その6「私たちね、君のことがなまら好きなんだよ。」


「窓の外……すっかり夜になっちゃったわよね」


「雪も降ってる……あたしこういうの好きだなぁ。ほら、君とあたしが出会ったのもこんな感じで月明りに照らされた雪の中だったし」


「んふふ。あの時もこうやって君に抱き着いていじめてあげたらなまら嬉しそうにしていたっけ?」


 嬉しそうに笑う紗那サナが今度は、抱き枕を抱くような態勢で抱き着いてくる。


 胸に手をぴたりと置いて、そのまま片耳に呟く。


「心臓……まだバクバクしてるけど、大丈夫?」


「んふっ、ごめんごめん。あたしが君の耳をいっぱいいじめちゃったからかぁ。でも、ちょすな~~って顔しながらも全然口に出さないし、実は触られて嬉しかった?」


「あれれ、なしたのぉ? 何も言えないってことはきっと、そういうことだよね?」


「でも、安心してよ。あたしが明日明後日の夜もたくさん耳を触ってあげるから」


「途中半端に否定する割には……なんにも返せない、みったくない君のめんこい耳をいじめたげるっ」


 そのまま片耳に息を吹きかける。


「ふぅ~~~~」


「あ、そうだ。さすがに私ばっかり君の体いじめてかわいそうだし……何かさせてあげよっか? さわりたいしょね?」


 首を振ると笑われて答える。


「首を振っても……いいの? ほら、したっけぇ、君が聞きたいなら~~あたしの心臓の音、聞きたいしょやね?」


「ほらほら~~、しっかりいいなさいよ。いいの、聞きたいしょ?」


「……っふふ。よくできました。したっけ、ほら。起き上がって?」


 身を起こし、目の前で座って胸元を強調させながら手を広げる。


「こないの? いいわよ?」


 目をじろじろ見て、そう尋ねながら強引に体を引っ張った。


「ほぅらっ」


 そして、そのまま右耳を自らの胸の間に押し付けるように抱きしめられる。

 


 とくんとくん、とくんとくん。

 少し早くなっている心音が耳に直接聞こえてくる。


「っ……あれ、バレちゃったかしら。ふふふ……さすがに恥ずかしいわね。あたしもちょっとだけ、あれだったし」


「でも、いいでしょ? 落ち着かない?」


 とくんとくん。

 ひしひしと降り積もる雪の音をかき消すように耳を包み込む紗那サナの心音。


「……あぁ、せっかくいじめるつもりがどうして落ち着かしてるんだろぉ」


「心の中にいるわたしのせいなのかな?」


「ん。どうしたの?」


 するりとおしつける手から逃げて、肩を掴む僕。


「—―な、なしたの? 急にそんな、真面目な顔になって……」


「え、伝いたいことあるの?」


「……そんなかしこまらないでよ、余計に恥ずかしくなるじゃないの」


(いいから聞いてくれよ)


「聞けって、え。ちょっと……強引で、怖いよ」


 少し止まって。生唾を飲み込む音が聞こえる。


「っ――わ、私のことが好き?」


「え? い、いきなり何を……」


 動揺する紗那サナ、しかし、その瞬間。

 何かが弾けるような音がしてシューっと煙が現れる。



★★



 すると、次に目を開けると僕の横に二人になっている紗那が座っていた。


「え」

「あれ?」


 右耳に紗那さな、左耳に紗那サナ


「「わ、別れてる⁉」」


 両耳から違う声音を持った二人の声が聞こえてくる。


「もしかして、好きって言ってくれたから……かしら?」

「え、す、好き……君ってわたしのこと好きなの⁉」


 頷く。

 すると、少しだけ間が開いたのちに二人が息を合わせたかのように呟く。


「「へぇ……そ、っかぁ」」


 呟くと、そのまま耳に近づき交互に囁く。


「それならね」(サナ)


「「わたし・あたしたちも」」


「なまら」(さな)


「……すき、だよ?」(さな)

「……すき、よ?」(サナ)


「大丈夫、安心して……今日はいっぱいわたしが君を癒してあげるからね?」


 そう言いながら紗那さな


「んふふっ。それじゃあこっち側の耳はあたしのほうがいじめて、いじわるして……びっくびくにしてあげようかな」


 それに対して左耳を指でなぞりながら呟く紗那サナ


「あぁ、もう。今日は疲れたこの人を癒してあげるんだよ、好きな人に意地悪だなんてだめだよぉ」


「甘いわねぇ。好きだからこそ、いっぱいいじめてあげるのよ? あたしにいじめられるのが好きなんだからねぇ~~そうでしょやね?」


「そんなことないもんね、君はわたしにたっぷりと癒されたいしょやね?」


 ぐっとちかづいてくる二人。

 


「「ねぇ、どっち?」」


「もちろん、あたしよね?」


「ちがうでしょぉ。わたしのほうだよね?」



 じっと近づいてきて、耳元まで来ると二人して体をベッドへ押し倒す。


「んふふ」

「えへへ」


「「わかってる」」


「「—―どっちもなんだよね、ありがと」」


「「一緒にたくさん/)あげるね」」


 傍点が付いた部分は交互に耳元でささやく。


 右耳では紗那さなが優しく耳に息を吹きかけながら、静かにふんわりと撫でるように耳を擦る。


「ふぅ……しゅわしゅわぁ、さわさわぁ……どう、気持ちいかな? 癒されるよね?」


 左耳では紗那サナが激し目に耳を握ったり離したりを繰り返してくる。


「っふぅ……ぎゅーぱーぎゅーぱー。んふふっ、体びくびくしちゃってるよ? もちょこい?」


「ふぅ、ふぅ、ふぅ」


「にぎにぎにぎ」


「ふぅ、ふぅ……ふぅ」


「しゅわしゅわ、さわさわ」


 両耳を交互にいじりこまれる。


 数回ほど続けられた後、今後は二人で耳を囲むように胸をくっつける。


「「したっけ、それじゃあ」」


わたし

あたし


「二人の心音を聞いて、気持ちよくねちゃおっか」


 とくんとくん。

 とくん、とくん。



 両耳でリズムの違う音が聞こえてくる。


 だんだんと眠くなり、声が遠くなっていく。


「なまらめんこい、君が好き」


 紗那さなが呟く。


あたしにいじめられて逃げようとする君はなまら好きね」


 紗那サナが続く。


「……ゆっくり、ゆっくりでいいからね」


あたしたちが引っ張ってあげるからね」


「今だけはゆっくり……寝てね?」


 トントンと胸を優しくたたく音が聞こえて、目をつむる。






~FIN~


なんまらめんこい二重人格な幼馴染が朝と夜に分かれて俺を取り合いっこしてくる。〜わたしとあたしのどっちがいい?〜【こえけん応募作】



<あとがき>

 読んでいただきありがとうございました。

 この作品は「第2回こえけん音声化コンテスト」に応募しているので、ぜひぜひ応援、コメント、☆評価よろしくお願いします!


 




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なんまらめんこい二重人格な幼馴染が朝と夜に分かれて俺を取り合いっこしてくる。〜わたしとあたしのどっちがいい?〜 藍坂イツキ @fanao44131406

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