第4話 あなたの幸せは、私の幸せ

// SE アラームの音


「さん……に……さん……」// 徐々に聞こえてくるような形で


「お、に、い、さ、ん」 //耳元でささやきかけるように


「困ったなぁ。そろそろ起きないと会社、間に合わないんじゃないか?」


「それじゃあ……こういうのはどうだろう」


「ふぅー」 // 耳元に息をかける形で


// SE 布団から急に起きるような


「あ、起きたみたいだね。おはよう。お兄さん。ふふっ」


「もう少し寝顔を見ていたかったけど残念。御社がそうはしてくれないらしい」


「朝ごはん、もうできてるから着替えておいで」


// SE 遠ざかる足音

// SE 着替える音

// SE 机に食器を並べる音


「お兄さん、いつもぎりぎりに起きてまともに朝食も摂ってなかっただろう?」


// SE カップにコーヒーを注ぐ音


「幸せは心の健康から、心の健康は体の健康から、というものだよ」


// SE エプロンを脱ぐ音


「はい、召し上がれ」


「~~♪」 // 楽しげに


「美味しいかい?」


「それは嬉しいな。コーヒーもインスタントだけど、合うやつを選んでみたんだ」


「朝から元気そうなお兄さんを見れて、私も幸せだよ。……え?毎日作ってほしい?」


「もちろんそのつもりだけど、その……」 // 語気が弱まっていく感じ


「なんだかプロポーズみたいで、少し恥ずかしいね。ふふっ」


「でも、それもなんだか悪くないかもね。なんて……って、急に吹き出してどうしたんだい!?」


// SE 布巾で机を吹く


「君が最初に言い出したことじゃないか」


「誇大妄想?まぁ、そうといえば、そうなのかな」


「でも、実際悪くない話じゃないかい?」


「帰ってきても私がいるし、お兄さんのごはんだって毎日作ってあげるし」


「私も、お兄さんと一緒に居れるし」


「まぁ、でも早すぎるっていうのはお兄さんの言う通りだよね」


「天界に帰らなくていいかって?たしかに帰りたいとは思ってたけど……」


「あそこは私のことなんて必要ともしてくれないし、なんせ追い出されてるからね」


「それよりも、私を必要としてくれているお兄さんの傍にいる方が、私はずっと幸せなのかもしれないって思ってね」


「ちょっとちょっと、反応薄くないかい? もっと嬉しくなってくれてもいいんだよ?」


「準備ができてない……?それって逆に、準備さえできていれば良いってことかい!? 」


「あはは、ごめんごめん。からかいすぎちゃったね」


「あら、全部食べてくれたみたいだね。ありがとう。うれしいよ」


「もう出るのかい?ちょっと休憩してからでもいいんじゃない?」


「ゆっくりしたら眠くなっちゃう?お兄さん、さっきなに飲んだか覚えてる?」


「ま、いっか。あぁそういえばこれ、お弁当も作ってみたんだ。持って行ってくれたまえ」


「これもぜひ食べてくれると、嬉しいな」


「じゃあ、行ってらっしゃい。帰ったらお弁当の感想、聞かせてくれたまえよ~!」


// SE 玄関の閉じる音


「……ふぅ」


「それにしてもお兄さん、どうしてあんなに顔が赤かったんだろう」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

