それからの宴

「皆様、ナイトネス討伐お疲れ様、カンパイ!」


「「「乾杯!」」」


 スルトルス帝国跡地から王都イグレオへの帰る最中の楽土島にて、トトキさん主導で宴が開催された。


 その中には、討伐された本人であるロンリネス父さんもいた。




「どうでしょうかお義父さん、即席の義手の着け心地は」


「数十分で作ったとは思えないクオリティの高さだ。ありがとな」


 右腕にマテリアが即席で作った義手を装着した父さんが、宴の料理を口に運ぶ。


「トトキさん……ソーセキンを殺してしまって、すまない」


「大丈夫だ。あの男がそう望んで、オマエはそれに応えただけ。自殺幇助罪にはなるかもしれないが、殺人罪にはならないだろう」


 あれから父さんからソーセキンの死の真相を聞いたトトキさんが、少し寂しそうな目でそう答えた。


「そうか……なあ、そういえば俺が持っていた資産は今どうなったんだ」


「現在、オマエがかつて持っていた資産は相続人不在と見なされ国の管轄に置かれている。まあ、金融資産は暗殺未遂と暴行の保釈金としてほとんど消えたがな」


「相続は……法律的に出来なさそうだな。すまないイドル、俺が一時の怒りで絶縁したせいで、何も残せなくて」


「……大丈夫だよ父さん。僕の資産は、僕の手で作るよ」


「そっか……立派になったな。かつて親を焼いて店を作った俺とは、大違いだ」


 そう言って父さんは、鋼鉄の右腕で僕をなでた。


「オマエが安楽会の残党に頼んで実家を焼いた件に関しては、ソーセキン宅の家宅捜索の過程ですでに把握済みだ。本国に帰り次第、裁判を始めるぞ」


「どんな罪状でも、受け入れるつもりだ……本音を言えば、できれば無期懲役より上の刑にはなりたくないけどな」


「ロンリネス!生きる渇望に目覚めたってことは、ようやくオマエもド級になれたんだな!」


 会話に突っ込むように、ドジョーさんが僕たちの方にやって来る。


「いや、今の俺は最高の騎士団員になった時よりも清々しい心持ちだろう。だから、超ド級だ」


「なるほど!これからもよろしくな!超ドロンリネス!」


「……呼び名はロンリネスのままでいいぞ、ドジョー」


 こうして、僕たちは朗らかな雰囲気のまま、グライフ王国に帰った。


 

 

 それから数週間の間、父さんの裁判が連日に渡って行われた。


 禁忌を犯した罪は、僕が人間社会に害を与えない存在であることが今回の件で世界的に認知されたおかげで、無かったことになった。


 暗殺未遂の件と暴行の件はすでに罰金を払っているため問われることはなかった。


 結果、違法魔道具体内所持罪と嘱託殺人罪、クーデター未遂罪と自殺幇助罪によって、父さんは無期懲役となった。


「まあでも、グライフ王国では積極的に更生の意思を見せた人が減刑された前例がいくつもある。父さん、頑張るからな」


 面会室のオリ越しに、父さんが僕に邪気の無い顔でそう言った。


「じゃあ、また来るね」


「ああ、オマエも頑張れよな」




 そして、それから約一週間後。


 僕とマテリアの結婚式が、王都南部にあるナタリス教の大聖堂にてハンズさん司会のもと執り行われた。


 なお、僕とマテリアの知り合いを呼んだ結果、まるでナイトネス討伐記念宴の二次会のようなメンバーになってしまった。


 形式ばったプログラムは迅速に終わり、今は披露宴に突入している。


「ドドサベル村の村長に現騎士団団長、賢人の皆様まで……なんなんですか、この豪華なメンバーは……」


「たぶん娘や義理の息子の友人なんだろうけど、凡夫な俺たちにとってはあまりにも肩身が狭すぎる……」


 マテリアの両親であるブレンダさんとリゴンさんが、そうぼやきつつ隣を見ると、そこには半日限定で仮釈放された父さんが車椅子の上で泣いていた。


「……グスッ、大きくなったな、イドル。ウウッ、幸せになるんだぞ」


 そう言いつつ、父さんは数日前に刑務作業を行うために再生に踏み切った両腕でハンカチを持って涙を拭いていた。


「……よかったのお、イドル」


「まあ、一件落着ってことやな……破壊神と同じ種族だからという理由で、早まって討伐とかしなくて正解だったわ」


 オリジーナさんとスギカフカさんが結婚式参加の対価として受け取った宝石と種を手に収めつつ、会話を弾ませている。


「ド級のお兄ちゃん、僕もおおきくなったらイドルお兄ちゃんみたいになれるのかなー?」


「心を強くして、己の弱さと向き合い続ければ、イドル先生みたいなド級の男になれるぜ!!」


「イドルみたいに強くなりたいなら、格上にも恐れない勇気を鍛えるのが最善手だぜ!」


 マテリアの弟であるリックスくんとドジョーさんと仮釈放されたコクドーが大聖堂のすみっこで仲良くなっていた。


「うぇーい!めでたい!めでたい!ハイドロめでたーい!」


「ディフモ殿、そんなに騒いだら後で思い出した時の精神的ダメージがヤバいでござるよ!」


 その近くでは、酔ってハイテンションになっているディフモさんと、全く酔っていないホムスビさんがいた。

 

 みんなが楽しく騒ぐ中、僕たちの結婚式は終わったのであった。


 


「懐かしいね。ここで、私がキミと抱き合ったあの日」


 式の終了後、僕たちは王都の外にある高い塔がある廃墟に来ていた。


「うん、そうだね……まさか、ここが父さんの実家だとは思わなかったけど」


 ナイトネス討伐後に行われた裁判に呼ばれた際、僕は裁判の資料を見て父さんの実家跡があの日飛び降りようとした廃墟だったことに気付いた。


 僕たちは廃墟に向かって亡くなった父さんの両親と双子の兄に黙禱もくとうを捧げた後、家へと足を進めていった。



 

「僕の18歳の誕生日だったあの日、キミへの愛おしさが爆発したことで、世界最強の生物とやらに覚醒して、それから色々あったね……」


 僕たちの家に帰った後、僕はそう言ってこれまでの思い出を回想した。


 ベヒモスを倒したり、村を救ったり、クーデターを平定したり、神殿を探索したこともあった。


 安楽会の残党であるロッシュと戦ったり、父さんと戦って和解したりもした。


「そうだね……でも、私はあの日から、毎日がとっても楽しいよ。イドル、この世界に生まれてきてくれてありがとう」


 この世で最も愛しい人が、僕に祝福の言葉と共に微笑みかける。


「マテリアも、この世界に生まれてきてくれて、僕のそばにいてくれてありがとう」


 そして、僕たちは唇を合わせた。


 お互いの存在を確認するために。


 やがて、僕たちの接吻は終わり、それからお互いの瞳を見つめて笑い合った。


「じゃあ、これからもよろしくね、イドル」


「うん。こちらこそよろしく、マテリア」


 生まれた時に始まった僕たちの物語は、これからも続いていくのであった。

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