第3話 これぞ天使の抱擁……なんて

「ふぅ、いいお湯だったよお兄さん。それと、パジャマ貸してくれてありがとね」


「ワイシャツはパジャマじゃない? 切羽詰まった天使さまにはこれでも立派なパジャマさ!そこまで変わらないって」


「それに、どうだい?お兄さんのワイシャツ大きいから、ワンピースみたいでかわいく見えないかい?」 // 少しからかうような感じで


「でしょう!そうでしょう!こんなかわいいワンピース天使さまなんて、お兄さんくらいしか見れないよぉ!」 // テンション高めに


「でも……ちょっと冬だとさすがに冷えるねぇ。ということで、えいっ」


// SE 衣擦れの音


「お兄さんの隣にお邪魔しちゃおうかな」


「ちょっと、離れないでくれよぉ。さっきはあんなにくっついてたのに……」


「あれは特別? 今だって私とお兄さんだけの、特別な時間じゃないか」


「恥ずかしがらなくてもいいさ、ね、もっと一緒に居よう」


「腕くらい組んだって別にいいだろう?」


「ありがとね、お兄さん」


「あったかいなぁ」


「ねぇお兄さん。君は今、幸せかい?」


「うん、うん、そっか、わからないか。そうだよね。急に言われても、よくわからないよね」


「でも、元気がでた?実はそれ、幸せって言わないかい?」


「でもそれにしても、よかったとかった」


「実は私はね、今すごく幸せなんだ」


「もちろん、最初は不安でいっぱいだったよ?いきなりクビなんて聞いたことないだろぅ?これ私、訴えたら勝てるよね」


「それでもね、お兄さんが私の料理で喜んでくれたり、心を開いてお話してくれたりしてね。あぁ私、受け入れられてるんだなぁって思って、すごく嬉しいんだ」


「いや、嬉しいというより幸せだね、これは」


「私のおせっかいでお兄さんが幸せになってくれたら、私はもっともっと幸せになれるかも」


「……どっちが幸せにしてるのかもうわからないって?」


「ふふっ、確かにね。でもね、私にとっての幸せって、そういうものなんだ」


「私、誰かが笑顔になってたり、幸せだなぁって思ってくれることがすごく好きなんだ。私にとっての幸せって、いわばそんなもの」


「だから、お兄さんが幸せになってくれたら、私も幸せになれる。それでまた、私は兄さんをもっともっと幸せにして、私ももっともっと幸せになれる」


「まさに幸せの永久機関。win-winってやつじゃないかい?」


「うん、そうだね。だからお兄さんはこれから、幸せになる未来しかないんだよ。だって私が居るんだもん」


「幸せにする手段は選んでほしい?って、まだ御社爆破プランのこと覚えてたのかい?」


「まぁそれは……たしかに、善処するよ」


「さ、もう日付も跨いじゃったね。そろそろお布団の準備……と、」

// SE 遠ざかる足音

// SE 押入れを開く音


「これがお兄さんがいつも使ってるお布団だよね、それで私の……私の……」


「あの、お兄さん」 // 少し窺うように


「差し支えなければ聞かせてほしいんだけど……」


「お兄さん的に添い寝って、ありかい?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


// SE 掛け布団のずれる音


「……」// 息遣い


「お兄さん大丈夫?窮屈じゃない?」


「ちょっと……か。本当にごめんねぇ。こんな天使で」


「でも今日はなんだかこれでいい?嬉しいこと言ってくれるじゃないか」


「でもさお兄さん、こっち向いてくれてもいいんじゃないか?背中しか見えないじゃないか」


「どうせ寝るんだから?またまたお兄さん恥ずかしがっちゃって」


「さっきより身体、熱くなってないかい?ほら、お顔みせておいで~って、ごめんごめん」


「ふふっ、これじゃあくっついたせいか、ドキドキしてるせいかわからないね」


「まぁ、どっちでもいっか。それじゃ――」


「おやすみ。お兄さん」 // 特にやさしく


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……」 // 少し困ったように


「お兄さんの寝相って結構悪いんだね………」


「結局こっち向いてるし、抱きついてくるし……ほんとうはこうしたかったんじゃないか?」


「私の前なら何も隠さなくても良いのに、うん」


「出会ってまだ数日だもんね。そりゃあそうか」


「でもね、いつかはもっと素直になってくれると、うれしいな」


「ふふっ」


「それにしても、かわいい寝顔だなぁ。本当に子どもみたい」


// SE 頭をなでる音


「お兄さん。ほんとうに暖かい」

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