僕は知らない、爆乳の重さを。その質量を。
秋野てくと
本文
振り返ると、爆乳が歩いていた。
驚きはなかった。
全身の五感に備わったセンサーが爆乳を感知していた。
ビンビンと。
爆乳の気配を感知していた。
故に、そこに爆乳があることに疑いはなかった。
かくして、爆乳は「在った」。
学校の廊下という、平和な日常の象徴。
その日常を引き裂く絶対的な支配者――爆乳。
「それ」は、そこにいるだけで俺に頭を垂れさせた。
それぞれが人間の頭部ほどの大きさをした二対の爆乳。
爆乳の直上から、きつめの印象の声がする。
「あのぉ……じろじろ見すぎじゃありません?」
「そうでもない。見ないわけにはいかないだろ」
爆乳だぞ。
「っ……! 変態。開き直らないでくださいよ」
「違う。その爆乳が原因だ。俺が変態だからではない」
俺は爆乳の手を引き、近くの空き教室に連れ込んだ。
仕方ない。
どうやら、じっくりとわからせてやるしかないようだな。
●
↑俺はチョークを手に取り、こんな感じの●を黒板に描いた。
「……なんです、これ?」
「見てわからんか。ブラックホールだ」
「ああ。フィールド上の全てのモンスターを破壊する、アレですね」
「そう。アレだ」
俺は黒板に《ゴブリン突撃部隊》と《切り込み隊長》を描き加えた。
「俺が召喚したのは《ゴブリン突撃部隊》。お前が《切り込み隊長》を召喚したとしよう」
「あれ。そうすると《切り込み隊長》の召喚時効果で手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚できますよね? なにか召喚してもいいですか」
「好きにしろ」
爆乳は俺からチョークをひったくる。
さらに、黒板にもう一体の《切り込み隊長》を描き加えた。
こいつ、俺よりも上手いな。絵。
「私の場に二体の《切り込み隊長》がいるから、あなたは攻撃することができませんね。ふふん」
「関係ない。《ブラック・ホール》は全てのモンスターを破壊するからな」
俺が黒板消しで全てのモンスターをぐしゃぐしゃに消すと、爆乳は「あーっ!せっかく描いたのにっ!」と叫んだ。
「本題はここからだ。もし俺が使ったのが《ブラック・ホール》ではなく《地砕き》なら、破壊されるのはお前のモンスターだけで済んだわけだ」
ところが全てのモンスターを破壊したことで、俺のフィールドの《ゴブリン突撃部隊》も破壊されてしまった。
もしも《ゴブリン突撃部隊》がフィールドに残っていれば、そのまま爆乳にダイレクトアタックすることもできたというのに。
力あるカードにはリスクが伴う。
強大なチカラはコントロールすることができない。
「あなた、何が言いたいんです?」
「わからんか。この●はお前の爆乳と同じなんだよ」
続けて俺は黒板に複雑な数式を書いていった。
「??? なんです、これ」
「ブラックホールがもたらす重力を示した式だ。ブラックホールが黒く見えるのは、実際に●という色をしているからではない。あまりに強力な重力により光すら脱出できないため、外から見ると『こう』見える」
チョークで数式を指し示す。
「ブラックホールに向かって落下するあらゆる物体は、あの降着円盤の向こう側――シュバルツシルト半径を越えた時点で脱出不可能となる。電波も、光も、全ての物体が脱出できない。あの球面の向こう側に何があるかは、現代の科学では観測できないというわけだ」
「へぇー。《ブラック・ホール》に入ったものって《ホワイト・ホール》から出てくるわけじゃないんですねえ」
「現実はゲームのようにはいかない、ということだ」
あらためて、俺は爆乳をガン見した。
「ちょっと! やっぱり変態じゃないですか、あなた」
「変態ではない。これは純粋に物理的な現象なんだ」
俺は再び黒板に複雑な数式を書いた。
数式と数式が絡まって、もう俺にも何を書いてるのかわからんが。
「??? 私、もうついていけませんけど」
「これは万有引力に関する式だ。そうだな、爆乳を持ち上げてみろ」
「は?」
「手で持ち上げて、落としてみろ」
「えぇ……」
爆乳は己の爆乳に手を添えて、少し持ち上げた。
そして――落とす。
ばるんっ!
