短編 天に落ちる

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短編 天に落ちる

 街の至るところに在るレールを滑り、飛び降りて戦闘域を駆け抜ける。そのスピードは段々と加速し、このチェレーロに吹きふさぶ風が気持ちいい。日課のランニングは、年々補修がなされては崩壊することが日常茶飯事である戦闘域でボラティーノと戦うグライダー達にとって大事な事だ。


「嗚呼、やはりチェレーロの空気はいい。」

 板の隙間から見える奈落の景色を見ながら独り言をつぶやく。チェレーロは今から約50年前に崩壊龍ザークと階層国クイントとの戦いによって出来てしまった階層壁すらも貫通した大穴の先に発見された、蒼の奈落であり異世界だ。人が観測しただけでも3,000m以上の深さはある底などの無い、一面の蒼の世界。そう眺めていると、上の方から降りてくる音が聞こえる。上を見上げれば、腕に入れ墨のある弓を背負った一人の男がをかけてきた。


「ネルさん、ランニングの途中ですか?」

「あぁそうだ。カゲヨイお前が戦闘域の底に来るのは珍しいな、何か依頼でも来たのか?」

 話しかけてきたのは2.3年前に捕まって此処に入ってきた男、カゲヨイだった。昔カゲヨイが新入り頃に一か月の講習で教師役として知り合った時からたまに会っては共にチェレーロにてボラティーノを狩ったりする付き合いの奴だ。


「えぇまぁ緊急の依頼が来まして、有翼種の大型一体の狩猟依頼を急に降られてしまいましてねぇ。わざわざ指名にして逃げれないないようにして、挙句のはてには期 限は今日の終日まで、酷いもんでしょう?」

 カゲヨイは大袈裟に言ってみせる。どうせ『ゴールドに上がりたくないないので』とでも言って、ノルマをギリギリにこなし続け、残りを貯めこんでいるカゲヨイから罰則金をふんだくる為にギルドは指名で依頼を出したのだろう。


「へぇーご愁傷様、俺に関係ない事だから帰ってもいいよな?」

 そんな様子を見て、面倒ごとを押し付けられそうな嫌な予感を感じこの場から去ろうと走り出すが…

「待ってください、話はまだ終わっていませんよ」

 カゲヨイはオリオネルの手首を逃さぬ様に掴み取って話を続ける。

「で、ネルさんにお願いごとがあるのです。」

「ほら私、待ちが主体の戦闘スタイルでしょう。だから急に有翼種の大型の依頼を頼まれても期限内に達成できないんですよ」

「はぁだから俺にアレをやるのを手伝えと?」

 強引に話を進めるカゲヨイを見て、しかめっ面を浮かべ足を止めた。

「えぇ話が早くて助かります。こんな嫌がらせをやりやがったギルドの連中からちょっとお金を吹っ掛けたいんですよ。空葬を行い、ボラティーノの連中を引き寄せて、私の射程範囲まで引き寄せて欲しいんです。後は私が殺りますので」

「報酬はいくら出せるか?指名でしかも期限も今日まで、だったらギルドからは相場より高めで依頼を出してるだろ?」

「えぇでなければ釣り合いませんからね」

 これから提示してくるであろう依頼金を想像して、あくどい笑みが溢れ出る。

「まぁ疾走狂に相応しい舞台に用意してやるんですよそれでじゅ「はぁ…」おっと失礼さすがに疾走狂でも無報酬では受けませんよね、報酬の話は明確にしましょう。元々ギルドからの依頼金は十万ディナーロで出されていますから、無事私のお願いを達成できればその6割を差し上げますよ。これで十分でしょう?」

 カゲヨイはベルトに付いたポーチから紙と筆記用具を取り出し、直筆のサインと金額を書いた紙を差し出す。オリオネルは受けとりその金額みて、

「六万ディナーロか、十分だ。引き受けてやる」

「助かりますよ、ネルさん。失敗してしまえばギルドに沢山のお金を取られてしまう

ので、まぁ痣付きの私が悪いんですケド」


 自分の意志でグライダーになる奴は少ない。なぜなら冒険者になった方が儲かるし。そっちの方が安定するからだ。けれどボラティーノを狩り、貿易の主要品目の浮遊石や、武具の素材などなどの物を集めるグライダーは天城都市アンダーとって必要な存在となった。だから天城都市アンダーは、貿易先から罪人を引き取り強制的にグライダーとして働かせていた。

