活動者のあたしとリスナーの彼女

 ボイスドラマの反響が広がり、あたしたちは充実した日々を過ごしていた。美咲とあたし、そしてたまにタカちゃんも一緒に、大学の図書館に集まって、次の企画を考えたり、おしゃべりを楽しんだりするのは楽しかった。煌めく日の光が窓から差し込み、わずかな話し声が聞こえる図書館は、あたし達の会談には持ってこいの場所だった。


「今日の夜、収益化記念配信だね。楽しみだなぁ」


 とタカちゃんがニコニコと言った。


「そうだね、でもちょっと緊張するかも」


 配信は久しぶりだ。ツブヤイターではすでに報告しているので、熱心なリスナーさんは知っていると思う。


「でもきっとすごく素敵な配信になるよ。私たちも全力で応援するからね!」


 美咲が背中を押してくれた。あたしは感謝の意を込めて頷いた。


「こんばんは、百合坂ゆりこです。配信ではお久しぶりですね〜」


 あたしは顔出しをしたことがない、というかカメラをつけたことがないけど、こうも緊張していると声だけでそれが伝わっているんじゃないかと心配になる。


 コメント欄を見ると、美咲……ふじっこさんはじめ、見覚えのあるユーザー名がチラホラ。takaさんって名前が見えたけど、タカちゃんかな?


 ああ、戻ってきたなぁ。色々あったけど、あたしはやっぱり配信も好きだ。


「みんな、ありがとう!  今日はあたしの収益化記念配信です。……本当に嬉しいです!」


 言っていて自分で胸が熱くなってしまった。もちろんあたし自身の成長と努力はある。頑張ったから、少しくらい自負を持ってもバチは当たらないと思う。でもそれだけでなく、多くのリスナーさんが『百合坂ゆりこ』の声に感銘を受け、応援のメッセージを送り続けてくれて、ここまでやってこれた。


「先日だしたボイスドラマが、ありがたいことに、伸びておりまして、それもあってここまで来ることができました。共演させていただいたふわり夏美さんよりメッセージをいただきましたので、読み上げさせていただきます」


 あたしは一呼吸おいて、ふわりさんからのメッセージを開いた。


「ゆりこちゃん、収益化記念配信、おめでとう! ゆりこちゃんのおかげで本当に素晴らしいボイスドラマを制作することができました。ゆりこちゃんの声から感じる情熱と愛情が、たくさんの人々の心に届いたことを確信しています」


 ちょっと泣きそうだ。あたしはまた息を吸って、続きを読みあげる。


「私も活動者として、ゆりこちゃんの成長や努力を見て刺激を受けています。新たなる一歩を踏み出すその姿勢、本当に素晴らしいと思います。これからも、ゆりこちゃんの活動を楽しみにしています。何かお手伝いできることがあれば、いつでも声をかけてね」


 ふわりさん、こちらこそ。


「おめでとう!そして、これからも頑張ってください! ふわり夏美」


 和やかに、穏やかに、収益化記念配信は終えることができた。


『百合ちゃんほんとおめでとう🎊これからもずっと応援してるからね!』


 配信が終わってから、タカちゃんからチャットがきた。自身は高木でタカちゃん、美咲は藤岡だから藤ちゃん、ときて、あたしはどういう呼び方になるのかと思ったら、百合坂で百合ちゃんらしい。もしくは百合好きの百合ちゃんかな。


『ありがとう、タカちゃん! 頑張る💪』


 チャットを返す。タカちゃんと美咲が仲がいいの、なんとなくわかる気がする。


 美咲からも何個かにわけてチャットがきていた。


『まゆり、改めて収益化おめでとう! 収益化記念配信、本当に素晴らしかったよ。あなたの声が、たくさんの人たちの心に響いて、感動を届けているんだって改めて感じました』


『あなたが突き進んできたその姿勢は、私にとって尊敬に値します。リスナーとして触れていたゆりこの配信はもちろん、彼女として知ることができたまゆりの悩みや頑張りが、私を勇気づけてくれました』


『百合坂ゆりことして、あなたが輝く未来に向かって進むその姿勢を、私はいつも応援しています。これからも、どんな時もあなたの傍にいることを約束します』


『なんかめちゃくちゃかしこまってしまった😅とにかくおめでとう! そして、これからも一緒に成長し、夢を叶えていこう!』


『𝑩𝑰𝑮 𝑳𝑶𝑽𝑬を込めて。美咲より』


 温かい涙が、あたしの頬を伝った。返事をなんども書いては消して、結局、話したくて通話にした。


「ありがとう、美咲。あたし美咲がいるから頑張れるよ」


 あたしの言葉に、美咲が肯いている気配がした。


 この先あたしは活動で行き詰まって病むかもしれないし、今度こそ辞めるかもしれない。今は大好きな百合だって演劇だって、いつか飽きてしまうかもしれない。でも隣に美咲がいたなら、それぞれが変わっていく夢や目標に向かって進みながらも、支え合い、励まし合いながら、未来へと歩を進めていける気がする。


 あたしが活動者じゃなくなっても、美咲がリスナーじゃなくなっても、きっとあたしたちはあたしたちのまま。でも今は、あたしは活動者で美咲はそれを聞くことを楽しみにしてくれていて、それが最高に楽しいから、このままでいよう。どう歩いたって、あたしたちは最高だから。

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【中編版】百合な活動者とリスナーの私 刻露清秀 @kokuro-seisyu

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