第42話 学園③

 疲れることのない快適なエレベーターで上へ昇り、もう一度重厚な扉に手を当てる。


「来たか」

「はい、戻ってきました。何かいい案は思いつきましたか」

「それがいい案かどうかはお前たち次第だが、一つ思いついた」

「ほう、それはなんでしょうか?」

「簡単に言えば、潜入捜査だ。生徒に扮して狙われている生徒の近くで情報収集をする。どうだろうか?」

「それが一番簡単なのでしょうが、そんなすぐにこの学園の生徒になれるんですか?」

「私の手にかかれば、造作もない。制服もすぐにできるだろうし、手続きも私が受理すれば出来上がってしまうからな」

「そうですか。あまり人と関わるのは嫌なのですが、捜査となれば仕方がないですね。二人もそれでいいでしょうか?」

「別にいいよ」

「あぁ、それでいいんじゃないか」


 パッと思いつく中で一番いい案ではないかと思う。一般人として生徒から情報を聞き出すより、生徒して聞き出した方が怪しまれずに済むだろう。


「よし、では制服のために採寸しよう。あの機械の前に立ってくれ」

「ここですか?」

「そうだ」


 窓際に置かれた一つの機械。その前に天音は立つと機械らしい音を出しながら、数秒後に一枚の紙が出てきた。


「これはなんですか?」

「採寸する機械だ。あとはこの紙を服屋に渡せばいい」

「すごい便利になりましたね」

「流石に毎年多くの生徒を人の手で採寸するのは時間がかかるからな。二人も早くやるといい」


 ハーリンに言われて俺らも機械の前に立つ。数秒で紙が出てくるのは流石に便利だ。


「これで完了だな。明日にでも来れば制服は出来上がるだろう。それに合わせて、生徒として潜入捜査を願いたい」

「えぇ、いいですよ。明日の朝、またここに来ればいいんですよね?」

「そうしてくれ」

「分かりました。では、私たちは少し休んできます」

「あぁ、ゆっくりしてくれ。明日からは忙しくなるからな」


 そう言って俺たちはまたエレベーターに乗る。潜入捜査と言えばもう少し丁寧で慎重なイメージがあったが呆気なく終わってなんだか拍子抜けだ。ただ、学園内を歩き回ったせいか、少しづつ疲れを感じてきているのもまた事実だ。今日はもう休んで忙しくなるであろう未来のために準備したほうがいいだろう。


「この路地裏にある宿が安いみたいです」

「また路地裏の宿か。メラーがいたりしないよな?」

「大丈夫ですよ。今回はちゃんと一般の方がやっている普通の宿なので」


 天音たちはこういう隠れ家的な宿が好きなのだろうか。知る人ぞ知るような路地裏の奥にひっそりと佇む立地の悪い建物の中に入る。明かりも対して入ってこないせいか随分と暗い。


「いらっしゃいませ」

「三人で少しの間泊めさせてもらいたいんですが」

「宿泊でしたら、このお値段で一日宿泊するごとに段々と増えていくことになります。これが鍵です」

「はい、分かりました」


 受付から鍵を渡されて奥の部屋に入る。ベッドが二つにトイレ、シャワーが別々。こんな広い宿は初めてだ。そもそも広い宿なんてあったんだなと思う。


「にしても、宿のシステムってなんか凄いな」

「だいたいあれが普通ですよ。まぁ、値段は少し良心的な気がしますが。ぼったくりするところはぼったくったり、部屋が極端に狭かったりしますし。それにここは予想外の事態が起こる世界ですから。そのせいで宿に泊まる日数が増えるのは日常茶飯事なので」

「そんなこと話してないで早く寝よーよ」

「はいはい、分かりました。では、快斗さん、明日からはきっと忙しくなると思うので今のうちにゆっくりしていてください」

「あぁ、分かった。おやすみ」


 天音と朱音の二人は同じベッドで仲良く寝ることになり、俺は一人で広いベッドを使った。歩き疲れたのか、彼女たちの話し声を盗み聞きする間もなくあっさりと眠りについてしまった。

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