灯火

トム

灯火




 ポトリとその小さな手がベッドに落ちた。


 まるで眠っているかのように穏やかなその表情は、突然パチリとまた目を開けそうで――二度と開かなかった。



 享年4年と2ヶ月……。







 この世界にキミは望まれて産まれてきたのです。その事だけは伝えたいです――。


 キミのパパとママは勿論のこと、じいじや、ばあばも、オジイやオイたんも……当然、ボクも――。


 色んなハンデを持って産まれたにも関わらず、いつも屈託なく笑うキミの笑顔が大好きだった。上手くご飯が食べられなくて、癇癪を起こしたときも有るけれど。最後は必ず「ごっちゃんでした」で笑ってた。



 いろんな世界を見せたかった。


 色んな色を知ってほしかった。


 綺麗な物や、沢山の生き物や風景を。セカイを――知ってほしかった。



 僕の何十分の1も生きられなかったキミ……。まだ小さな世界しか見られなかったキミ……。狭い病室と、やっとの思いで帰ることの出来た自宅だけが、キミの見た世界のすべてだった。勿論色々な場所や景色をテレビやタブレットで見ただろう……。でもそれはただ「見た」だけで、感じたわけじゃないからね。2階の窓からよく外を眺めて、「アレは何?」「あそこはどこ?」と沢山質問していたキミ。沢山の薬をゼリーに混ぜて、「これ美味しい!」と食べながら笑っている君を、ママは涙をこらえて「良かったねぇ」と。




 今この瞬間にも、世界の至る場所で、ボクと同じ思いをしている人がたくさんたくさんいるでしょう。


 ましてやボクは当事者じゃない。


 キミの父の友人ってだけ。


 

 でも。


 それでも。


 悲しいものは悲しいのです。




 ――ねぇ、キミは今、空のどこに居るんでしょう? 高い高い雲の上で、誰かとはしゃいで遊んでいますか? 一人で寂しいと泣いては居ないですか? 今のキミは自由です。どこへでも、何時でも行って良いのです。いつかボク達がそこへ辿り着いた時には、たくさん教えてくださいね。



 小さな小さな灯火ともしびを目一杯輝かせたキミは、とても光り輝いていました。


 その光を守ってあげられなくてゴメンナサイ。


 だけど、キミの笑顔はたくさん心のなかに持っているから、いつまでも泣いて過ごしては行かないよ。


 いつかまた逢うその日まで。


 ボク達もたくさん笑うから……。


 そうしていつか、笑顔で逢いましょう。


 その時までは頑張るよ。一杯生きて、笑って怒って悲しんで。


 だから少しの間だけ……待っててね――。




Fin



 


 





 

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灯火 トム @tompsun50

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