一章 亀裂がはいる日

 ひょんなことから見知らぬ学校に閉じ込められてしまった奏介達。自己紹介を終えた後はそれぞれどのような経緯でここに来てしまったのかを話し合う。


「僕は海と一緒に下校していた……その後の事は覚えていなくて」


「オレもだ。奏介と一緒に下校している途中までの記憶しかない。で、目が覚めたらここにいたって訳」


まず奏介と海が説明すると皆は小さく頷く。


「私は友達と別れて家に帰る途中で……気が付いたらここにいたんです」


「わたしは部活動が終わって家に帰るためにロッカーへと向かっていた。……覚えている限りの記憶はそこまでね。目が覚めたらここにいたの」


「わ、私は図書館に本を返しに行って……目が覚めたらここに……」


優紀が話すと彩夏と恵弥がそれぞれ説明する。


「俺は……野球部の活動を終えて帰宅途中に不良共に声をかけられて路地裏で一発お見舞いしてやった後の記憶がないな。気が付いたらここにいて喧嘩していた奴等に気絶させられて連れてこられたのかとも思ったが、畔柳さん達の話を聞いてそれは違うって気付いた。今わかってるのはそれくらいかな」


「ぼくは委員会の作業を終えた後一度教室に戻って帰宅する準備をしていた。その後の記憶は如何手繰ってもないな。気が付いたらここにいた」


暉が記憶を思い起こしながら答えると、晃も口を開き話す。


「私達は家でゲームしていたのよね~」


「うん。鈴とゲームしていた。でも目が覚めたらここにいて……」


「そうそう。目が覚めたらここにいたの。早く家に帰りたいな」


「鈴と早く家に帰りたいから、君達に協力することにしたんだ」


鈴と朱が口々に答えると早く帰りたいと言う。


「俺は仕事を終えて報告書を提出するところまでは覚えているな」


「私も仕事を終えて報告をしあった後、ようやく帰れると思っていたところまでなら覚えているわよ」


畔柳が顎に手を宛がい話すと、瑠璃も記憶を思い出すように答える。


「下校帰りや仕事帰りと言うなら納得がいくが、それぞれ来る前にいた場所はバラバラ。皆それぞれ接点は無し、だな」


「と、いう事はそれは関係ないってことですね。晃さんって頭の回転が速いですね」


晃が考え深げに話すと優紀が手を叩き凄いと褒める。


「よし、それじゃあ、晃は謎ときがとくいそうだからチームの参謀役を命じる。で、俺が一番年上だしまとめ役のリーダーな。瑠璃は俺の補佐を頼む」


「はぁ~。勝手に決めるな……でも、このメンバーの中で一番頭がよさそうなのは晃みたいだから異論はないな」


畔柳が勝手に仕切ると海が溜息交じりに呟く。


「ま、まぁ。いいんじゃないかな。畔柳さんは大人だし、皆をまとめてくれると思うよ」


「けっ。……バカバカしい。俺は降りるぜ。そもそも馬鹿正直に謎ときなんかにつきやってやる必要なんてないだろう。勝手にここから出て行きゃ問題ない」


「だ、駄目だよ。そんなことしたら。……相手がどんな目的で私達をここに閉じ込めたのか分からないのに。勝手な事したら本当に死んじゃうかもしれないんだよ?」


彩夏が場をなだめるように口を開くと、今までずっと頬に手を当て興味なさげにしていた亮人が悪態をつく。その様子に恵弥が慌てて止めるように話す。


「んなの適当に脅しておけば大人しく言う事を聞くだろうって魂胆だろう。付きやってやるなんて馬鹿らしい」


「あ。ま、待って……行っちゃったね」


「奏介君。大丈夫だよ。亮人君もいきなりの事で気が動転しているんだと思う。だから、落ち着いたら戻ってくるよ」


彼が言葉を投げつけると椅子を蹴り上げイライラしながら教室を出て行く。


その背中を呼び止めた奏介だが亮人は一度も止まることなく見えなくなった。心配そうな彼の様子に優紀が優しく声をかけ励ます。


「とりあえず皆お腹すいたんじゃない? 学園の裏庭に畑があったから、そこから野菜を頂戴して、家庭科室の冷蔵庫に入っている物も使って料理しましょう」


「い、何時の間にそんなことを? というよりも勝手に使って大丈夫なんですか」


瑠璃の言葉に奏介が驚いて尋ねる。すると彼女は怪しく微笑み口を開く。


「奏介君以外は皆早く目が覚めたのよ。それで一通りこの学校の中を調べてみたの。そこでご丁寧に寝られるように布団が敷かれた教室と、家庭科室の冷蔵庫には食料もそこそこ入っていた。裏庭には畑があって野菜が沢山……これって、私達が謎をときあかすことが出来るまでここで生活していけれるだけの物は用意している……って事で良いんじゃないのかしら」