// SE 玄関の開く音

「おや、今日は結構遅かったね。お帰り、お兄さん」


「別に責めてるわけじゃないんだ。ちょっと心配しただけさ」


「お、お弁当もちゃんと食べてくれたみたいだね。どうだった?」


「うん、うん……うん!それは良かった! けど、上司にからかわれた……?愛妻……?」


「そうか、外堀から埋めていけば……あぁいやいや、なんでもないさ。彼も早とちりな性格なんだね」


「そうだ、お兄さん。今日はお夕飯とお風呂、どっちにする?」


「お風呂ね。うん。こんなに雪も降ってればそりゃあ身体も冷えるよね。じゃあ私も準備してしまおう」


「え?何言ってるんだい?準備だよ準備。入るんだろう?お風呂」


「お背中、おながしいたしますよ」 // 少し小悪魔的に


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


// SE お風呂の扉の開く音

// SE タイルを踏む足音

// SE 水滴の落ちる音


「大丈夫大丈夫、タオルも巻いてるし、そもそも見られて困るものでもないよ」


「じゃあまずはそうだね、頭から洗っちゃおう」


// SE お湯をかける音

// SE シャンプーで頭を髪を洗う音


「おかゆいところはございませんか~?」


「もうちょっと強く?お兄さん、それは頭皮によくないぞー?」


「ちょっとちょっと、そんなに顔を下げられると洗いずらいじゃないか。ん……よいしょ」


// SE 心音


「えぇ? どうしてそんなに……当たってる?あぁごめんごめん。そういうことだったのか」


「そういえばお兄さん。今日のお弁当、なにが一番おいしかった?」


「おぉ、卵焼き! あれは私の自信作なんだ。気に入ってくれるとはおもっていたが、そういってもらえるとうれしいよ」


「形?あぁあのハート型かい?素敵なサプライズだったろう?」


「あはは、それでからかわれたんだ。それじゃあ今度、お兄さんもこう言ってみないかい?」


「俺にも春が来たんですよーって」


「ふふっ、見れないのが残念で仕方がないよ」


「~~♪」 // 楽しげに


「それじゃ、流しちゃうね」


// SE お湯をかける音


「それじゃ、次は後ろも洗っちゃおうか」


// SE 背中を洗う音


「おっきいね、お兄さんの背中。そりゃあ私がお兄さんの服着たら、ああなるわけだ」


「んしょ、んしょ……」


「お兄さん、けっこう肩凝ってるねぇ。」


「うん、うん。たしかに、仕事中はずっとパソコンとにらめっこだもんね」


「それじゃあ僭越ながら私が……って」


「あはは、滑って全然ほぐせないや」


「はい、次おてて上げて~」


「うん、あわあわになったね。それじゃあこっちも流しちゃおう」


// SE お湯をかける音


「それじゃあ最後にま……」


「前は自分で洗う?」


「別に私は気にしないって」


「俺が気にするからって?」


「そ、そっか……」 // 少し寂しげに


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


// SE 湯船に足をつける音


「ふぅ、やっとひといきつけたね。やっぱり寒い日は暖かい湯船に限るねぇ」


「二人だから狭い?まぁたしかにそうかもしれないけど……私は別に気にしないよ?」


「でも、広いお風呂も悪くないかもねぇ……引っ越すかい?いっそ、引っ越さないかい?」


「そのうち……?おぉ、ということはお兄さん、意外に乗り気だね?」


「お兄さんはどんなおうちが良い?」


「ここより広くて~、うんうん。たしかに。収納!たしかにもう少し大きい収納もほしいねぇ」


「私はねぇ、コンロがもう二つくらいあると嬉しいな、そしたらお兄さんにもっといろんな料理作ってあげられるもの。ついでにベランダももっと大きいと嬉しいね。二人分の洗濯物を干すのにあそこはちょっと、狭すぎる」