瑞々しい弾力を感じさせる爆乳が、爆乳の胸元で跳ねまわった。
「うう……なんで私がこんなことを」
「さて。今、お前の爆乳は重力によって落下し、クーパー靭帯とブラジャーの弾性によって引き上げられた。では、ここで問おう。『重力』とはなんだ?」
「『重力』? それって、物体が地面に落ちる力……ですよね?」
「正解だ。地球上で落とした物体は地面に向かって落ちる。より正確には、物体は地球に向かって引っ張られる」
万有引力。
すべての物体には互いに引き合う力が働く。
重力の正体は、巨大な物体である地球によって地球上の物体が引っ張られる力だ。
※正確に表現するには地球との引力に加えて、地球が自転することによる遠心力を加味する必要がある。
そして万有引力の強さは物体の質量によって決まる。
俺は再度、●を黒板に描いた。
「あ、あなた……まさか」
「その、まさかだよ。ブラックホールが光すら脱出できない強力な重力をまとっている理由は――太陽の数十倍ある質量が崩壊することによって生まれた規格外の高密度によるもの――という仮説が立てられている」
ましてや、二つある。
俺はあらためて爆乳の胸元にたわわに実った●●に目を向けた。
これほど大きな質量からは、視線すらも脱出できない。
目を逸らすことなどできないというわけだ。
俺が爆乳をガン見する理由は、俺が変態だからではない。
純粋に物理的な現象であるということが、おわかりだろうか。
Q.E.でぃ……ぐほっ。
俺の視界が真っ白なチョークの粉で染まる。
爆乳が投げた黒板消しが、ちょうど俺の顔をジャストミートしたのだ。
「最っ低………の変態野郎ですよ、あなたはぁーっ!」
「待て、暴力はよくない! 俺は暴力に弱いぞ!」
げほげほ、と粉っぽい空気に咳き込みながら俺は弁明しようとする。
すると――そこで俺は初めて爆乳の顔を見た。
……美少女だ。
なぜ、気づかなかったのだろう。
爆乳の上にあったのはとんでもない美少女の顔面だった。
「ちょっと待て。お前可愛すぎじゃないか」
「いまさら、命乞いのつもりですか! そんなんで手心加えませんよ」
「おべっかじゃない。本音だ。1000年に1度の美少女だぞ、お前」
「えっ……私、橋本環奈ってことですか」
そう考えると、少し言い過ぎだな。
「いや……900年に1度の美少女、くらいに
「人の顔面を勝手に
黒板消しで全身をパタパタされる。
やめろ、俺の制服は黒板消しクリーナーじゃない!
「しかし、驚いたな。こんな美少女なのに、なぜ俺は気づかなかったんだろうか」
「そんなの、あなたが『これ』ばっか見てたからでしょ」
そう言って彼女は自らの爆乳を持ち上げた。
「なるほどな。お前の爆乳は人間の頭部二つ分の大きさがある。単純計算で、顔面の二倍の視線吸引力があるというわけになるんだな……」
「あまりに失礼すぎて、逆に面白くなってきましたね」
「天は二物を……いや、●●に加えて900年に一度の美少女だから、天は三物を与えたわけか。こいつ、無敵か?」
「……一応、褒めてるんですかね。それ」
「ふん。他人のことを変態変態と言っているが、俺が変態ならお前もそうだろうが」
「……え?」
俺は嘆息した。
「気づいてないとでも思っていたのか? 最初に会ったときから、お前はずっと俺の○|○をガン見していただろうが」
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まさか、気づかれていたとは。
いや、それも当たり前か。
だってあまりに大きくて……つい、視線がそこに吸い寄せられたのだから。
最初は興奮のあまり勃起しているのかな、と思ったのだけれど。
ずっと大きさが一定ということは――これが平常なのだろう。
初めて廊下で彼が振り返ったとき。
彼はこう考えていただろう――巨乳を越えた巨乳――爆乳。
『振り返ると、爆乳が歩いていた。』
同時に、私はこう考えていたのだった
ズボンの上からでもわかる、巨根を越えた巨根。
そう――。
『爆根が振り返ってきた』――と。
だって、彼の○|○があまりにデカすぎたのだから。
これも純粋に物理的な現象なら――私も変態じゃないよね?
<了>
僕は知らない、爆乳の重さを。その質量を。 秋野てくと @Arcright101
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