和風異世界に転移した女子高生、チートをもらって旅に出る。~世界を救うために仲間をいっぱい集めます~

絵猫 アオイ

転移初日 チートないかも(泣)

最後に耳に残っているのは急ブレーキ音。

私はついさっきそれに合わせて目を瞑ったのだ。そしてなぜか、体が浮いた感覚に包まれた。

目を開けると、なんだか騒がしい。辺りを見渡してみる。


”着物”を着た村人っぽい人がいる。

”陰陽師”のような恰好をしている、光に輝く綺麗な髪と瞳の少年がくずおれているのもわかる。

そして私が今着ているのは制服であるセーラー服とは程遠い黒い”巫女服”、手に持っているのはおそろいの色の幣。足元には魔法陣があった。

もしかして、と思った矢先に罵声が飛んできた。


「どういうことだわらう!」

「なぜ人間を呼び出したのだ⁉」

「育て親を騙すなんて!ありえないわ!」

「あっ・・・・ああああ・・・・」


自分に向けられたものではないのは重々承知しているけど、思わず身を縮める。

怒鳴られている、そして殴られている可愛らしい男の子__いわゆるショタである__はどことなく弟に似ている。

家族が大好きだった私には、気が狂っているとしか思えなかった。

思わず彼を庇った。


「や、やめましょうよ!」


これは自分にとって利益のない行為だ。

いくら家族に似ていたとはいえ、あんなこと元々の私なら絶対にやらなかった。

でも、ここは現実ではなく異世界(もしくは過去)なので、もしかするとちょっとだけ良心が顔を出したのかもしれない。

村人さんたちは私の行動に感化されたのか、はっとしたようにその行為をやめた。



とりあえず、しばらく外に出てもいいらしい。

村の中を探検してみて分かったが、ここは山の上にある小さな小さな村のようだ。

私の思っていた異世界転移とは訳がとても違う。

これではチートもないかもしれない、とちょっと絶望してしまった。


家に勝手に侵入するわけにはいかないので代わりに窓をちょっとのぞき込んだりしているうちに、さっきの男の子らしき人影を見つけた。

部屋の隅で必死に涙をぬぐっているが、私を見つけたとたんに走り寄ってきた。

突き飛ばされてちょっとよろける。


「あ、あんたのせいで、わたしはっ、わたしはっ・・・・!」

「わっ、どういうこと? そもそも君の名前は?」


・・・・名前を聞いただけでそんなに睨まなくってもいいじゃ~ん・・・・。悲しいよ・・・・


「・・・・透間とおるまわらうです」

「あ、私は明谷あかりやあおいだよ。・・・・笑くん、何があったの? ちょっとだけなら私、何かしてあげられるかもしれないよ」

「もう何もいりませんよ。 ・・・・私はあなたを召喚したせいで、明日この村を追い出されるんです」


彼はそんなに背が高いわけでも、大人っぽい顔立ちをしているわけでもない。

事実、私は最初彼のことをショタと断言した。

でも、自分を嘲笑う表情はひどく大人びている。

自分の死期すら悟っていそうな瞳は、涙で潤んでいなければ彼に似合っていなかったと思う。

黙っていた私は、ついに意を決して笑くんに提案をした。


「あの、追い出されるなら、私と一緒に行かない?」


私は口が回るので、村人さんたちも丸め込めた。

ちょっとの間しか役に立たないかもだけど、ともにょもにょと言い訳する私に、笑くんはちょっと笑ってこう言った。


「考えておきます」

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