あなたは解釈違いです。

青白

朝日川あさひかわさん。あなたの顔が好きなの。でも性格と振る舞いは下品で意味不明で大嫌い。だから他人を演じて、私と付き合ってくれないかしら」

「ぶっ殺すぞ」

 今まで受けた史上一番最悪な告白だった。引っ叩きそうになったのを堪えたのは褒めてほしい。

 朝日川英美えいみは一旦息を大きくついて、目の前にいる彼女を睨む。相手は平然と無表情を崩さない。

「……箱盾はこたて。あんたさ、あたしに何言ったか自分でわかってる? 冗談にしてもタチ悪くない?」

「本気だし、要件はもう伝えたわ。それで理解できないほど、あなたの頭って悪かったりする? それなら今の話はなしで」

「よしわかった。殺す。歯、食いしばれ」

 その綺麗な顔を吹っ飛ばそうと、グーを握った手を振りかぶる。

「毎週末、土曜日だけデートして。一回五万円、終わったその場で手渡すわ」

 そう口走られて、殴り飛ばす寸前で英美は手を止めた。

「一回五万……? 土曜だけで? ちなみに時間は?」

「十一時から、そうね十五時までにしましょうか。延長なし」

「……もうちょい金額に色つけることは?」

「足りなかった? じゃあ十万円で」

「いや、いい! 五万円で!」

 平然ととんでもない金額を提示してくる彼女に、逆に英美が怖気付いた。

「それは引き受けてくださるってことでいいのかしら」

「ほんとに払えんの? あたしのこと馬鹿にしようとしてない?」

「言うと思ったから、これ前金」

 彼女が封筒を差し出してくる。おそるおそる受け取って中身を覗けば、折り目もない一万円が五枚入っていた。

「……わかった、引き受けるけど。あたしが嫌になったらすぐやめるかんな」

「それで構わないわ。必要なものは全部こっちで手配するから。じゃあ行きましょうか」

 彼女が手招きして歩き出す。訳もわからず付いていった。

「は? どこ行くんだよ」

「当日あなたが着る服を用意するから、寸法を測らせてもらう。あと設定書渡すから。それ読んで、ちゃんと演じてね」

 横を歩く表情の変わらない顔は本当に何を考えているかわからない。が、この後彼女のどでかい屋敷に連れて行かれ、使用人らしき女性に丁寧に英美は寸法を測られた。

 箱盾七緒ななお。彼女は名高い箱盾コンツェルンのご令嬢で、英美のクラスメイト。今の印象は、完全なイカレ女だ。

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