その5「いっぱい、ちょしてあげる」



 夕陽の漏れた明かりはいつの間にかなくなっていて、あたりはすっかり夜になっていた。


 僕も紗那サナもシャワーを済ませて、パジャマに着替えた後、二人でベッドに入った。


「う~~ん。君のベッドって無駄に大きいわよね? シングルベッドじゃなくてなんでダブルベッド買ってるの?」


「……ん? なになにぃ~~? 何その言いたくなさそうな顔は~~?」


「んふふっ。かわいこちゃん」


(って、ていうかなんで一緒に寝ることになってるんだよ)


「なんでって……何、君は私と一緒に寝るのが不満でもあるの?」


(だっていじめてくるから)


「いじめてくるから? ふぅん、そ、君はそう思ってるんだね……でも。いっつも――あたしがいじめる度に嬉しそうな顔してるのは誰なのかなぁ~~?」


 紗那サナがにやにや笑みを浮かべながら僕をベッドへ押し付ける。

 そのまま覗き込むように耳元へ顔を近づける。


「それじゃあ」


 左耳。


「どっちの」


 右耳。


「耳を」


 左耳。


「いじめてもらいたいのかなぁ?」


 右耳。


「ふぅ……っふぅ、ふぅ」


 交互に耳をいじめ始める紗那サナ


「んふふっ……めんこいね、いっつもお昼はかっこよく仕事してるのに、夜になっちゃうとあたしに一方的にいじめられちゃうんだからねぇ」


(一方的じゃないし)


「別に一方的にいじめられてるわけじゃないって? なしてなして?」


「あ~~お昼のわたしにはいじったりしてるからってことぉ? ふぅん、でもわたしあたしじゃあ全然違うし……」


「君はあたしに向かって、いじったりできないでしょぉ?」


「んふふ……何も言い返さないってことは認めてるっていうことでしょやね?」


「それに、お顔が真っ赤。どれどれぇ……心臓の音も聞かせて?」


 そう言うと、紗那サナは僕を床に押し倒したまま、そのままの恰好で胸に耳を当てる。


 布がこすり合う音が響き、ベッドのシーツが耳元で揺れる。


「—―あれあれぇ。強がっている割にはなまら心音早いんだけど、なしてなんかなぁ?」


「たまたま? そなんだね~~。まぁ、いいや。そこまで言うならもちろん……我慢できるんだもんね?」





「んふふっ。やっぱり君はいじりがいがあるねぇ……いいよいいよ。あたしがたくさん君の耳を――、あげるから」






 ※傍点の部分だけ耳元で囁くように呟く。


「ちょされたいでしょ? だよね? 私の綺麗ですべすべな手で……なんまらぁ、ちょしてもらいたいしょやんね?」


 グッと距離が近くなる。


「よぉし……ほらほらぁ」


 どんどんと積極的になり、耳を掴んでは離してを繰り返し始める。


 さわさわ。

 すりすり。


「ん~~。こっちはどうかなぁ?」


 ずりずり。

 ぞわぞわ。


「っっしょぉ……ほぉら、もっともっとされたいしょ?」


 しょりしょり。

 ふわふわ。


 数分間。

 触っては離して、そして上下左右にしてどんどんと揉みこんでいく。


「ふぅ……こっちも」


 不意に耳に息を吹きかけると、反対側に移動して耳を両手で覆いこむ。


「今度はこっちの耳を両手で包み込むとぉ。あったかくていいかしらね?」


 ぎゅーっと水の中に入ったような音に包み込まれる。


「なしてなしてぇ、逃げようとしてるけど? もちょこいかなぁ?」


 ぞわぞわ。

 もう一度、包み込むと今度は反対側に移動して包み込んでは離してを繰り返す。

 

 ぎゅーぱー。

 ぎゅーぱー。


 と徐々に早くなっていくスパン。


「めんこいめんこいっ。いいねぇ、もっとやってあげるわよ?」


 にぎにぎ、そして離す。

 これを数回繰り返すと手を離して、耳元で呟いた。


「手だけじゃ満足できないかなぁ……ちょっと待ってねぇ。いじめてもらいたいような顔してる君にはとっておきのぉ……」


 すると、紗那サナはベッドから離れて、横に置いてある化粧用品入れをガサゴソといじり始める。

 

「あ、あった。これね。ほら」


 見せてきたのはふわふわのパフ。

 ベビーパウダーに使っているもので、新品。


わたしのほうが新しく買ってたけど、まだ使ってないし……いいわよね?」


「うん。別にあたしは怒られないからいいわよね」


「ほぉら」


 パフを片手にそのまま右耳へ。


 今度は、さっきまでとは違うふわふわとした柔らかい空気の混じった音が耳を包み込む。


「……どぉ、かなぁ? 気持ちいかしらぁ?」


 ふわふわ。

 そわりそわり。


 耳を這うパフ。

 反対側に耳にも移動して、行ったり来たりを繰り返す。


「ん~~、どぉかな。さすがにやばそうかなぁ?」


「んふふ……あぁあぁ、もう何も言い返せなくなってるじゃないの。ろくたらなものじゃないわねぇ……したっけ、少しだけ休もうかしら」


 のしかかっていた体をどけて、手を引っ張られて身を起される。

 そして、解放されたと思ったらそのまま抱きしめられる。


 シーツがずれる音と、服がこすり合わさる音。


 紗那サナはすぐに耳元へ口を近づけて呟く。


「—―まだまだ続けるから、覚悟しておいてね?」


 











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