洗体
摂津守
洗体
風呂場。男はまず手を洗う。冷水で手を流す。冷水は凍えるほど冷たくなければならない。でなければ手が痛む。
十分濡らしたら、極細の綿棒を使って爪と指の間を洗う。綿棒に洗剤を付け、爪と指の間に差し込む。この作業は精密性と忍耐力が要求される。力を入れすぎればせっかくの美しい指と整えられた爪を痛めるし、弱すぎれば汚れが十分に取れない。精神がすり減り、相応に時間もかかる。約十分程、男は集中して励んだ。それが済めば、ぬるま湯で流す。
爪と指の間がキレイになったら、次は指だ。これはスポンジと洗剤を使う。どちらも指用の特別製だ。スポンジを使って丁寧に優しく撫でるように指をこする。汚れと脂を取り除けば、やはり最後はぬるま湯で流す。
次はてのひらと手の甲。スポンジと洗剤はやはりそれ用のものだ。特に気をつけるべきことはない。ただ丁寧にやればいい。きめ細やかな柔肌を傷つけぬようにやれば、あとはぬるま湯で流す。
さぁ仕上げだ。男は特殊な薬剤を二つ取り出した。一つは爪用で、もう一つは手の肌用だ。潤いを保ち、不快な臭いの発生を予防するのに必要不可欠なのだ。まずは爪から塗り、次に手だ。
どちらも塗ったらいよいよ最終工程。余分な薬剤をそっと丁寧に乾いた布で拭き取った後、仕上げ用スプレーを全体にまんべんなく吹きかけると出来上がり。
スプレーのおかげで、手はしばらく美を保つ。男は出来栄えを確認するため手を眺める。うん、いい出来だ。男は笑顔になった。丁寧にやった甲斐があったというもの。
男は満足した。手を封のできるビニール袋に入れ、予め用意しておいた特殊ガラス張りの透明のケースの中に入れる。ケース内部は低温と湿度が一定に保たれており、鮮度が維持される。ケースを浴槽から眺められるところへ置く。これで風呂に入りながら、手を眺めることができるというわけだ。
今度は自分の体に取り掛かる。テキトーに洗ってしまうと風呂に入った。手へと目を向ける。手と目があった。素晴らしい。男は恍惚の表情を浮かべた。
美しい手を眺めながら湯船に浸かる。これ以上の愉悦はない。
洗体 摂津守 @settsunokami
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