ミニスカセンタ姿になるデバフ

『ガランッ……!』


 黒装束の男がビンゴの開始を告げた次の瞬間、鋳銑機の穴から「1」と書かれた玉が落ちてきた。


『ドンッ』

『『『バッ!』』』


 玉が床に落ちると同時に、みんなが持っていたビンゴ用紙にいっせいに穴が開いた。


 どうやら、全員の中心のマスに「1」が書かれていたらしく、そこに穴が開いていたようだ。


「ワタクシの名はクネヒト。このイベントの主催者である『健全な教育推進倶楽部』のアンチにして、ロッシュの大ファンである!」


「コイツ、この前『健全な教育推進倶楽部』の敷地内に勝手に侵入していたから、厳重注意したところだったのに……!」

 

 どうやら、トトキさんはクネヒトのことを知っているようだ。


「クネヒト!王都迷惑防止条例違反で逮捕する!」


 トトキさんは彼に近づくべく展望デッキへとハトを飛ばし、鳩転移魔術で自分と鳩の位置を入れ替えた。


 そして、確保のためにクネヒトを殴ろうとしたその時、


『バシイッ!』


「バリアで防がれただと……」


「騎士団長様、ビンゴ大会中に暴力だなんてはしたないぜ……あ、他の人たちもワタクシへの攻撃はできないぜ!」


「マジか。じゃ、バリアを破壊できる金属片を飛ばしてみるか」


 その一言を聞いてマテリアが数発ほど飛ばした金属片も、彼に当たる直前で「何か」にぶつかって勢いを失った。


「どうやら、バリアではなくて『現実改変』で当たらなくしていそうだね……厄介すぎる。」


「その通りだ、ロッシュ殺しの女!貧悟胎界では当たった数字に応じて参加者にデバフが付与されていく!『1』の効果は『俺への物理的攻撃が不可能』だ!」

 

「なるほど……だからさっき、『みんなワタクシに攻撃できない』なんて言っていたわけか」


「敵に攻撃できないとは……改新世界、効果が強ぇな……でも、諦めねえ!」

 

 ドジョーさんがブーメランバリアを張るためのブーメランを大きく円を描くように投げる。


 しかし、改新世界と外の世界を遮る壁にぶつかり、しばらく抵抗していたが勢いがなくなって床に落ちてしまった。


「改新世界を終わらせる方法は限られていてね、発動者の魔力切れか特殊な魔道具による解体、それか他の改新世界での上書き……最後の方法は非現実的だね」


「この場合は、アイツの魔力切れを待つのがいいかもしれない。彼の最大保有魔力はおそらく5万程度。改新世界の維持は5分が限度ってとこだ」


 マテリアの解説にトトキさんが補足を加える。


「ひとまず、みんなのビンゴ用紙を確認させてくれ」


 トトキさんの呼びかけに応じ、僕たちを含めた他の人々がお互いのビンゴ用紙を見せ合おうとしたその時、再び抽選機が回り、「26」と書かれた玉が出てきた。


『ドンッ』

『『『バッ!』』』


 そして、数人のビンゴ用紙にあったその番号の箇所に穴が開いた。


 その数人の中にはマテリアもいた。


 次の瞬間、マテリアはミニスカセンタ姿になった。


 


 ナタリス教には「センタクロース」という伝説上の聖人がいる。


 真っ赤な服を着て子供たちに誕生日プレゼントをあげていたとされており、聖夜祭では彼の仮装をすることが一種の定番となっている。


 なお、近年の研究で彼の伝承は、たまたま機嫌が良い時のセイタンが虐待されていた子供たちにプレゼントをあげた話が元ネタであることがわかったらしい。


 そして今、マテリアの服装はミニスカ状態のセンタ姿になっている。


 正直、とても可愛い。


「うう……月に1回しかスカートを履かないから恥ずかしいなコレ……脚は鎧で覆うか」


 しかし、マテリアの脚部はいつまでたっても素肌のままであった。


「……まさか、現実改変の効果が永続的に続いているせいでミニスカセンタ姿で固定されているんじゃ」


「その通りでーす!ロッシュ殺しの女、いい格好になったな」


 展望デッキの上でクネヒトが答え合わせに応じた


「なるほど。じゃあ私、ここ数年で一番ピンチかもしれないね……」


 マテリアが少し不安そうな顔を浮かべる。


 本人が言う通り、今のマテリアは絵面以上のピンチに陥っている。


 マテリアは基本的に自作の魔道具を様々な形で装備することによって、自身のフィジカルを大幅に補強している。

 

 そのため、何も装備していない状態での身体能力は一般女性と何一つ変わらないのだ。


「大丈夫、いざというときは僕が守るよ」


 僕はマテリアを安心させようとそう宣言した。


「ありがとう。大丈夫、魔術自体はまだ使えるし、武器なら持てるからまだまだどうにでもなるよ」


 そう言いつつ、マテリアはその場で座り込んで新しい魔道具の制作に取り掛かり始めた。


『ガララララ……!』


 その直後、抽選機が三個目の球を出すべく回転を始めた。

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