「俺は別に報酬金がちゃんとあって、ギルド連中とのいざこざが無ければいいそれで

いい。だが確実に仕留めろよ?」

「えぇ問題ありません。囮を引き受けていただければ確実に仕留めて

見せますから!」

「後、ネルさん何で疾走狂って二つ名が付いたんですか?」

「あーあの話か…まぁその話は後にするとしようか。空葬をやるなら早ければ早い方

が良いだろ?。狙い目は有翼種の大型なんだ暗くなれば幽玄種が来る」

 チェレーロは珍しい事に環境が変わる場所というか世界だ。まるで

「えぇそれもそうですね。では始めましょうか空葬を。私はさっさと所定の位置に付

きますので、ネルさんの方は時間が掛かるでしょうから、準備が終わり次第、さっさと初めていてください。」

「あぁ分かった。こっちも準備をしておくよ。」

 カゲヨイが建物やレールに乗り移りながら上へと駆け上がっていくのを見送ると、オリオネルは、空葬の準備へと取り掛かる。

 空葬は、文字通り死んだ人間をチェレーロへ落とす事で普段上がって来ない大型のボラティーノを戦闘域まで呼び寄せる、儀式みたいなものだ。この時落とす人間は、腹を切り裂き臓物が飛び散るようにしておくことが肝心で、腹を裂くのは身を飛び散らせ、チェレーロの底に居るボラティーノの気を引きやすくする為だ。

 ワイヤーで繋がれた双剣を用いて空葬用の死体の腹を裂く。少し死んでから時間が経っているのか腐敗と血の臭いが鼻に付く。

 あぁ本当嫌な臭いだ…何度も繰り返して来た行為だというのに、何時まで経っても慣れない、もう死んでいる人間の遺体を傷つけるという行為は。そうしたら葬儀場に置かれた蓋の無い棺に入れて隣にある手向けの花を詰めてやる。今回の空葬に使う人間はやせ細って貧乏そうな形相の男だ。大方お金が足りず身内も居ないせいで、空葬されることになったのだろう。せめてその男がチェレーロの祝福がある事をオリオネルは名も知らぬ男へと祈った。


 空葬の準備が整い、オリオネルは戦闘域に居るグライダーに連絡する為テーブルに置かれた通信用魔導具に手を取る。

「カゲヨイは位置についているだろうか…よし、やるか」

「あ~こちらオリオネル」

「これから空葬を行う。環境は良好、戦闘域にいるグライダーは以後注意しろ。」


 空葬を行う際の連絡は規則によって定められている。前に連絡は忘れた馬鹿がいて戦闘の際に起こる崩落に逃げ遅れた人々が多数発生した事件があった。そのせいで空葬を行う際には連絡を入れるという当たり前のことが規則に追加されるはめになってしまった。


 オリオネルは息を一つ吐き、棺を慣れた手つきで葬儀場からチェレーロへ蹴落とした。棺は臓物と花まき散らしながら段々と加速しながらチェレーロの底へと落ちてゆゆ。あの蒼い奈落の底には何があるのだろうか、ふと落ちてゆく棺を見ながらオリオネルは考える。しばらくの時間が過ぎ、チェレーロの底から強風と翼の羽ばたく音が聞こえてきた。

「ピィショォォーーン!!」

 甲高い鳥の鳴き声が聞こえてくる。美しき二対の翼をもつ化け物が餌につられて上がってきたようだ。数は有翼種大型が2体、小型が3体と予想以上に上がってきたが問題は無い。

「こっち来い‼このクソ鳥!」

 挑発してボラティーノ達を引き付ける。このままカゲヨイの所まで約4,5kmぐらいだ。だが容易く引き付ける事など有翼種達は許さない。建物を巻き込み、突風を吹かせながらオリオネルを迫りくる。有翼種たちの攻撃で崩壊していく戦闘域を駆け上がっていく。崩壊を前提としてチェレーロに作られた戦闘域は、浮遊石を使用して崩壊に巻き込まれない様に作られたレールが至るところに張り巡らされている。それを足場にして有翼種達の突進を躱し、時には双剣ですれ違い様に翼を切りつけ、用の無い小型の有翼種を撃ち落とす。




「ふぅ…チェレーロを駆け巡るのは楽しいなぁ!」

 残り1kmを切った。鼓動が駆け巡り、身体は降ってきた破片や有翼種達の猛攻によって傷を負ってしまったが、その程度の事など関係ない。このチェレーロを疾走し命を懸ける以上に愉しき事などないのだから!

