あの夏(6).docx
次に私が神官の姿を見たのは、夏の終わりの祭礼の夜だった。
祭の燈火から少し外れた暗がりに、闇の中に溶けるようにして静かに佇んでいた神官は、柿渋色の浴衣を纏い、片手に持った赤い風車をカラリカラリと回していた。
声を掛けようか迷っている内に、風車を白い手が取り上げた。
顔の上半分を鬼の面で覆った縹色の浴衣姿が、いつの間にかそこに立っていた。ふっさりと広がった藍の癖毛は膝に届かんばかりの長さで、鼻から下の顔立ちだけでも楚々とした優雅さがうかがえる。
その姿を認めた途端、神官の表情がぱっと輝いた。寄り添わせた五本の指先をそっと絡ませ、心底幸せそうに鬼面の若者へ微笑みかける。風車を抓んだ鬼面の雨神の細い手が、愛おしげにその髪を撫でた。見つめ合って笑み交わすと、二人は連れ立ってどこかへ歩み去ってしまった。
風に乗って、ほんのりと甘い水の香りだけが届いた。
今となっては夢か現かも解らない、昔々の話だ。
逢瀬に夕立 木月陽 @came1ily_42
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