第23話 超新星


「グギャァ!」


 悲鳴上げ、ゴブリンは大地に伏せる。

 けれど目前に迫るゴブリンの群れは、血気盛んにまだまだ俺達を狙い続けている。


 だがしかし。


大赤鬼の魔槍おおあかおにのまそう


刹那の二閃デュアリオン――凍奪火速とうだつかそく!」


聖文魔法せいもんまほう――『ライトニング!』」


 こちらの攻撃手段は単独時の比では無い。

 赤く光り、少し伸びている様に見える槍はゴブリンの群れに突っ込みながら中央で暴れ続ける。


 自身の傷などお構いなし。

 スキルの回復力に任せた、正しく鬼の様な攻勢。


 更に『双剣士』はそれを追従する。


 シン・ドレットノートの左手。

 青い宝剣が敵を斬れば、敵の傷痕から凍傷が広がって行く。

 けれど、それは刹那の二閃デュアリオンの能力の半分でしかない。


 右手の赤い宝剣が刀身内部にメラメラと燃えるような魔力を蓄積させていく。

 それは左の青い剣が敵を斬る度に大きくなった。


 そして、炎は使用者であるシンの体に吸い込まれ。


「ハァ……!」


 瞬間。


 シンの移動速度が爆発的に増加する。


 これこそが刹那の二閃デュアリオンの能力。

 左剣で奪った敵の熱を右剣に蓄積。

 それを肉体に付与エンチャントする事で、肉体の運動速度を強化する。


 それは疑似的な身体強化。

 神操術に頼らずとも、シンの運動能力は瞬間的には俺やラーンよりも上位に至る。


 だが、シンの驚くべき点は行き成り二刀流にコンバートしたのに真面にというか、予想以上の技術で武器を振れている事だ。


 シンの剣術は元々源龍武器ありきの物だった。

 単純な一刀流剣術では無かった分、その経験が源龍武器という共通点を持つ双剣の熟練度にも影響しているのだろう。


 刹那の二閃が小鬼を襲う。

 シンの二刀が通り過ぎ様に、二匹の上位種を切り裂いた。

 片方は燃え上がり、片方は氷結する。


 超過属性攻撃リミットブレイク

 それは武器内部の蓄積熱量が一定を越える場合。

 もしくは一定を下回る場合にのみ使える必殺技。


 更に左右から二つの魔法が援護を送る。

 二本の雷の線光は通常のゴブリンを数体貫く威力だ。


 アナスタシアの神操術は身体能力の向上という恩恵があまりない。

 代わりに、アナスタシアの保有する魔力量と魔法威力が格段に強化されていた。


 更に対魔防壁とも呼べるスキルの存在。

 黒龍の最後のあがきすら無傷に耐えきった結界は、魔物や魔法という魔なる存在に対して高い効果を発揮する。


 というか、それ以外に効果を発揮しない。

 人間など素通りだ。

 しかし、代わりに対魔に関する耐久能力は、一般的な防御系スキルの比ではないほど頑丈。


 緊急の防御能力としてこれほど優れる力は無いだろう。


「って考えると、俺たちは地味だよな」


「そうね」


 俺の呟きにモルジアナは闇精霊を展開しながら応える。

 遠距離攻撃系や前衛の死角に入ったゴブリンを優先的に闇に捕らえる。

 そうする事で、前衛の安定率が飛躍的に上がる。


 俺とモルジアナは後方から、戦闘の全体図を把握して指示や適切クリティカルな攻撃を行う役だ。


 俺なんてただ銃を撃ってるだけだ。

 しかし、コンタクト型映像通信機【熾天】の効果もあり、俺とモルジアナの援護能力は極めて高い効果を発揮している。

 何故なら、前衛の弱点や敵の弱点を読み切って攻撃できるのだから。


 相手からすれば鬱陶しい事この上無いだろう。


「左の壁外から増援6体。

 私達の後方から3体。

 そして前衛の奥から10体よ」


 魔力感知と熱源感知で得た情報がモルジアナより音声通信でチーム全体に共有される。


 それを聞きながら俺は作戦を決めた。


「左はアナスタシアのフラッシュとモルジアナの闇精霊で動きを止めろ。

 後方の三匹は俺が倒す。

 前衛おまえら、10匹くらい倒せんだろ?」


 通信機を介して全員へ同時指揮。

 返答は即座に帰って来た。


「了解」


「分かりました!」


「あぁ、当然さ」


「俺だけでも行けますよ」


 全員が同時に動き始める。

 不足は無い。

 不安も無い。


 俺たちは強くなった。

 イビア大陸での1年間で俺たちは成長している。


 今ならオークロードだって敵じゃない。

 そう言えるほど、今の俺たちは強い。


 神域の塔『人界』第一階層。

 そこではゴブリンが絶え間なく襲って来る。


 けれどそれを捌きながら探索をする事は容易と言って差し支えないレベルで実行できていた。