「後、もう少し…」

 残り500mさすがにお相手が学習して来たのか、足場であるレールを壊し、連携して逃走先を誘導して来るようになっていた。少し面倒だが後200m稼げばカゲヨイの有効射程に入る。そうすればカゲヨイが仕留めてくれるそう考え、次の足場を探し次のレールへと飛ぶその瞬間…突風が突き抜ける。有翼種のうち一体がオリオネルへと突撃する。オリオネルは空中に居るためか避ける事が出来ず、最低限の受け身は取るがチェレーロの底へと叩き落とされる。

「グッ、ル・セレト!浮かべ


 起動句を叫び浮遊具を起動させる。腰にぶら下げていた浮遊石をネックレス型に加工された魔道具が光を放ち、オリオネルの落下スピードがさせた。

「あ、やっべ。ケチったのはマズかったか」

 そう言いながらもオリオネルは魔道具の効力が消える前に慣れた手つきで片方の短剣をレールに巻き付けて、ターザンロープの要領でレールへと戻り、そのままレールを駆け上がる。


「カゲヨイ、大型二体連れてきたぞ!」

 ひと悶着あったがこれで残り300m。後はカゲヨイに任せればいい。オリオネルは引き寄せる事を辞め、屍骸を回収する用のフックを構える。



 下の方から、建物が崩れ落ちてゆく音、有翼種たちが羽ばたき追走する音が聞こえてくる。ネルさんが空葬を行い、疾走劇を繰り広げているのだろう。今回持ってきた長距離用の術式を刻んだ狩魔矢は予備を含めて八本。一度外せば再び矢を放つのに時間が掛かり、此処まで来てしまう。その為矢を外す事など一度たりとも許されない。カゲヨイは息を深く吸い、狙撃の体勢へと入り、これからやってくる有翼種を待つ。決してネルさんに誤射しない事だけは頭に留め、目に魔力を巡らせ、ただその時を待つ。

「カゲヨイ、大型二体連れてきたぞ!」

 来た。カゲヨイの目にはオリオネルとそれを追いかけてきた標的を捉える。予想以上に数が多い。追尾の魔術を使って楽に仕留める事を一瞬考えるが、今回は納品がメインだ。魔術を使えば胴に当たってしまう可能性も考慮し、その考えを取り消した。カゲヨイは頭を空っぽにして矢を強化し遠くへ飛ばすための魔術を唱え始める。

ラ・ヤテ・ザンレトイ矢よ風を纏え

 詠唱を唱え終われば、狩魔矢に風が纏わりつく。そのまま標的である一体の大型有翼種の頭向け照準を合わせ矢を放つ。矢は轟音と共に飛び一直線で頭を綺麗に跳ね飛ばした。流れるように続けてもう一体へ矢を放ち、大型有翼種の頭を貫く。これで此方の役目は終わった、後はネルが回収してくれるだろう。深呼吸を吸い、オリオネルのもとへと降りて行った。


 

 上の方からカゲヨイの詠唱が聞こえる。一本の風を纏った矢が有翼種の頭に吸い込まれるようにヘッドショットを決める。続けざまにもう一体の頭を貫き、有翼種達は、糸が途切れた操り人形のように力なく途絶え、ゆっくりとチェレーロの底へと落ちていく。ボラティーノ達は体内に浮遊石を有しているため、死体が浮遊する事が多い。だが有翼種はその翼を持って飛ぶためか、ボラティーノの中ではそこまでの浮遊石を有していないからか、その力は落下速度を減速させるだけにとどまっているようだ。


