二百年の哀歌【第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト】 短歌二十首連作部門

大和田よつあし

◆夢を見た

夢を見た 日光までは道半みちなか

豪雨を避けて廃寺にゆく


先客は頭巾を被る夜鷹よたかなり

痩せ過ぎている色気いろけはあるが


夜鷹よたかだが着崩きくずす風に遠慮がある

こちらも堅気かたぎでないまあよい


面倒ごとを避け離れて座り込む

買った飯米いいまいを取り出すが


女は飯米いいまいひとつで身を売るという

ちと安売りが過ぎやしないか


頼みがある関所を抜ける手伝いを

豪雨は止まぬ 話し次第だな


人をあやめました まんま訳ありか

博徒ばくとの俺に話すもんかね


人買いに見えませんでしたふふと笑う

なまめかしいもう抱いてしまえ


佐渡に行く佐渡にいかねばと念仏か

何とも気がえるしゃあねえか


騙されました 襦袢じゅはんの乱れ整えつ

噛み締めるよう騙されたのです


おれじゃねえ 血だらけの顔 

青く腫らし引っ立てられる明日嫁ぐ相手ひと


呼び出しは御奉行様おぶぎょうさま

めかけになれ、なれば罪には問わぬ 蝦蟇がまの口


五年間 離れから出ず

お勤めを果たす日々それだけの日々


奥方に使いを頼まれ長屋へ

とても嫌な笑みに見送られ


目が覚めた、いや金縛かなしば

腹の上に女は正座そのまま続く


泥を投げ叫ぶ狂女きょうじょは彼の母

佐渡送りの沙汰さたわれのせい


夜叉やしゃになる 汚れた裸体朱に染めて

全て斬り捨て生きるものなし


訥々とつとつと語る凶行 

白無垢は着れぬ慕情 佐渡へ佐渡へと


突然消えた やはり佐渡には行けないか

午前二時半ここは横須賀


二百年会えぬこころは地獄道

女は唄うかそけし哀歌




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