転移5日目 ハプニング イン ザ サーカス!
カーテンが完全に閉められると、数十段低いところにある舞台にスポットライトが当たり大柄なピエロが現れる。
惑くんとダンテくんもそれに続くように現れる。
始まったのは玉乗り、ジャグリング、これといって特に面白い演目ではない。
白けている観衆を見まわしながらピエロは叫んだ。
「ではではァ、今日の目玉演目、現惑と幻ダンテのマジックショーでェす! 皆々様、ステージ中央へご注目ゥ!」
そのまま一人の男の人がスタッフによって舞台に乗せられ、惑くんが彼のおでこに触れる。
数秒後の男の人の瞳は、ぼんやりと紫に濁っていた。
首が据わっていないし、紫の像がどうとか、ピンクの虎がどうとか、幻を見せられているみたいだ。
次に綺麗なドレスを着た女の人が舞台上に乗せられ、今度はダンテくんが術を披露する番。
・・・・男の人は、放置されている。
でもなぜだか、ショーに集中してしまう。
「葵さん、ここ、なんだか変です・・・・!」
「私もそう思うよ、早く逃げなきゃ・・・・!」
せめてなぜだか凄惨に思える場面を見せないように笑くんの目元に手を当てようとした。
その瞬間、女の人が発狂した。
観客は歓声にも似た悲鳴を上げ席から立ち上がる。
巻き込まれて私たちも元居た場所から転げ落ち、テントの中央、舞台上に尻もちをついた。
惑くんとダンテくんが驚いたように目を見開いたけど、すぐに手をつないでカーテンの向こうへと消えていった。
「行こう、まどわ!」
「うん、ダンテくん!」
待って、勧誘できなくなる!
急いで立ち上がって追いかけていくより早く、ピエロがテントから飛び出した。
行く場所に心当たりがあるのかもしれない。
後をつけてみると、予想通り惑くんとダンテくんがいた。
ピエロに捕まえられてじたばたしている。
これは、あいつに譲ってもらったほうが早いかな?
笑くんには交渉が決裂した時のために2人を連れて逃げるように指示をして、ピエロに近づく。
「あのー、すみませんピエロさん」
「なんだァお前ェ」
「そこの少年2人の術に惚れたんです。お金は払うので、しばらく貸し出してはいただけないでしょうか?」
白いメイクに元のいかつい顔も相まって、とっても下卑た怖い顔立ちをしている。
迫力はクラスメイトだったヤマンバギャルの比ではない。
ピエロは不審なものを見るような目つきでこちらを睨み、すごんだ声を出した。
そんなときにはこれの出番である。
服の隙間にしまっておいた財布を取り出し、お札も小銭も一緒くたに散らばすと、ピエロはそちらに気を取られ惑くんから手を放した。
その隙に笑くんと2人で手をつかみ駆け出していく。
少しだけ怒鳴り声が聞こえるけど、少しでも距離を取れば追いつくことは不可能なのだ。
だって、と心の中で呟き幣を振る。
家の前に瞬間移動した。
「さぁ、ようこそ我が家へ。現惑くんに幻ダンテくん」
惑くんはまだきょとんとして状況を飲み込めていないみたいだけど、ダンテくんは肩をわなわな震わせている。
そのあとすぐに、なにがようこそだよ! と大きな声で叫んだ。
「ご、ごめんね。あそこにいたくないみたいだったから、勝手にお金払って連れてきちゃった」
「えっ⁉ やったねダンテくん! これでもう、痛いことされないね」
「・・・・お前、まどわにだけは手ぇ出すんじゃねぇぞ」
「それはもちろんですよぉ、ダンテくん」
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