哀れみに欠けない者同士の血戦を目撃せよ

このレビューを書いてる奴が「因習村」なるものを知ったのは中学生の頃である。
父親から教育の一環として読まされた著:手塚治虫の「奇子」の物語前半の舞台、400年続く旧家が支配する村が、まさに「因習村」だった。

※まともなお父さんお母さんは、大切なお子さんに決してこんな真似をしないでください。お多感なお子さんの性格がまぢでひん曲がります。


さて、本作は、今流行り(?)の因習村モノである。
主人公・桃也はごく普通のサラリーマンだ。きれいな奥さんとかわいい子供を持ち、幸せに暮らしている……おぞましい秘密を巧みに隠して。
ある時、久しぶりに会った幼馴染・小次郎と飲み明かしていた桃也は、初恋の少女・乙音が行方不明になっていることを知る。その現場の近くには、不穏な噂を持つ『八月村』という村があることも。
それを聞きた桃也は、ある決意をする。そして、仕事を辞め、家族を連れて『八月村』へと引っ越す。

舞台となる『八月村』は、一見、のどかな村だ。
多少荒っぽいものの、村人たちが助け合い、平和に暮らしている。
だが、桃也は徐々にどこかがおかしいことに気づいていく。
それもそのはず。『八月村』は、現代日本にはけっして受け入れられない法と倫理が支配する、因習村だったのだから。
そして、古き忌まわしき倫理と法の下に暮らす村人の魔の手は、桃也とその家族に伸ばされようとしていた。
……だが、彼らは知らなかった。
自分たちが決して手を出してはいけない存在に手を出そうとしていることを。
桃也が普通の人間ではなく、人殺しに長けた異常殺人鬼であったことを。
村にやって来た理由が、乙音を惨殺することであったことを。

あらすじは、ざっとこんな感じである。
世間一般に知られる所謂因習村モノとは、主人公が「巻き込まれる」ストーリーである。
だが、この物語は違う。
桃也は「巻き込まれる」どころか、相手を巻き込み返す。牙を剥き、惨劇を巻き起こす。
こうなったら、もう止まらない。血腥い暴力と殺人の連鎖が始まる。和解の道なんて無い。

さて、このレビューを書いている奴は桃也と村人たちを「哀れみに欠けない者」だと思っている。
正直、戸惑っている。なんていうか、どちらにも感情移入できてしまうのだから。
桃也には家族がおり、良き夫、良きパパとして慕われている。
村人たちにも、勿論家族がいる。多少歪んではいるものの、家族愛や隣人愛はある。
そう考えると、怖ろしいことだと思う。
桃也は異常殺人鬼、村人は狂人。
自分にとって大切な誰かのことを哀れめるのに、それ以外の他人を平気で殺せる者同士なのだ。

そんな両者が、因習村を舞台に殺し合いを開始する。
深い緑に閉ざされた村の中、むせ返るほど濃密な血の匂い、渦巻く狂気と殺意。
どうなる、この血戦!?


追伸

……そんな中にあって、桃也のワトソン的な存在になる氷華が可愛いんですよ。

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