「だから勝手に使っちまおうって事だ」


彼女の話に続けて同意するように畔柳がニヒルに笑い答えた。


そうして皆で裏庭から適当に野菜を抜き取り、家庭科室へとやって来る。


「結局亮人君戻ってこなかったね」


「今頃どこで何している事やら……」


心配そうに鈴が呟くと朱が溜息交じりにぼやく。


「さぁ、着いたわよ。暗いから灯りを付けるわね」


「きゃ~っ!!」


瑠璃が言うと壁にあるスイッチを押す。すると途端に顔色を青くした恵弥が悲鳴をあげ持ってきた野菜を落とす。


「ど、どうし……っう!?」


奏介は如何したのかと聞こうと思い彼女の側に駆け寄ると見えてきた光景に目を見開き硬直した。床には夥しい量の血痕が飛び散り、教壇を背に座り込んだ状態で動かない様子の亮人の姿があった。


「これって、トマトケチャップでいたずら……だよね? そうだよね?」


「おい、いくらイライラしていたからって俺達をからかって脅そうなんてふざけるのもいい加減にしろよ」


優紀が震える声で同意を求めると海が溜息交じりに彼へと声をかける。


「おい、何とかい――っ!? これ、本物の血だ」


『!?』


海が座り込んだまま動かない様子の亮人の肩をゆすろうと近寄り硬直する。


震える声で伝えた彼の言葉に、皆顔色を悪くして驚愕し暫く呆然と突き立っていた。


「そ、そんな……どうして」


「待て、黒板に何か書いてあるぞ」


最初に彼を見つけた恵弥が小刻みに震える体で呟く。教壇の後ろにある大きな黒板に血文字で何か書き記されていて、それに気づいた晃の言葉に皆そちらへと視線を向ける。


【逃げることはできない。謎をときあかさなければ一人ずつ死ぬ。彼の死を無駄にするな】


「ここに閉じ込めた……いや。殺人事件を犯したんだ、犯人と言った方が正しいか。犯人はまるでゲームを楽しんでいるみたいな感じだな」


「ふざけるな! 人が一人死んでるって言うのに……畜生!」


亮人の血で書かれたと思われるその文字を読み晃が眉間にしわを寄せて呟く。暉が握り拳を振り下ろし怒りで身を震わせながら叫んだ。


「兎に角皆は一度教室へ戻れ。ここは俺が片付ける。瑠璃、この子達の事任せるぞ」


「分かったわ。さ、皆何が起こるか分からなから何時でも逃げられるように、荷物はここに置いて教室へ戻るわよ」


畔柳が指示を出すと瑠璃が分かっていると言いたげに青ざめ怯える学生達を連れて教室へと戻る。


それから皆黙って教室まで帰って来ると不安そうな顔で周りのメンバーの顔を見回す。


「私達どうなっちゃうのかな?」


「あのメッセージの通りなら、謎を解明しなくては一人ずつ殺される可能性がある」


「っ……そ、そんな」


優紀の言葉に晃が考え深げに顎に手を宛がい説明した。その言葉に蒼い顔で奏介が絶望する。


「落ち着け。要は僕達が謎をときあかしさえすれば、これ以上の犠牲を出さずにすむって事なんじゃないのか。だったらやっぱりさっさと謎を解明してしまえばいい」


「そうだよ。私達皆で協力して謎をときあかしていけばいいんだよ」


「どうやら、その通りみたいだな。犯人は何の目的があるかは分からないが、殺人事件が起こった以上。謎ときに付き合ってやらない事にはここから出られない。……残念ながら亮人の死でそれを教えられたようなものだ」


朱の言葉に鈴もあえて明るい声で喋ると、教室の扉が開かれ入ってきた畔柳が話を聞いていたようで説明する。


「兎に角一人きりで行動するのは危険だ。それぞれチームを組もう。で、これからどこかに向かう時は誰かと一緒に行動する事」


「私達は二人で一人だから大丈夫」


「鈴の事は僕が守るから大丈夫だ」


彼の言葉に双子が真っ先に答えた。他の皆もそれについて異論はない。


「双子は一緒で決まりね。って事で私は補佐を任された以上貴方と行動を共にするけどいいわよね」


「あぁ。若い女性一人きりでは危険だからな。元よりそのつもりだった」


瑠璃の言葉に畔柳も頷く。他のメンバーは如何しようかと話し合っていたようだが次に口を開いたのは彩夏だった。


「わたしは恵弥ちゃんと暉君と晃君とで行動します」


「私は運動神経ないので、運動神経が良い人が一緒なら安全かなって思って」


彼女の言葉に恵弥もか細い声で答える。先ほどの出来事がよほどショックだったらしくいまだに蒼白になったまま震えていた。


「女の子を守るのは男の務めだからな」


「まぁ、バランスは悪いが暉だけでは何かあった時困るだろう。という事でぼくも一緒に行動するという事でまとまったんだ」


暉の言葉に晃も続くように説明する。


「となると残りはオレと奏介と優紀だな。まぁ、こいつらを守るくらいならなんとかなる」


「よろしくお願いします」


「う、うん。海と優紀ちゃんでよかった。他の人達とだとまだうまく会話できそうにないし」


海の言葉に奏介へとふり返りにこりと笑う優紀。その笑顔に彼は照れた顔を隠しながら頷く。ここからグループでの行動が絶対となった。


その日は亮人の事を思い出してしまうだろうからと大人組が気を利かせ、皆を待たせている間に二人で簡単な物を作り、教室で夕飯を済ませる。奏介は先ほどの光景を思い出してしまい食が進まなくてご飯を沢山残してしまった。

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