第2話 あなたと食べる、幸せの味

// SE 玄関を開ける音

// SE 食材を煮込んでいる音


「おかえり、お兄さん。今日もお疲れな感じだね」


「何してるって……そりゃあもちろんお夕飯の準備だよ。お腹、空いているだろう?」


「もうちょっとでできるから、ちょっと座ってゆっくりしてくれたまえよ」


「変な感じって……?それってもしかして、帰ったら可愛い天使様がいてくれることに対してかい?ふふん」


「それを変で片付けるんじゃないよ。安心とか嬉しいとか、幸せとか、そう呼んで欲しいものだね」


// SE ガスコンロの火を止める音

// SE 近づいてくる足音


「今日のお夕飯はカレーだよ。ゴロゴロのジャガイモが入ったやつ。お兄さんはこれが好きなんだよね」


「……え?なんで知ってるか? そりゃあもちろん、天使ですから。どやぁ」 // 少し誇らしげに


「それじゃあ、一緒に食べようか。おててとおててを合わせて」


「いただきます」 // 落ち着いた、優しい感じで


「……」 // カレーを食べている様子


// SE スプーンと食器の当たる音


「うん、美味しい。我ながらやっぱりいい腕を持ってるね」


「お兄さんのお口にも合ったかな? って、そっかそっかぁ、涙が出るほど美味しいと! それは嬉しいなぁ!」


// しばらくの沈黙

// SE スプーンを置く音

// SE 畳のひざが擦れる音(だんだん近づいてくる)


「なにか、辛いことでもあったのかい?」 // 小声で優しく


「言いたくなかったら言わなくても良いよ。でも話してくれたら私も、お兄さんの力になれるし、嬉しいな」


// SE 布と布が擦れる音


// SE 心音


「よしよし。ゆっくりでいいよ。どうせここには私とお兄さんしか居ないんだ。誰も見やしない。落ち着くまで、こうしてあげるからさ」


// SE 髪をなでる音


「辛かったことも、悲しかったことも、全部私が受け止めてあげる」


「違う、そうじゃない?うれ……しくて?」


「うん、うん……うん」


「そっか。誰かの手料理なんて、久しぶりだったんだね」


「いやいや、謝らなくていいさ。別に、お兄さんは何も悪いことなんかしてない。むしろ、そこまで喜んでくれて嬉しいよ」


「実家を出てからは毎日コンビニごはんだったもんね。でも安心して、これからは私が作るから」


「申し訳ない? 気にしなくていいさ、そんなこと。私がやりたくてやってんだから」


「それに、最初に私は言っただろう?あなたに幸せをお届けしに参りました。ってね」


「君は少し、溜め込み過ぎてしまう癖があるね。でも、これからは安心してくれていいよ」


「私はここに居るから。さ」


「いつかは居なくなっちゃうでしょって?」


「だって私、クビになったんだよ? 帰れるかもわからないんだ」


「だから、ね」


「考えなくていいんだよ。今はそんな、いつかもわからないこと」


「私がそんなことも考えられなくなるくらい、お兄さんを幸せにしてあげる」


「もっとおいしいものだって作れるようにするし、お兄さんと知らないどこかで思い出を作っても良い。お兄さんが自信をもって、おれはしあわせものだー、なんて言えるくらいに。変えてみせるよ」


「ちょっと、何笑ってるんだい?私は本気だぞー?」


// 少し間を空ける


「落ち着いたかい?」


「うん、よかったよかった」


// SE 衣擦れの音


「よし、じゃあ、冷めないうちに食べちゃおう。安心してくれたまえよ。おかわりもいっぱいあるからさ!」


「ははっ、お兄さん、目赤くしながら食べてる。かわいいね」


「いつものカレーと比べてすっごくおいしい?お兄さん、私の料理をそこらのカレーと比べられちゃあ困るよ」


「私の作った君好みのカレーなんだもん」


「……それだけじゃない?けど、どうしてかわからない?」


「ふむ、どうしてだろうねぇ。使ってる食材だってそこまで変わらないだろうし、ちょっと君好みにしてみただけなんだけどね」


「魔法?下っ端天使は魔法なんて使えないよ。人間と区別して呼ばれてるけど、実はそこまで変わらないんだ」


「となると……なるほど?」


「ははっ、そういうことか」


「私はわかったよ。なんでこんなにこのカレーが美味しいのか。どうしてか君はわかるかい?」


「食べ物の味って言うのは、なにも食材それだけで決まるものじゃないんだ。それじゃあ教えてあげよう」


「誰かと食べるっていうものは、何よりも勝るスパイスなんだよ」

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