ふわふわ騎士団

五木史人

ふわふわ騎士団参上!

土曜日の夕方の出来事だ。


「君、そこの中学生でしょう。チャリ通してるところよく見かける」


商店街の古い喫茶店で、1人、ココアを飲みながら、SF小説を読んでいた僕に、声を掛けてきたのは、ピンクのジャージを着た女子高生だった。


多分この近くに有る女子高の寮生だろう。


すっぴんで生活感丸出しの、そっけない格好をしていた。


綺麗な格好すれば、めっちゃ美少女なんだろうけど・・・


ポニーテールの首筋が、すっごく色っぽかったけど、SF小説が大事な局面だ。



僕はそっけなく


「はい」と返事した。


「SF好きなんだ?」


「まあ・・・。」


「冒険物とか好き?」


「まあ・・・。」


「そう、そう言う事なら君の騎士団ナンバーは、【ゑー1016】トイロって覚えてね。」


「はっ?」


「私たちは、ふわふわ騎士団」


「ふわふわ?」


僕の目の前には、柔らかそうな彼女の胸の小ぶりなふくらみがあった。


その胸の持ち主は話を続けた。



「大抵の事は微調整で済むのに、硬直した人々は、その微調整すら拒絶する。

世の中は、私たちによる微調整を必要としているの。

君は今日から、そんな世の中を微調整をする、ふわふわ騎士団の研修団員よ。

はい、これ貸金庫の鍵。大事にしてね。

10ポイント貯まると金が1グラム貯蓄される」


「はい?」


「えっ、君、まだガラ携、まだ存在してての!まあいいや。

メールが来るから、君はその指示に従えばいいから、

ちなみに私の騎士団ナンバーは、【ゑー195】イクコって覚えてね」





*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆





月曜日の夕方、僕はイクコさんに呼び出された。


行ってみると、学校の制服のセーラー服にマント姿のイクコさんが、僕を待っていた。


それほど目立つマントじゃないけど、マントだ。


「ふわふわ騎士団のマントよ。君はまだ見習いだから無し」


土曜日に会った時はあんなにだらしなかったのに、今のイクコさんはとっても凛々しい 



そして、驚いたのはイクコさんの凛々しさだけじゃない、イクコさんが2輪の免許を持っていたことと、めっちゃカッコイイバイクを持ってることと、その後ろに乗せてもらって、イクコさんの背中に抱きつかせてもらったことと、イクコさんの身体が、すごく柔らかくていい匂いがしたことだ。



バイクが繁華街の裏路地に止まると、知らないアドレスから、メールが届いた。



【○○飯店で、赤いネクタイの男が焼売を頼んだ場合、

その男の顔に水をぶちまけて】


ふざけてるとしか思えないメール内容だ。



しかしイクコさんが言うには、


「そこには浅~い意味がある」らしい。


・・・・って、浅~いのかよ 


僕的にはその行為に、銀河帝国規模の歴史を覆す深~い意味が、会って欲しかったけど、


浅い意味しかないんだ。



しかし、どうしよう。めっちゃ怒れれたら。そりゃ怒るよね。



僕とイクコさんは、赤いネクタイの男の近くの席に座った。


「さあ、冒険の始まりよ」


イクコさんが、囁いた。



怒られてもイクコさんがなんとかしてくれるのか?




営業ぽい感じの赤いネクタイの男は、数人の部下と一緒だった。


赤いネクタイの男が焼売を頼んだので、その男のテーブルに近づき、コップの水をぶちまけた。


部下は驚き、店員は「お客様」と叫びながら走ってきた。


しかし、赤いネクタイの男だけは、何かを理解した様に僕を一瞥した。そして、


「最初のパズルは完成したよ」


と僕にだけ聞こえるように呟いた。




すでに店内にイクコさんの姿は無かった。


イクコさん、逃げるの速!


僕は、店員から逃げるように店を出た。





火曜日、違う学区の遠い街に連れて行かれた。


【駅の改札で、○○高の制服を着た女子高生にぶたれて】


意味不明のメールだが、僕はその駅に向かい、見ず知らずの女子高生にぶたれた。


ぶった女子高生は泣きながら立ち去った。


その後、女子高生と同じ高校の男子高校生に、胸ぐらを掴まれた。そいつは


「なんだよ、中学生かよ・・・」


と呟き僕を突き飛ばして、女子高生の後を追った。




水曜日、今度はめっちゃ地元。



【○○書店の棚に置かれた書店売上ランキング1位の本と、2位の本を店員に気づかれずに入れ替え、さらに3位の本を購入し、君のクラスの図書係の女子のカバンに入れ、女子のカバンに入っている本を奪い返して】


奪い返して?


意味が分からなかったが、図書係の女子のカバンを開けると中には、僕が読んでいたSFの本が入っていた。


もしかして僕の本?


本をめくると僕が林で拾った紅葉もみじ栞が挟んでいた。


間違いない僕のだ。


なぜ?


あまり親しいとは言えない図書係の女子が、僕のSFの本を?



これらが何を意味するのか、僕には解らない。


そんな僕にイクコさんは説明した。



「私たち以外にも、世の中の仕組みを微調整する組織がある。


私たちが把握してるだけでも、20から5万はあるわね」


「20から5万って、幅ありすぎです。全然把握してないじゃないですか」


「そいつらが君のSF本を、図書係の子のカバンに入れたのかも。私たちは日々そんな戦いをしいてるの」


「なんて意味不明な戦いを・・・」



「世の中の全体像を把握すれば、その意味は理解できるはず。そして微調整の重要性も・・・」




おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ふわふわ騎士団 五木史人 @ituki-siso

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