みーちゃんとヒチョルの出会い

桃口 優/ハッピーエンドを超える作家

一話

 世界にあるCiaoちゅ~るを独り占めしている奴がいる。

 そんな報告がにゃんにゃん王国王子みーに伝えられた。

 伝えたのはにゃんにゃん王国軍事司令官のせいにゃんだから、この情報は間違っていないだろう。正にゃんは何よりも正しいことや正義を大事にする猫だ。

「そいつが隠れている場所はつかめているのか」

 僕はおやつのまたたび入りのマグロ缶を食べながら、びしっと言った。

 あんなにおいしいCiaoちゅ~るを独り占めしてるなんて絶対に許さない。僕が毎日食べたいぐらいだ。

「もちろん、わかっています。この王国の北にある『暴れる森』にいます」

「『暴れる森』か。近いじゃないか。僕がさくっと倒してきてあげるよ」

「しかし、王子。暴れる森は、木が獣のように動いて襲ってくることから名前がついたと言い伝えがあります。王子を危険な目に合わせるわけにはいけません」

「大丈夫大丈夫、僕強いから。それに王家の宝剣想いの剣があるからね」

 その剣の長さは3センチだ。剣そのものが蒼色をしている珍しい剣だ。想いの剣という名前の由来は、使う人の想いや覚悟の大きさによって威力が増幅し、さらに森羅万象を自在に操ることができるというものだ。

 正にゃんはまだ何か言っていたけど、「じゃあ行ってくるわ、晩ご飯はCiaoちゅ~るでよろしく」と僕は王国を出ていった。


 暴れる森に着いて、僕はどんどん森の奥に進んでいっていた。 

 悪い奴は大概奥の方で寝ているものだ。そもそも相手は猫なんだから寝てばかりなのは当たり前だけど。

 緑色が濃さを増したところから、なんだか暗くて寒くなってきた気がする。寒いのは苦手だからマジ勘弁してほしい。来る前に執事にコスプレ服を着せてもらえばよかったと思う。

「そこにいるのは誰だ」

 僕は一際大きい木に向けて声を発した。

 木がこちらに歩いてきた。言い伝えは本当のようだ。

「ばれてしまったか。私はきょうツリーだ。お前はあくにゃん様のもとに行かせるわけにはいかない」

 恐ツリーはそう言いながら自分の葉っぱを揺らして落とした。黒くて太い体、何方向にも枝をのばす手は迫力がある。猫と樹齢百年はありそうな大木。あまりにも体格差がありすぎる。

 恐ツリーは、余裕をこいて笑っている。

 僕は恐くなかった。なんたって僕は最強なんだから。

「君の全力を僕に見せてよ。返り討ちにしてあげるから」

 恐ツリーはバカにされたと思い、すごい勢いで迫ってきた。森全体が揺れている。動物たちが一斉に逃げていく。森の木が一斉に暴れだした。森の木も全部自由に操れるのだろう。

 僕は想いの剣を抜いた。剣は黄色に光り、空を引き裂いた。

 ごーっと剣が音を出し始める。その音とともに黄色い光が弓矢の形に姿を変える。

「雷神の胸に抱かれろ」

 弓は勢いよくはじかれ、恐ツリーを貫いた。 恐ツリーは光に包まれていた。

「ちょろいね」と僕は、さらに森の奥に進んでいった。


 悪にゃんのアジトはすぐにわかった。Ciaoちゅ~るの匂いがぷんぷんする建物があったからだ。

 犬だけじゃなくて猫も鼻がいいのに馬鹿だなと思った。

 扉を開けると一匹の猫が毛づくろいをしていた。

 シルバーの毛並み、丸々と太ったでかい体、鋭い目つきは見るものを恐れさせる。

「俺の縄張りで好き勝手してくれてるらしいな。何が目的だ」

「Ciaoちゅ~るを渡してもらおうか。独り占めなんてずるいぞ」

「それはできないね。あれは猫をダメにするくらいうまいからな」

 そう言って、悪にゃんは剣を抜いた。僕と同じ長さの剣だ。

 まがまがしい赤色をした剣。血の色似ている。にぶくて恐ろしいオーラをまとっている。

 あの剣危険だ。

 すぐに僕も剣を抜いたが、もうすでに悪にゃんの剣先が目の前にきていた。

 剣が爆ぜる音がした。なんとか剣ではじくことができた。でも剣を持っていた肉球がしびれている。一太刀がすさまじく重い。

 すぐに次の太刀が来て僕は吹き飛ばされた。

悪にゃんは走ってきて、さらに攻撃を続けようとする。猫だから瞬間速度が速い。顔が笑っていた。そんなに猫を攻撃するのが楽しいのだろうか。ぞくっとした。

 次の瞬間、悪にゃんががくっと足をついていた。

 何が起きたのだろうかと思っていると、目の前に筋肉ムキムキの黒猫がいた。

「君は一体だれだ」

「私はヒチョルでござる。さすらいの猫でござる。先代の王様には恩があるでござる。みー王子のピンチに駆けつけたでござる」

「ありがとう。君の持っている剣は所在不明になっている王家のもう一つの宝剣覚悟の剣だな。君の話信じるよ。君の覚悟を見せてくれ」

「承知でござる」

 そう言ってヒチョルが持っている緑色の剣が光り始めた。

 その光に合わせて、僕は剣を振りかざした。

 二つの光が一つに交わる。空が一瞬にして晴れ渡る。勢いよく剣からは水があふれ、渦となっていく。水は竜の形になっていく。

「己の欲に溺れろ」

 竜は悪にゃんを食い尽くした。

 猫は水が苦手なので、悪にゃんはふらふらしながら逃げていった。


「みー王子、お疲れ様でござる。手に入れたCiaoちゅ~るはどうするでござるか」

 悪にゃんを無事倒して、にゃんにゃん王国に戻っているところだ。

「僕が独りじっ…」

「独り占めはダメでござる」

「わかってるよ。僕にいい考えがある。王国の技術部にお願いして自動でCiaoちゅ~るが永久的に出てくる機械を作らせる。それを国民みんなで使うのだ」

「いい考えでござる」

「ところで、ヒチョルは今後どうするんだ」

「特に考えてないでござる」

「なら僕を生涯守ってくれないか。命令とかじゃなくて、『家族』としてだ」

「もったい言葉でござる。承知したでござる」

 そうして手をつないで王国に戻った。

 これがみーちゃんとヒチョルの出会いの話だった。

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みーちゃんとヒチョルの出会い 桃口 優/ハッピーエンドを超える作家 @momoguti

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