シンクロ紙
真岸真夢(前髪パッツンさん)
第1話
「原子それは最小にして極小の世界。この世において原子よりも小さなものは無いとされていたんだ。でもそれは1897年までの話で、この年人類は原子には内部構造があってそれがこの世の中で1番小さい存在、電子であることを知ったんだ。それからも、陽子に中性子、クォークにレプトンと次々に新しい存在が明らかにされてきたけど、電子よりも小さな存在が現れることは無かった。
けど今から30年前の8月5日、アメリカのミハエルって言う原子理論学者の研究によって、原子を真っ二つにすることに成功したんだ。その時、原子の内部構造である電子までも綺麗に真っ二つになったんだ。
それによって、長い間変わらなかった最小の原子は水素原子からハーフ水素原子へ、最小の物質はハーフ電子へと替わったんだ。
でもそれももう三十年前のことで今ではクォーター原子まで生成可能になったんだよ。
ハーフ電子は原子1つから2つ生成して得ることが出来るんだけど、このハーフ原子には面白い性質があるんだ。
この生まれた2つの原子は互いに連動して動くんだ。この説明じゃ分かりにくいかもしれないから1つ例を挙げようか。
ここにハーフ原子の集合によってできた二枚の紙があるとしよう。その紙のどちらかを君が破いたりくしゃくしゃに丸めたりするともう一つの片割れの紙は、君が持っていると同じように破れたりくしゃくしゃになったりするんだ。
もう気づいている子もいるかもしれないけど、君たちが持っているその2枚の紙。それがさっき説明した不思議な紙、シンクロ紙なんだ!」
長く退屈な初めの方の話は意味がわからなくてポカンとしていた生徒たちだが、最後の方の話を聞いた途端誰もが一斉に各々の手に持っていた紙を破き出す。
小学4年生の社会科見学としてあまりにこの話題は難しすぎやしないか?
手に持った
社会科見学のコースはABCの3つあった。Aは一番高額でお土産としてシンクロ紙で作ったメモ帳をもらえる。Bはそこそこのお値段で見学の最中に小さなシンクロ紙を2枚もらえる。そしてCはただ手に取ってシンクロ紙を眺めるだけ。とても安い。
僕だって試せるならみんながやっているように手の中にあるこの不思議な紙をピリピリと破いてみたい。
隣に座る家が裕福な子が心底羨ましい。
「持って帰る子は特に今から言うことを聞いて欲しいんだけど、その紙は使い方を間違えると本当に危ないんだ。ゴミに出したり燃やしたりする時絶対2枚とも一緒に燃やさなきゃいけないんだ。じゃないと残ったもう一枚の紙が君たちの家の燃えやすい場所にあった時家が火事になってしまうからね。絶対に遊びでそんなことしちゃぁだめだよ。」
これまたポカンとしている生徒が多い。流石にこの説明の意味は僕にだってわかった。最近の小学生は頭が空っぽなやつが多いようだ。そんな奴らにこの高価な紙を何枚も無駄にやってしまうくらいなら僕にくれればいいのに。
そんなことを考えていても時は流れ社会科見学も終わり、教室でサヨナラの挨拶をした。
『ねぇ、
勝手にやな奴だと思って悪かったな。結構いい奴じゃん。でも「いや、僕はいらないよ。あんまり友達に借りを作りたく無いから。」これは建前で本音はここで貰ってしまったら友達に施しを受けてるみたいで何だか弱くてカッコ悪いような気がしたからだ。『そんなこと僕は気にしないよ。神凪くんもこの紙破ってみたいでしょ。』ここまで進められるとちょっと欲しくなってしまう。『いいから、いいから。』僕の手に篤人がシンクロ紙をそっと握らせる。『じゃあ、また明日!』篤人は走って他の子にシンクロ紙をいらないか聞きに行ってしまった。
僕はその夜自分の部屋でシンクロ紙を手に持ってちょっとドキドキしていた。この紙を破ったら本当にもう一方の紙も今日隣の子が持っていた紙と同じように破けるのだろうか。
紙の上の方に少し手をかける。すると篤人にもらったもう片方の紙も上の方がピクリと動いた。
「うわぁ。」
凄い本物なんだ!
堪え切らず一気に真っ二つに破き切る。
バリッと気味よい音を立てて2枚の紙は破けてしまった。
ただ手にした紙を二つに破っただけなのに物凄く満足感があった。
ハラリ
僕が手にしていない方のシンクロ紙から何かが剥がれ落ちた。それは紙だった。多分シンクロ紙だ。きっと間違えて篤人が僕に3枚渡してしまったのだろう。なら、このシンクロ紙は明日の朝篤人に返しておこう。
忘れないうちにランドセルにシンクロ紙を入れておこうと思ったが、ふと頭に工場見学でのおっちゃんの言葉が蘇った。
もし篤人の家で火事があったら家も巻き込まれてしまうのではないか?篤人ほどの金持ちの子の家なら火事の対策はきちんと行われているのであろうが、万が一と言うこともある。
ちょっと怖くなった俺は少し悩んでシンクロ紙を金属の箱に仕舞った。ここならもし紙が燃えてしまっても大丈夫だろう。
それにしても篤人のやつ、こんな高価なものをみんなに配ってしまうなんてどんだけ欲がないんだよ。明日お菓子でもお礼に持って行こうか。
(翌日の朝)
朝僕が居間に降りると母さんが【神凪見て!】と叫んでいた。一体なんだろう。
[昨夜未明、
僕はこのニュースを見た瞬間怖気が立った。これは犯罪グループのせいなんかではない。シンクロ紙のせいじゃないだろうか。僕は二階の自分の部屋にかけあがってシンクロ紙を入れた箱の中身を確認する。
何も無い。…逆さに振っても僅かな白い灰が床に落ちるばかりだった。
きっと昨日の夜僕が考えたように篤人の家で火事が起こったんだ。篤人は大丈夫だろうか。
母さんがこっちにやって来る足音がする。
手に連絡網のプリントと電話を持っている。母さんは僕がシンクロ紙の入った箱を見に行った間に学校から連絡を受け取っていたようだった。
【先生から連絡があったんだけど、火事があったのはみさきちゃん家とカイトくん家とゆうかちゃん家とまもるくん家とこうだいくん家と……】
母さんは順々に火事があった子たちの家を僕に教えてくれたが、その中に篤人の名前はなかった。
シンクロ紙 真岸真夢(前髪パッツンさん) @maximumyuraku
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