「何年後になるかはわからないけど、楽しみだね」


「もう住む気満々じゃないかって?まぁ、実はもうそれしかなくなってしまったというか……」


「私の話、ちょこっとだけでも聞いてくれるかい?」


「ありがとう」


「実はお兄さんが仕事に行ってる間にね、ちょこちょこ大天使様とお話をしてきたんだ」


「近くに大きな教会があるだろう?そうそう。あそこならお話できないかなぁと思っていってみたらまさに、ビンゴだったわけなんだ」


「あそこの公衆電話から繋がるとは私も思ってもなかったよ」


「それでね、クビをどうにか取り消してくれないかーとか、天界に帰るだけでもーって話してみたけどやっぱり……」


// SE 水滴の落ちる音


「ダメだった」 // 悲しそうに


「もう私は帰れないみたい」


「だから、その……」


「無理やり押し掛ける形で最初はこうなってしまったんだけどさ……」


「数日だけでもなんて言ってしまった手前でもあるんだけどさ……」


「ずっとずっと、これからも一緒に居させてほしいな、なんて――ね」


「あぁごめんごめん、君の都合なんてひとつも聞いてないのにこんなこと言っちゃって……今のは聞かなかったことに……」


「どうしたんだい急に?さっきまで背中ばっかり向けてたのに。面と面を合わせて」


「え?」 // 驚いたように


「居て、いいの?」 // 様子を窺うように


「こんなダメダメな天使だけど、居ていいのかい?」


「うん、うん」


「お兄さんも、私が笑ってくれると嬉しいって……?」


「し、幸せって……!」 // 少し涙ぐみながら


// SE 水滴の落ちる音

// SE 心音

「お兄さん……!お兄さん……!」


「私、今とっても嬉しいんだ。そしてとってもとっても、幸せなんだ。嘘じゃないよ」


「聞こえるかい?私の心臓の音」


「嬉しくて嬉しくて、今にも飛び出してしまいそうだよ」 // 涙ぐみながら


「ありがとう、本当にありがとう。お兄さん」


「そんなお兄さんが私はだい……」


「あれ、お兄さん?どうしたんだい?そんなにふらふらして……それに顔真っ赤だけど」


「あれ、もしかして、のぼせてないかい?」

// SE 水滴の落ちる音



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


// SE うちわで扇ぐ音


「まさか冬にのぼせるなんてねぇ」


「私もあの時は気が動転してしまっていて……申し訳ないことをしてしまったよ」


「あぁ、大丈夫大丈夫。お詫びに少しだけでも私の膝枕を堪能してくれたまえよ」


「そのまま寝ちゃっても大丈夫だから、お兄さんはゆっくりしてて」


「明日お休みなのは不幸中の幸いだけど……そもそも私という天使が居ながら、何で不幸なんて言葉を使うことに……ぐぬぬ」


「あのねぇお兄さん……のぼせたことは間違いなく不幸でしょ。なんでそれも幸せのひとつなんて言えるんだい?」


「君がいつまでも居てくれると思うと嬉しくて……?どんなことも今は幸せ?」


「ふふっ、なんだい?それ。嬉しいことを言ってくれるじゃないか」


「でも、そうだね。どんなことでも幸せに感じられるんだったら、それでいい」


「いや、むしろ、それがいい」


「これからはね、もっと幸せなことがいっぱい待ってるんだよ?お兄さん」


「明日は今日より幸せになって、明後日はもっと、来年の今頃にはもっともっともーっと、君は幸せになるんだ」


「その隣に居られるなんて、私はなんて幸せ者なんだろうね」


「あはは、嬉しいのに泣けてきてしまったよ」


「明日はなにをしようか。おうちでゆっくり?それともおでかけがいいかな。人間界なんて仕事でしか降りたことがないから、どんなところでも私は楽しいよ」


「たしかに、行ったことないからっていうのもあるよ?でもね、それだけじゃないんだよ」


「お兄さんも一緒だからね」


「って……寝ちゃったか。ははっ」


// SE 髪を撫でる音


「ねぇお兄さん、聞いてるかわからないけど、これは今までも、これからも私がお話することは全部、ほんとにほんとに私の本心なんだから」


「私はまだまだ未熟な天使だからさ、君にこれからも迷惑をかけてしまうかもしれないし、不安にさせてしまうかもしれない」


「これはわがままになっちゃうのかな?それでもさ、私はお兄さんと一緒に居たい。お兄さんの笑顔がみたい。幸せなお兄さんがみたい。その隣に、立っていたい」


「お兄さん。それを許してくれるかい?」


「なんだかお願いばっかりだね。私。ふふっ」


「そんな私が言っても信用ならないかもしれないけどさ、この言葉だけは信じていてはくれないかい?」


「お兄さんには、幸せになる権利がある」


「それじゃ、おやすみ」


// SE 頬にキスをする音

「私の大好きな、お兄さん」

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駄目駄目天使のシアワセカツドウ~どうして私がクビになったんだい?~ テルミ @zawateru

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