EP6

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…………。


……。

 

 氷の部屋で二人きりで抱き合っている、銀髪の女と雪だるまの紳士。

雪だるまは彼女が部屋から出て行く事を望んでいるのが、彼女が不意応えた。


「ふふふ。

 実は、……もう遅いの。

 ほら見て?

 足が凍って床に張り付いちゃったの。

 もうここから動く事が出来ないのよ。」

彼女は嬉しそうに言う。


 低体温で限界の身体だ。

氷ついた足を引きはがし、引きずって扉を開ける事は出来ない。


 ましてや天涯孤独な女の子だ。

誰かが助けに来るなんてこともあり得なかった。


「なんてことだ……。

 じゃあ、もう……。

 ここで二人で凍てつくしかないじゃないか……。

 嗚呼、僕は貴女にもっと生きて欲しかった。」


「貴女にはもっと素晴らしい未来への選択があったはずなのに……。

 どうして僕なんかのために……。」

雪だるまは落胆して言う。


「ダーリン。

 見くびらないで。

 言ったでしょう?

 私がこうしたかったの。」

銀髪の娘は強いまなざしを白い男に向ける。


「愛しさとは、私の全部で貴女を抱きしめる事なの。

 これが私の貴方への気持ちなの。」


 氷の部屋で、銀髪の女の子は、雪だるまを抱きしめている。

自らの命をいとわない、彼女の愛。


「それは間違っているよ……。」

雪だるまは言う。


「貴女には未来があった。

 この世界を生きて行く自由があった。

 見てごらん?世界はあんなに美しい。

 貴女ははあの世界で生きて行く事だ出来たんだ。」


 雪だるまから出るはずのない涙が溢れる。

それはビー玉の端から、鼻筋である人参を伝い、彼女の涙と同じように、途中で凍ってしまった。


 この小さな氷の部屋の中で彼女の命も凍り付き、尽きてしまうであろう。


 雪だるまは命を大切にと言った。

銀髪の女の子に生きて欲しいと願っていた。


 美しいこの世界で、冬の冷たさも、春の暖かさも、夏の暑さも、秋の穏やかさも感じて欲しい。その人生がずっと続く限り。


「生きていないと何も感じる事は出来ないんだ。

 僕は貴女に命をもらって、世界を感じられて、貴女の温もりを知れて、本当に幸せだった。

 貴女はこれまでも、そしてこれからも……。

 僕が感じた様な幸せと、もっともっと出会っていくべきだった……。」


 それでも銀髪の娘には一遍の後悔も無い。


「一瞬の人生でもいいんだよ。

 貴方に出会えた。

 それでいいの。

 ……ううん、それがいいの。

 それだけが私の人生で一番の幸運だったの。

 ほら貴方と私はここで永遠になるの……。」

彼女はいよいよ目を瞑り幸せそうに笑って言った。


「嗚呼、もう。

 ……僕の大切な人は、本当にしょうがない人だ。

 僕は貴女と出会えて本当に幸せだった。

 僕を生んでくれてありがとう。」

彼女の胸の中で感謝を伝える雪だるま。


「うん。ダーリン。

 ……私も貴方と出会えて良かった。

 貴方のいない世界なんていらない……。

 ……これからも……永遠に……一緒……だ……よ…………。」


…………。


……。


 それからしばらくして、冷たい白い男は気付いた。


「あぁ、もう鼓動が無くなった……。

 貴女はもう完全に氷ってしまったんだね。」

雪だるまは1人で呟いた。


 そして二人は、愛の氷の部屋で、抱き合ったまま凍り付いた。

命は永遠を越えて行くのであった。


…………。


……。



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 それからどれほどの時間が経ったのであろうか。


 春夏秋冬、季節は廻る。

毎年同じ季節を越えても一つとして同じ瞬間はない。

 出会いも別れも、繰り返されて終わりがない。

人々は無数にある選択肢を永遠に選び続けて、常に新しい何かを探していく。


 しかし、刹那の命を選んで、永遠を信じた者がここに眠っている。

名前も知らない、どこにあるのかさえ分からない、どこかの国の、どこかの街。


 その街のすみっこ。

誰かの家の小さな庭の氷の小屋。


 耳を澄ますと”ジジジジ”と部屋から何か音が聞こえる。


 なんてことはない、冷凍庫の様な小部屋に今も眠っていると言う。


 優しい顔の雪だるまと、それを愛しそうに抱きしめる銀髪の女の子の氷の彫像が。


それは仲睦まじく笑って永遠を生きているのだそうだ。


…………。


……。


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【楽曲を小説にするシリーズ】スノーマンを抱いて bbbcat @bbbcat

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