「よくやったカゲヨイ!回収はこっちでやる」

 大型二体が落ちて回収出来なくなる前にフックを投げ、その巨体に突き刺す。4~5mはある巨体をロープで引っ張り、そのまま近くにあるレールにぶら下げた。

「ありがとうございます。ネルさん回収もやってもらって」

「それはアフターサービスってヤツだ。さっさと持ち帰ろう」

「おやなぜ二体なのです?依頼は一体だったはずですケド」

「さっき使った浮遊具分だ。二人いれば大型でも持ち帰るれるだろ」

「おや、珍しいですね、ネルさんがミスをするなんて」

「歳かもしれねぇな。あ~嫌だなー年取るって」

「まだまだ行けるに決まってますよ、ネルさんまだ30行ってないじゃないですか」


 そう二人は雑談でもしながらレールに掛けられた有翼種を運び、上にある納品用魔導式エレベーターに乗る。エレベーターが上昇するなかオリオネルが口を開いた。

「あ、俺双剣下に置いてきぼりしてるわ…」

「え、本当です?あれオーダーメイドで、ギミックとかも組み込んでいる逸品でした

 よね。馬鹿じゃないですか?」

「あぁ、今回の俺の取り分を軽々と超える金額だったはずだ…」

 オリオネルはため息をつきあの双剣に掛かった金額を思い出し、顔が青ざめる。

「すまんが双剣を取りに行ってくる。金については後で取り立てるからよろしくたのむ…」

「わかりました。チェレーロの底に落ちてないといいですね。」

 

 置いてきた双剣の回収しに戦闘域の下層へ向かう。時間が経ったのかチェレーロは常闇へと染まってゆく最中であった。

「そろそろ幽玄種が来る時間だ、急がないとな」

 幽玄種とはアステロイドに宿る妖精みたいな存在であり、常闇の時間帯に上がってくる者たちのことである。たしか」


 たしか置いてきた双剣はどっかのレールに引っかけてそのままになっていた筈だ、急いでさっきの場所へと降りて行く。

「何処だ…何処だ…はぁ、はぁやっと見つけた」

 双剣は幸いな事にレールに引っかかったままだ。足場が殆ど消えていたためかすぐに見つかったが…厄介者の気配が、ノイズのような音が聞こえてくる。

「はぁー来ちまった。この音レイス居るよなぁ、殺らないとダメだよなぁ」

 レイス、幽玄種の一種で「見つけたらすぐに殺れ」と言われるほど、グライダーの中で最も嫌われている厄介者だ。火を吐いてくるため、燃えやすい木を使って建てられている戦闘域では何度補修屋の困らせた事か。

『ラァ゙ーヴィス、ラァ゙ーヴィス?』

 ノイズ掛かりの不快な声聞こえる、レイスだ。オリオネルは回収した双剣を構え、レイスに向かって走る。

「相変わらずよくわからねぇことを呟くな、とりあえず死んでくれ」

『ブァレ、ツェレン』

 レイスはそう囁くと、焔を纏い、その炎をオリオネルに向けて放った。オリオネルはその炎をに躱し、レイスに向け一閃。振るった刃はレイスの体を断ち切り、動かぬ鉱石へと化して静止した。

「はい終わり、回収して帰るか」

 中くらいの鉱石を袋に入れて、帰路に就こうとするとふと下の方に見える存在が目に付く。ルナーレ輝ける星、チェレーロにて私たちを見守るモノ。俺がグライダーになった理由。昔、絵本で見た輝くあの存在に憧れてチェレーロでの活動が出来るグライダーとなった。

「嗚呼、今日も綺麗だ。また今度酒でも持ってきて酒盛りと行こう」

 常闇のチェレーロにて敷物を引き、ルナーレを見物しながら酒を飲むのが格別に上手くて、たまにやるが大体ボラティーノに雰囲気ぶち壊されるまでがセットだ。かけ足で戦闘域を上り、エレベーターに入って一息つく。


