3
「私、フードコートって憧れてたの。一度も来たことなかったから」
行く友達もいないだろうしな、と言うのを英美は笑顔で引っ込める。
それなりに規模のあるフードコートは、お昼時で混雑していた。だが、こういう場所は友人たちとよく来るので英美は慣れている。
「あた……私が注文してくるから、七緒は席を取っておいて。リクエストはある?」
「私! ラーメンを食べてみたいわ! 一度も食べたことないの!」
……マジかこいつ。呆れる。が、表情にはおくびにも出さず微笑みかけた。
「わかった。種類はどれにする?」
「種類があるのね! お姉ちゃんにお任せするわ!」
はつらつと一番困る返答をされる。醤油でいいかと決めて英美は席取りを七緒に任せて並びにあるラーメン屋に向かう。混み合っていたがわりかしスムーズに受け取りまで出来た。
コート内を探すと、席を確保出来たらしい七緒が声を出して両手を振って呼んでくる。恥ずかしいし、本当にこいつはあの箱盾七緒なのだろうか。子供みたいにはしゃいでいる今の彼女と学校で顔を合わせる彼女。どうも結びつかない。
「……おい、何で隣座んだよ。向かい側空いてんだろ」
「もぉ。私は少しでもお姉ちゃんの傍にいたいの。……ちゃんとしないと報酬減らすわよ、朝日川さん」
テーブル席の向かい側を指したら、冷たい声で釘を刺された。殺す。
「ラーメンってこんな感じなのね……」
湯気が立つどんぶりを眺めているきらきらとした眼差しは演技なのか。英美は七緒の横髪を耳に掛けてやる。絹みたいにさらさらしててびびる。
「箸でこう麺を掬って、そのまま口で啜りながら食べるの。スープはそのれんげでご自由に。簡単でしょ」
七緒は言われた通りに箸で麺を掬い、口に持っていく。が、啜れずそのまま箸で少しずつ押し込むように食べていた。パスタかよ。姿勢が良く、物を食す動作にも品が出ていてうんざりする。
「も、もう七緒ったら。ラーメンはこうやって啜るのよ。こう息を吸いながら、唇で引き寄せる感じ」
英美も髪を耳にかけてラーメンを豪快に啜った。多少音を立てた方が美味いものなのだ。うん、結構いける。
そこで視線に気づく。明らかに温度のない視線で、じっと下から七尾がこちらを覗き込んでいた。
「んだよ? ……どうしたの、七緒」
「お姉ちゃんは、そんな下品な食べ方しないわ」
「はぁ?」と声に出た。ラーメンは啜って食うもんだろうが。反論しかけたが、結局彼女の無色の強い眼力に負けた。箸で音を立てないように口に運んでいく。
「へぇ、ラーメンって結構美味しいのね。ね、お姉ちゃん!」
味もうわかんねぇよと思いつつ「そうね」とぎこちなく微笑めた自分を褒めてほしい気分だった。
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