第43話 学園④
「起きてください、快斗さん」ともう何回聞いたのか分からない天音のおはようボイスを聞いて起床し、もう一度学園長のところへと戻ってきた。ハーリンはコーヒーかなんかを嗜みながら、三つの箱を取り出す。
「これが天音、こっちが朱音。最後のが快斗の制服、教科書などだ」
「本当にこんなに早く学園生活に必要なものが一式届くんですね」
「私の権限でもあるからな。それにその教科書は生徒として振る舞うためのものだ。授業を別にちゃんと聞く必要はない。他人から少しでも情報を聞ければそれでいい」
「まぁ、それに集中したほうがいいでしょうね」
「あそこの部屋で着替えるといい。もう少しで教室に行かねばならないからな」
「分かりました。着替えてきます」
渡された箱の中には昨日採寸したばかりというのに出来上がった制服と学園生活に必須な教科書などがあった。別室で着替え、制服に身を包むと多少生徒としての自覚が芽生えた。
「お、似合ってるじゃん」
「そっちもな。全く違和感ない」
「あとは天音だけど、遅いね。ちょっと聞いてみようか」
いつまで経っても来ない天音に痺れを切らした朱音は天音が着替えているはずの部屋にノックする。
「天音いる?」
「あ、朱音?少しいいですか?少し胸元がキツくて上手く制服が着れないんです」
「そんなこと?ちょっと待ってね」
弱々しい天音の声を聞いた朱音はすぐに彼女の部屋に入る。少し時間が経った後、二人で部屋から出てきた。
「すいません、時間がかかってしまいました」
「いいのいいの。これで今までの悪行が全部チャラになるんだったら気にしないよ」
「流石にそこまでしませんよ。ただ、感謝するぐらいです」
「え、そんなんだったら手伝わない方が良かったじゃん」
「そんなことないですよ。それよりも急ぎましょ。もう少しで約束の時間ですから」
「うわ、逃げる気だ」
「行きますよ!」
ようやく出てきた天音の急かれて俺たちは指定された場所にやってきた。そこには学園長と二人の先生らしき人物がいる。
「この三人が新しい生徒ですか?この時期に珍しいですね」
「特別な事情があってな。紹介しよう。こちらはグリット教授、そしてこちらがリン教授の担任の先生になるお二人方だ」
「「よろしくお願いします」」
長身で黒い髪を持つ男の先生と朱音の背といい勝負するほどの背丈を持つ女の先生。その二人は今日から俺たちの担任になるということだった。
「ところで二人いるのはなぜですか?一つの教室に二人の先生が入るということなんですか?」
「いや、人数的に三人一緒になるのは無理だった。だから、二つに分けることにした」
「なるほど。でしたら、快斗さんの方に一人置いた方がいいですね。私でいいですか?」
「すまんがもうすでに話し合いの結果で決まった。快斗の方には朱音を行かせる」
「え、なんでですか?私の方がいいですよ、絶対。今すぐ変えましょ、ね?」
「決まったことは変えられん。これを一つの試練だと思ってくれ」
「今から私が朱音になります」
「ちょ、落ち着いてよ天音。ほら、どうどう」
そんなに俺と一緒になりたいのか天音にしては珍しく早口になりながら意味の分からないことを言い、焦り始める。彼女の意見も尊重してやりたいが、決まったことを今すぐに変えることはできないため、結局俺と朱音の二人、天音の一人ということになった。
「はぁ、最悪です。ハーリンさんには後で文句を永遠とたらたら言おうと思います」
「そんなに俺と一緒が良かったのか?」
「別にそういうわけじゃないです。一人が嫌というだけで快斗さんでも朱音でも誰でもいいので知り合いが一人いれば良かったんです」
「天音は人見知りだからね」
「それじゃあ、俺と仲良くできてるのも奇跡だったのか」
「いえ、快斗さんが例外なだけです。昔から付き合いのある仲のいい人と快斗さんを除けば、人付き合いというのは本当にしたくないんです。気を遣わなきゃいけないですし、堂々と会話することだって出来ません。きっと、趣味も合いませんし、会話を長く続けることだってできません。ですから、二人の方が良かったです」
「まぁ、ハーリンも言ってたようにこれも一つの試練だよ。成長するチャンスだと思って」
「はぁ、まぁ頑張りますがあまり私に期待しないでくださいね」
「分かったよ。じゃあ、またね天音」
「はい。私の分まで頑張ってくださいね」
もうすでに諦めている天音とは教室が違うため、ここで別れることになった。人付き合いが苦手という雰囲気は今まで感じ取っていなかったから、意外だったがあの焦りようはだいぶ重症だと思う。
異世界転移者が嫌われる世界で7つの国を旅する らん @kasarug1
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