転移4日目 魔術と奇術の使い手
ゆらゆら、ゆらゆら。自分の体が揺れている。
誰だろうか。私には家族なんていないのに。
そう考えていたら、微かに声が聞こえだした。
「葵さん、起きてください、葵さん、ねぇってば!」
「うーん・・・・」
なんと、笑くんだった。そうだ、私は異世界転移したんだった。
でも、こんな早朝に起こすことないじゃないか。
だってまだ5時・・・・いや普通に8時!
学校でも余裕で遅刻である。
「まだ眠いよぉ、笑くん」
「そんなこと言ったって、今日は町に行って情報収集するって言ったのは葵さんでしょう!」
「よく覚えてたね、そんなこと。ちょっと待っててね、ご飯食べて準備したらすぐ行こう」
「ご飯? そんなもの2週間に一回でいいんです!」
「飢えるよそんなことしたら!」
朝ご飯を食べると幾分か意識がすっきりする。
キャンディやガムなんかのお菓子を持って行けたらなおよかったんだけど、そんなものはない。
あきらめて里に下りて情報収集をすることになる。
今日探すのは、魔術師と奇術師と呼ばれている2人の能力者だ。
どちらか1人で良いそうだが、そもそも出会わないことには始まらない。
せっかくなので、笑くんと一緒に出掛けるついでに探そうかなと考えた。
「葵さん、
「ええっと、そうだね。あっ、見て、サーカスだよ! あの人が連れてる動物も可愛い!」
「ちょっとー! 真剣に探してくださいー!」
いくら探しても、特徴を知らなかったら見つかりようがない。
魔術師や奇術師だなんて言うからには不思議な旅団なんかにいそうな気もするけど、まずは掲示板なんかを見てから聞き込みをする予定だった。
背伸びをしながら文字を追うこと数秒。
喜んだような声で笑くんがちょっと叫んだ。
「あっ、ありました! 葵さん、葵さん。あれ、『
「でかしたぞ笑くん! 『幻ダンテ』もある! 何だろうこれ、サーカス?」
「サーカスなら、さっきテントがありましたよね?」
「あそこでショーをするみたいだね。行こうか、笑くん」
早く向かおう。
急がないと演目も始まってしまい、明日もここへ来なければならなくなってしまう。
テントの前にたどり着くと、黒のマジシャン服を着た男の子とおそろいの白を着た男の子が客引きをしていた。
手をつないで様々な人に話しかけている彼らは、私たちを見てもまっすぐこちらにやってきた。
「こんにちは! 僕、
「俺は、幻ダンテ」
「ねぇ、おにぃさんにおねぇさん。僕たちの演目、見に来てくれない?」
「面白さは俺とまどわの折り紙付き、退屈はさせない」
「わかった。チケットはどこに売ってるの?」
「うふふ、そんなものはなーいよ!」
「・・・・うちのサーカスは、投げ銭だけでやってるんで」
投げ銭だけでこんな大きいテントのサーカス団を経営しているなんて、どれほど素晴らしい演目を見せてくれるのだろうか。
少しだけ笑くんと顔を見合わせてから、テントのカーテンをくぐった。
「勧誘、忘れてた」
「もー、葵さんってば。あとで勧誘しに行きましょう」
「そうだね」
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