 ギルドにて達成報告が終わったであろうカゲヨイを探していると、カゲヨイは酒場にて何か嫌な事があったのか酒を飲んでいた。

「おー居たな、カゲヨイ」

 オリオネルはカゲヨイに話しかけ、隣の席に座る。

「お、遅かったですね…こちらは少しギルドとのお話がありまして、まぁ本当に

 色々在りましたよ…」

「いやーこっちは厄介者に遭遇してな、だからちょっと遅くなっちまった」

「この時間帯ですとレイスですか?確かあの幽玄種は見つけたら即座に殺れとギルドから言われてますからねぇ」

「まぁそれはともかく、用件は報酬についてですよね?」

「此方が報酬の六万ディナーロですよ」

 カゲヨイはオリオネルに向けて銀貨6枚を投げ渡した。

「ん、確かに受け取った」

「で、ギルドで何があったか聞かせてくれるよな?今日色々とやって疲れたかな、その話を酒のつまみして俺も飲みたいんだよ」

「すみませーん!エール一つともものタレ一つ」

「はーい!了解でーす」

 店員が明るい声を上げ、メモを取り厨房へ行った。


「じゃあ聞かせてくれるよな。カ・ゲ・ヨ・イ?」

「えぇわかりましたよ、わかりましたよ!話せば良いんでしょう」

 カゲヨイは声を荒げ、拳をテーブルに叩きつける。こりゃ相当参ってるようだ。

「今回ギルドが私に対して強硬手段取ったのは元々階層国クイントから、国で一番の

学園を創設する為に大量の浮遊石が必要になったそうで、ですから片っ端から買い取っていたのですがそれでも納期に間に合わなそうになったのが始まりだったようで」

「数年前から妖精級以上の浮遊石の買い取り額が上がってたのってそうゆう事だったんだな」

 浮遊石には、品質を分かりやすくし、商談をスムーズのする為のランク付けがされている。下から順に魔獣級、妖精級、精霊級、大精霊級となっており、魔獣、妖精級はよく市場に出回っているが、精霊級、大精霊級は滅多に市場に出ない一品だ。

「だが、結構な数の浮遊石が買い取られた筈だ。それでも足りないとか、いったいあの国はどんな学園を作ろうとしたんだ?」

「えぇ、何でも空に浮かぶ島を作ってそこに学園を作るそうで、それ故に相当な量の浮遊石が必要になったようらしいですよ。」

「うわーバカな事を考えるモノだなぁあの国も、いやこの階層を代表する国だ。そうゆう事もやるか」

 学園を立てる為に浮島を作るとなると、何百万の浮遊石が必要になるだろうか。この都市は中立を貫いているが、階層国クイントからの支援のもとに成り立っている。故にギルドはクイントの要求を断れない。

