10.泣けるアニメの映画と、それから

「ねえ、山ちゃん、何泣いてんの?」

「アニメ見て。……泣けるんだ」

「ふーん」

「ふーんって、あずは泣けないの?」

「これは泣けないなあ。でも、こんな高校生活、いいね」

「あずはどんな高校生だったの?」

「ふつうの」

「ふつうの?」

「まあ、ふつうに恋愛したり?」

「恋愛っ。誰と誰とっ」

「山ちゃんの知らないひと。――もうこのお話はおしまいで」

「やだやだー!」

「ほんとに聞きたいの?」

「……う。そ、それは……」

「あたしは聞きたくないな」

「……どうせ、おれのことには興味ないんでしょ」

「そんなこと、言ってないじゃない!」

「だってさ」

「もう、うじうじしないでよ。……だから、いまの山ちゃんだけでいいってことだよ」

「いまのおれだけで?」

「うんそう。あたしが好きなのは、いまの山ちゃんでしょ? 高校生とか大学生とか経験して、社会人になっている山ちゃんが好きなんだよ。まあ、出会ったのは大学生だけど」

「あず~~~」

「だから、すぐに抱きつかないの!」

「だってー」

「ほら、映画、観ないの?」

「あ。しまった、だいぶ過ぎちゃった。ちょっと戻していい?」

「いいよ」


「……いいなあ。こういうの、憧れる」

「そう?」

「うん。高校生のときに出会って、大学生になって。いろいろあって別れるんだけど、また出会って結婚して、子どもが出来て」

「ふうん」

「おれたち、みたい?」

「出会ったの、大学生のときだし」

「夢ないっ」

「夢とかじゃなくて、現実だし」

「……子ども、かわいいなあ」

「そう? アニメだからじゃない?」

「ひどっ」

「ひどくないよ」

「……子ども、どっちがいい? 男の子? 女の子?」

「どっちでもいいなあ」

「おれは女の子がいいなあ」

「この、アニメの子みたいな?」

「あずにそっくりな女の子。かわいいだろうなあ」

「山ちゃんにそっくりな女の子かもしれないよ?」

「えっ……! そ、それは嫌だなあ」

「かわいいよ、きっと」

「え?」

「山ちゃんに似た、女の子」

「あず……ん」

「……ふふ」

「あず~~~、結婚しよ?」

「勢いで言わないの」

「勢いじゃないよ、ずっと考えていたんだよ」

「そう?」

「そう!」

「結婚、かあ」

「……いやなの?」

「うーん、ほら、女の子はいろいろ変わるじゃない?」

「名字とか?」

「うん。めんどくさいよね」

「……おれのこと、好きじゃないの?」

「好きだよ。……ね?」

「……ん」

「山ちゃんのこと、好きだよ。いっしょにいて楽しいし、ラクチンだし」

「うん」

「うーん、とにかく覚悟が必要なんだってば!」

「うん」

「だからね」

「うん」

「とりあえず、いっしょに住まない?」

「いいの?」

「うん。半分いっしょに暮らしているようなものだし、『山ちゃんとあずのおいしいレシピ』もけっこう増えたし」

「うん! おれ頑張るよ!」

「いっしょに暮らし始めたら、一番最初に唐揚げ、作ってね。あたしのために」

「が、頑張る!」

「で、風邪をひいたら、おかゆだから」

「いや、そこは肉で!」


                                    

                                

   了

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風邪をひいたら肉 ――山ちゃんとあず 西しまこ @nishi-shima

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