きつつ、展望デッキの柵を何度も叩きつける。


「もういい……もういいんだよ!心臓の寿命10 年を捧げて得た1時間の魔力無制限……!ここでお前らをめちゃくちゃにしてやる!!」


『ガララララララ……ドンッ!!』


 今までよりもより激しく抽選機が回転し、玉がドンと落ちる。


「ワタクシだってセンタさんからプレゼントが貰いたいんだあああああ!!」

『『『バッ!』』』


 クネヒトの本心であろう叫びと共に、僕とトトキさんを含めた数人のビンゴ用紙に穴が開く。

 

 効果はすぐに出てきた。


 僕とトトキさんの顎からヒゲが生え始めたのだ。


 そのヒゲはまるで、センタクロースに生えていたとされる白ヒゲのようであった。


「まだビンゴになった人はいない。しかし、このままのペースで抽選機を回されたら、確実にビンゴになる人間が出てきてしまう……どうにかできないものか」


 トトキさんが生えてきたヒゲを触りつつ、深刻な顔で呟く。


 僕は腹に穴が開いても大して命に別状はないだろう。


 しかし、他の人達はそうはいかない。


「どうすればいいんだ……」


 その時、僕の中に時間稼ぎの作戦が思い浮かんだ。


 僕はトトキさんにその作戦耳打ちで打ち明けた。


 なお、マテリアは集中しているし、ドジョーは詳細を知らない方が作戦が有利に進みそうだったので打ち明けるのはやめた。


「わかった。がんばれよ」


 僕はトトキさんの手短な声援を受けつつ、作戦を実行に移した。

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