 そう、事のあらましを聞いていたら店員が料理とお酒を持ってきた。

「失礼します。注文のエールともものタレをお持ちしました。」

「おっ来たな、そこら辺に置いといてくれ」

「了解しました~ではごゆっくり~」

「さて酒も来たし、さっさと本題を話せよ」

「あーはいはい、分かりましたよ。で、何処まで話しましたっけ?あぁギルドがなぜ

 強硬手段を取ったかを話しましたね。」

「まぁ私はネルさんと別れた後ギルドで…はい、色々あって」

「ん、何があったって?」

「私が色々と貯めてた理由って『ゴールドになりたくない』からじゃないですか」

「あーそうだな」

「ギルドは私が貯めこんでいるを知って…いや、私が精霊級の浮遊石を持っているこ

 とを知り、それを売ってくれないかとせがまれたんです。」

「ちょっとまて、お前眷属種を狩ったのか⁉」

「三か月前に大怪我した時にね、あの時眷属種に逢って命からがらに逃げてきたって言いましたけどアレ嘘です。本当はギリギリの所で勝利してました。」

「何となく理解した。お前、浮遊石だけ取ってきて後は全部捨てたんだろ。勿体無い、いい武具の素材になっただろうに…」

「しょうがないじゃないですか!あの時は…ギルドにバレたら強制的にゴールドに格

 上げされるって思ってたんですから。」

「で、ギルドにそれを売ってくれと頼まれたんですけど、ゴールドに上がりたくないからって断ったんですケド、そしたらギルドの職員にこう返されましてね…」

『えっ、ゴールドの昇格試験って痣付きでも強制じゃないよ?規則ちゃんと読ん

 だ?』

「嗚呼~今思い出しても恥ずかしい!本当に忘れたいですよ…」

「うん、まぁドンマイ。今日は飲もう。」

 全然笑えねぇ話だ。明日になったらギルドの中で笑い話にされるんだろうなぁ。カゲヨイの方を見れば、ジョッキが四杯も空になっていた。

「ネルさんも疾走狂の件こと話してくださいよ。私だけ話して終わりはおかしいですよねぇ、オリオネル、サン?」

「はいはい、話すさ。疾走狂の件だろ。まぁ簡単に言えば、狂風が吹きふさぶ常闇のチェレーロに行って眷属種とやり逢う羽目になって命からがら逃げたって話。」

「うわぁーそれはそう言われても仕方の事じゃないですか、何でそんな最悪精霊種も出そうな状況で行きましたね。」

「別におかしくない事だろ?『妖精掃討会』とかも荒れ狂う常闇のチェレーロに行く事だってあるじゃねぇか」

「ダウト、あのクランは例外に決まってるでしょう!あそこはゴールドのグライダーが所属してますし、この天城都市アンダー内で一番の宵戦のプロじゃないですか!」

『妖精掃討会』は約十数人程度のグライダーが所属しているクランで宵戦を専門としている所だ。常闇にて大規模な空葬を一ヶ月に数度主催しており、有名どころのクランだ。

「ちっ、やはり言い訳にならねぇか…あの時俺はルナーレを鑑賞にチェレーロに行ってんだけど、その時はまだ荒れて無かったんだよ。」

「あぁルナーレを見に行ってたんですね。でもまだ荒れて無かったのなら帰れたはずでしょう?まさか…酒を飲んですか⁉」

「そうなんだよ、酒飲んでたから気づかなくてなー運悪く眷属種とかち合ってしまって命からがら逃げたわけ。」

 眷属種とは精霊種に使える者たちのことだ。現れる条件などのことは不明だがチェレーロが荒れている時に現れる事だけは分かっている。ボラティーノの中でも上位に位置する化け物だ。

「はぁー今日は飲みましょう。こうゆう時酒が強いのはダメですねぇ酔って忘れたいのに。」

「そこは前職を恨めよ、前の仕事上毒には強いんだろ…」


 二人は久しぶりにあったからなのか、酒はどんどん進み時は過ぎていく。ふとグライダーの証でもある懐中時計を見れば時計の針が1時を示していた。視界がぼやけて、音が遠い。このまま眠ってしまいそうだ。

「きょうは、これでおひらきにしようぜ…」

「は・・い、今日は・・・・終わり・・・・ね」

 そのまま俺は眠気に耐え兼ね意識を落とした。



「そういえばネルさんの家知りませんね、私」

「ネルさーんアナタの家知りませんので、これから私の家へ行きますね」

 ネルに声をかけてみるが、返事が聞こえない。耳を済ませれば微かに寝息聞こえてくる。眠気に耐え兼ね寝てしまったようだ。

「あぁクソ重い…」

 カゲヨイは悪態をつきながら重たい体を支え、帰路へ行く。


「なぁかげよい、もしおれがしんだらかげよいはみとってくれるのか?」

 突然、目を覚ましたネルがそんな事をが言い出した。死後の事を言いだすなんて、寝ぼけてるなーと思いながら、俺はこう答えた。

「突然何を…えぇアナタには恩がありますからね、看取ってあげますよ」

「あぁよかったぁ、ひとりでしぬのはいやだから、な」

 ネルとはたまに飲みに行ったり、一緒にクエストを受けたりしているが、そんな事を考えている人だとは思わなかった。何だったら一人、底へと落ちて行く人だと思っていたのに、きっとこれは酒が起こした気まぐれだ。片隅にある思考が酒で浮かび上がっただけなのだろう。俺はオリオネルに冗談交じりで言葉を紡ぐ。

「オリオネルさんは一人では死にませんよ、アナタはひとりで最期を迎える人ではないです。何だったらあなたが死ぬときに私も一緒に落ちてあげましょうか?」

 あー明日になれば羞恥心で死にそうになってそうな、キザったらしい台詞だ。

「じゃあ…やくそくだな」

「えぇ約束です」

 カゲヨイはオリオネルを支えながら街道を歩いて行く。いつか天に落ちる空葬されるまでグライダーたちはチェレーロを駆けて行くのだろう。いつか終わりを迎えた時、あの蒼き世界の果てはどんな景色を見せてくれるのか。


 翌朝、二人はカゲヨイの自宅で目を覚ます。片方は帰ろうとした時以降の記憶が飛び、もう片方はベットの上で頭を抱えていた。

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