第41話 学園②

「いい運動になると思ったからです」

「ん?何がだ?」

「階段を上らせた理由ですよ。さっき聞いてきたじゃないですか」

「今言ったって言い訳にしか聞こえないからな」


 エレベーターに乗って数分した後、俯いていた天音がそういうが随分と時間が経った説明はただの言い訳にしか聞こえなかった。

 彼女の言い訳を聞いてエレベーターから降り、学園の無駄に広い廊下を渡ると奥から微かに戦闘音が聞こえた。


「うん?今のって」

「あぁ、もう始まりましたか」

「始まったって何がだ?」

「口で説明するより直接見た方が早いですね。着いてきてください」


 そう言われて大人しく着いていくと前方にこれまた天井の高いだっだ広い空間があるのが分かる。そこはどうやらガラス張りのようで中から外の景色を見ることができる。


「うお、なんだあれ」


 そのガラス張りの外から見えたのは激しい光だった。その次の瞬間に微かな音が聞こえる。


「戦ってるのか」

「はい、そうです。実践ですね。今は、二位と五位が戦っているみたいです」


 ガラスの外には人工的に作られた自然があり、そのフィールドを活用して生徒たちが争い合っているようだった。魔法と魔法とが衝突し、激しい光を作り出し、目に見えないほどの速さで動く生徒たちの戦いは見ていて圧巻であり、開いた口が塞がらない。


「快斗さん、ここに生徒の情報が載ってますよ」

「うわ、色々書いてあるんだな。学力、魔力、戦力の順位も載ってるのか。得意な属性魔法も書いてるんだな」

「二位の人は魔力、戦力はそこまでですが、学力が一位みたいですね」

「五位もなかなかバランスいいな。うわ、見ろよ、ここの紹介欄。ドラゴン退治のメンバーに抜擢されてるみたいだ。こんなのが今あそこで戦ってるのか」


 一つ意味深に置かれた書見台には二位と五位の情報が色々と書かれていた。順位から得意な魔法。これまでの実績といったことまで多種多様。ここまで順位やら実績やらを見てみると今目の前で戦っている二人がどれだけすごい人なのかがよく分かる。


「決着がついたみたいですね」

「どっちが勝ったんだ?」

「今回は二位みたいですよ。あっちを見てください」


 そう言われて天音が顔を向けた方を見ると担架で運ばれている生徒と腕を押さえて自力で歩いている生徒が見えた。書見台に載っていた情報を照らし合わせると自力で歩いている方が第二位であるということが分かる。すれ違うほどまでの距離になると先ほどの戦いがいかに白熱し、いかに危険だったかというのを体についた傷によって分からされる。担架で横になっている生徒は笑顔を見せているが傷は痛々しかったし、二位ですら腕からの出血は酷かった。


「それでは実践も終わったことですし、別の場所に移動しましょう。着いてきてください」


 実践というの名の熾烈な戦場を後に俺らは次に一番上の本をどうやって取るのか分からないほど天井まで高さのある図書館にやってきた。


「ここはこの国の中で最大規模の図書館ですね。寿命の長い種族ですら、この本を全て読みきれるかは分からないほどの多さですが、この中の本を全て読んだたった一人います。それは学園長、ハーリンさんで本の内容もほとんど覚えているみたいです」

「あの学園長、そんな実績があったのか。そりゃあ、あの地位に立てるわけだ」

「そんなお方でも、世界一の大きさを誇るタイアンのデライザ図書館はいまだに読みきれていないみたいです。今は約五割ほど読んでいるようですが、それでも読み終えるのに後数年はかかるでしょうね」

「俺からしたらこんな量読む気にもなれないな。それに一冊一冊分厚いし、これ一冊理解するのに一年ぐらいかかるぞ」


 この図書室にある本全て読むとはどれくらいの暇人なのだろうか。試しに一冊近くにあった本を読むが一面びっしりと書かれている文字を見てそっと本を閉じ、元あるところに戻した。


「次、行きましょうか」

「どこに行くんだ?」

「うーん、商業区に行きましょうか」

「商業区?」


 商業区と言われてまさか、学園の外に出るんじゃないんだろうなと思ったが、どうやら外には行かない様子だった。素直に天音たちに着いていくと、学園の雰囲気とは一変して少し騒がしくなっていくのが分かる。そして、扉を開けるとそこは学園に似合わない内装が施されている大きな部屋に繋がった。


「ここが学園の商業区に当たる場所です。学園が閉鎖される二十時までやっていますが見ての通り、大体いつも賑わっています」

「なんか急に現実に戻された気分だな」


 謂わばスーパーのようなものだろう。そこには食材や飲み物、お菓子、多種多様な品が売られていた。

「ここの収入の大部分が学園の予算に計上されるので学園にとっても重要なものとなっています。それに、他の店と比べて安いのでお客にとっても使い勝手がいいようですね」


 学園と客にとってWin-Winの関係なんだろうな。客にとって安く買えるのはありがたいことだし、学園にとっても予算が増えるから買ってくれるのはありがたい。


「こうなると他の店は食材売ってないだろうな」

「そうですね。レストランや雑貨屋なんかが多いです。ま、流石に学園相手に商売は出来ませんからね。さて、次の場所に行きましょう」


 天音の後に続いて廊下を歩き、曲がろうとすると先頭にいた天音が誰かとぶつかった。驚いた声が二人分聞こえると同時にバサバサっと何かが落ちるような音が聞こえる。曲がり角を覗くとそこには尻もちをついている天音ともう一人生徒がいた。辺りには資料か何かの紙が広がっており、音の正体はこれであったのかと理解する。二人が立ち上がり、慌てて紙を回収したので俺と朱音も一緒になって紙を回収し始めた。なんとか全て集め終わったところで奥の方からもう一人誰かがやってくる。


「あたしがやるっていったのにまたあんた」

「だって腕怪我してるじゃん」

「いいよ、別に。こんなこといつもだし。それに人に迷惑かけてるでしょ」


 そう言ってこっちを見てくるのは先ほどまで五位と戦っていた二位であった。腕には包帯が巻かれ、その怪我の痛々しさが露わになっている。


「拾ってくれてありがとう」

「いえ、気にしないでください。私も確認せずに歩いていたので」

「ううん、あたしが悪いの。とりあえず、ありがとね。ほら、行くよ」


 天音から束になった紙を渡された二人は丁寧にお辞儀すると足早にこの場を後にした。


「では、気を取り直して行きましょうか」


 その後も学園内を見て回った。目に映る全てのものが目新しいものであり、少なくとも飽きるなんてことはなかった。大体全て見終わったという頃になると、天音はもう一度ハーリンのところに戻ろうと提案する。彼のことだから、もう何か解決策を見出したと言い、朱音もそれに応じたので俺も従順についていく。

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