 ラーンが居れば体力や魔力の心配は無い。

 シンには上位種を単独で討つ力がある。

 モルジアナが居れば俺達に奇襲は不可能。


 その上で、もし何かあってもアナスタシアの結界という絶対防御が存在する。


「そして、貴方が全員を動かせば連携がブレる事は無いわ」


「読心術でも覚えたのかよモルジアナ」


「いいえ。

 何となく貴方は今チームの能力を総合的に分析している様な、そんな気がしただけ。

 でもそこに貴方への俯瞰的な評価は無い。

 だから言ったのだけれど、当たっていたかしら?」


「ま、お前が言ったのは通信機ありきの話だがな」


「そのテクノロジーを手に入れたのは貴方でしょ」


 後方より迫るゴブリンに魔弾を撃ち込む。

 一匹が倒れ、その屍を越えて二匹が迫る。

 黒刀『耀星ようせい』を抜き、迫っり来るゴブリンを見る。


 空間スキル把握使う


 残虐な笑みが、絶望の悲しみに変わる瞬間を俺の視界はゆっくりと捉えた。



 後ろを振り向く。

 既にラーンとシンが相手していた10匹は切り捨てられ、もしくは貫かれ、絶命。


 モルジアナとアナスタシアに任せていた6匹は、攪乱させろという指示だったが恐らくモルジアナの投げた爆弾で全員吹っ飛んでいた。


 計21匹。

 増援が来る前を含めれば総数30匹。

 その数のゴブリンを倒すのに掛かった時間は凡そ18秒。

 驚異的な殲滅能力だ。


 神操術使いが3人。

 そしてレイシアの超技術。

 更に俺とエルフ二人の魔法。

 源龍武器ドラゴンウェポンという脅威の力。


 合わせて使えばこうなるのか。

 ゴブリンが落とす魔石と残留物ドロップを回収し、先を進みながらレイシアの機能で立体マップを作製する。


 しかし、少し進めばまた魔物は現れた。


「今度は上位種の連合か」


「ファイター3匹。

 メイジ2匹。

 ジャイアント4匹ね」


 ゴブリンの上位種が9匹。

 恐らく第一階層で発生する魔物の数とランク的には最強の組み合わせだろう。


 1年前なら確実に逃げている。


 だが、今の俺達なら。


「負ける気がしねぇな」




 ◆




「通常のゴブリンの魔石が476個。

 上位種の魔石が68個。

 更に餓鬼王ゴブリンロードの魔石が1つ。

 その他、残留物ドロップを合わせて。

 合計736万飛んで39マイルです」


 迷宮都市シグルアグル。

 そこにある冒険者組合の受付嬢がぎこちない笑みを浮かべて、大量の貨幣の入った袋を差し出してくる。


 俺はそれを受け取り、インベントリへ放り込んだ。


 通常、第一階層は第零階層ゼロフロアの転移門を中心に少しずつ探索するのが定石だ。

 それは第二階層への転移門の位置が定期的に変化する事が原因で、地図を購入してもゴールを探すのは手間取る仕組みになっている。


 けれど俺の場合は逃走手段がある。

 だから無理な探索を安全に行えた。

 結果的に俺たちは第二階層への転移門を発見するに至ったのだ。


 迷宮都市へ俺以外の面子が集まったその日に、だ。


「なんだよあいつ等」


「どこのクラン所属だよ」


「おい、誰か勧誘して来いよ」


 ヒソヒソと俺達に視線を向け、周りの探索者が話し合う声が聞こえる。


 だから、それに応えてやる事にした。


「挨拶が遅れて悪いなシグルアグルの冒険者諸君。

 俺たちはクラン【高貴なる盗賊団ノブレスシーブズ】。

 名の通り俺たちはお前達から奪いに来た。

 地位名声名誉、頂きに立つ為の称号全て。

 これは宣戦布告と捉えて貰って構わん。

 俺達はこれから迷宮の最高到達階層記録を塗り替える。

 その伝説をしかと見て置け」


 場は静まり返る。

 俺の上げた声に応える者は誰も居ない。

 だが言いたい事は言えた。


 もう用は何も無い。


「行くぞお前等」


「あはは、アリバってなんか流石だよね」


「まぁリーダーなんだからこれくらいの自信と度胸はあっていいんじゃないかしら」


「モルジアナさんってアリバさんに甘いですよね」


「うぅ、ちょっと恥ずかしいですぅ」


 俺たちは組合を後にした。

 明日から俺たちは第二階層へ挑む。


 迷宮攻略の本格始動だ。

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戦地に捨てられた元貴族、大渓谷の落ちた先で宇宙船を見つける 水色の山葵/ズイ @mizuironowasabi

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