エピローグ

「ぅあっちぃ〜……」


 制服姿の少年が、パタパタと襟元を浮かせ沈ませしながらそうボヤいた。同じ学校のものであろう制服をきた少女は苦笑いをこぼす。


「今にも死にそうな声出さないでよぉ。もっと暑くなっちゃうでしょーが」

「だってさぁ……あ、なぁ。帰りにコンビニ寄って帰らないか?アイス買おうぜ」

「ん-……いいよぉ。ジャン負け奢りね?」

「はぁ!?俺今金欠なんだって!」

「勝ちゃいいんですよ、勝ちゃあ」


 少年は、ううう、と唸り声を上げたあと、よっしゃ、と腕を構えた。最初はグー、ジャンケンポン!と二人の元気な声が青空に響く。


「うわっ!」

「はい、ゴチでーす」

「ちょ、今の練習!次!次負けた方が奢り!」

「ジャンケンに練習も何も無いです〜」

「この鬼!」


 少女はケラケラと笑った。何のアイスにしよっかなぁ、と鼻歌を歌う。少年は最悪!と喚いた。


 少年はグチグチと何かを言いながらも、少女は笑いながらも、帰り道の途中にあるコンビニに足を踏み入れた。少女はアイス売り場から一つアイスを手に取る。


「何にしたんだ?出来れば安いやつであると嬉しいんだけど」


 少女はひらり、とパッケージを少年に見せた。意図を察した少年は、ガバッと少女に抱きつく。少女は耳を赤く染めて、少し身を攀じる。


「あー、愛してる。ついでに奢ってくれたらもっと愛してる」

「……しょうがないなあ。五年後倍にして返してね」

「え?マジで奢ってくれんの?」

「どうせ買うの一個だし。味に文句言わないでよぉ?」

「神かよ!絶対言わない」


 少女はレジに向かっていった。少年は両手を頭の後ろに回して、ニコニコと少女の背中を見る。


「なぁ、前世って信じる?」

「あ、話のオチが見えた。前世でも恋人だったとか」

「いや、親友かな」

「なんで中途半端にロマンチックにしたの?」


 少女はむう、と頬を膨らませた。少年は笑って、少女の後ろからレジのカルトンに、二百円を乗せる。


「あ」

「まさかほんとに奢らせたりはしませんよ」

「……ひゅーう」


 少年は釣り銭を受け取って、コンビニを出た。少女はアイスを片手に、少年の後を追う。


「親友でも恋人でもなんでもいいけどさ」


 少女の声に、少年は目を向けた。封を切って、真ん中で割ったアイスの片方を、少女は少年に渡す。


「僕は君が好きだったと思うよ、間違いなく」


 少年はアイスを受け取って、目を細めて微笑む。


「それは……お互い様、かな」

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鈴蘭蕾が落ちる刻 干月 @conanodo

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