番外編

聖夜祭編

恐るべきビンゴ大会の始まり

「ってなわけで、実は魔術ってけっこう面白いんだよね。だからさ、みんなも自分の好きなものを大事にしつつ、魔術を勉強してみると面白いかもよ!」


 聖夜祭前日の午後6時、マテリアは王都イグレオのドレドノート広場にて、子供向けの講演会を行っていた。

 

「以上で、講演を終わります!」


 その一言と共に、会場は賞賛の拍手で包まれた。




 僕たちが住むグライフ王国には『聖夜祭』という行事がある。


 聖夜祭はナタリス教由来の祭りで救世主ナタリスと全ての人々の生誕を祝う行事とされている。


 そのため、この日は第二の誕生日のような扱いになっており、聖夜祭当日には誕生日と同様に親が子供にプレゼントを渡す風習が恒例となっているのだ。

 

 更に、聖夜祭の時期には大量のイベントが各地で開催されており、マテリアはそういう系のイベントに講演者として招かれたのだ。


「イドル、講演の台本書いてくれてありがと!」


 講演会後、仮設された控室にて僕はマテリアと一緒にいた。


「私、説明の時とかにクセで専門用語ばっかり使っちゃうからさ、子供たちにもわかりやすい言い回しをキミが考えてくれて、すっごく助かったよ」


「よかったよかった」


「じゃ、私の出番も終わったしそろそろ控室を出て屋台とか見て回ろうかな」


「そうだね」


 そう言って僕たちが控室の扉を開けて外に出たその時。


『……改新世界、貧悟胎界びんごたいかい!』


 男の人の声が響き、あたり一面の空間がどんどん宴会場ような状態に変わりっていった。


「私のバリア迎撃用魔道具が反応しない。……おそらくこれは、バリア系魔術の極致とされる技、改新世界だろうね。私でも脱出はちょっと難しいかも」


 極めて強固なバリアで覆った場所の現実を一時的に改変する技。


 それが改新世界である。


 改新世界は極めて高度なバリア系魔術の知識と技術か、狂気に陥った心がないと使えない高等技術である。


 そのため、できる人間はかなり少なく、賢人でもオリジーナとスギカフカしか使えない。


「おい?!なんだこれは?!」


「ママー、怖いよ……」


 空間の中には僕たち以外にも講演会に来てくれた一般人も閉じ込められていた。


『ガララララララ……』


 空間の上の方を見てみると、福引きの時などに見かける回して玉を出すタイプの抽選機が直径5メトールほどのサイズ感で配置されていた。


「改新世界は技の発動者ごとに違う効果をもたらす……今回の効果は福引か……」


「いや、発動時に宣言した改新世界の名称からしてビンゴの線も濃いぜ……!」


 どうやら、警備のためにいたトトキさんや屋台目当てにやってきたドジョーさんも閉じ込められたらしく、改新世界の考察をしていた。


「……ん、いつの間に」

 

「私もだ」


 気づけば、僕たちは3×3のマス目に数字が書かれた紙を手に持っていた。


「ドジョー、どうやらお前の予想は正解だったみたいだ。この改新世界の題材は、ほぼ確実にビンゴ大会だ。さて、どうするか……」 

 

 トトキさんがビンゴ用紙を見ながら脱出方法を考え始めた時。


「フィメール、アンド、ジェントルメーン!ようこそワタクシの改新世界、貧悟胎界へ!不幸なビンゴ大会の始まりだぜー!!」


 抽選機の上にある展望デッキのような場所にて、黒装束に身を包んだ男がビンゴ大会の開始を宣言した。

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