EP5
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春の魔法により、世界は変貌した。
雪の冬の世界から、穏やかな光を蓄える春の世界へと……。
鳥の囀りが若葉の匂いを運んで、新しい命の息吹を教えている。
銀髪の娘が創った雪だるま。
意志があり、彼女を慕う冷たい紳士。
氷の命は暖かな世界では生きてはいけない。
雪だるまは冬を越えられない。
銀髪の女の子が愛した雪だるまは、息をひきとることしか事しか出来ないはずだった。
…………。
……。
「はぁあぁぁぁ……。
……見て?
こんなに息が白い……。」
銀髪の女の子は大きく息を吐いた。
すると真っ白な空気が流れ、その姿を隠す。
覆い隠す事が出来る程狭い空間。
「ふふっ。
……大丈夫。
ここなら貴方は汗すらかかなくていいんだよ。」
彼女はにっこりと笑いかける。
ここは、銀髪の少女の家の庭に置いてある小屋。
2人はそこにいた。
それは畳3じょう程の小さな部屋で、壁や屋根は木やレンガ等ではなく、アルミか何か分からないが、金属の様なもので出来ている。
風が入る小さな隙間もない造り。
部屋の中には大きな箱が設置されており、中身は分からないが何かが”ジジジジ”と動く音が聞こえている。
外壁は熱く、周りの雪は完全に溶けて帰化したのか、水溜まりも何もない。
周りには雑草なども生えてはなく、ただ小屋がそこに在るだけであった。
氷の魔法なのか、中はひんやりと、摂氏マイナスの温度が維持されている。
それはまるで大型の冷凍庫の様なものである。
「嗚呼、駄目だと言ったのに……。
奇跡的に夜を越える事が出来たのに。
ほらこんなに身体を冷たくして……。」
雪だるまはいよいよ嘆いてしまう。
「これが貴女の言っていた、一生溶けない部屋だね?
ほら、貴女の命の火がもう消えてしまいそうだ。
早く暖かな家に帰って。
僕のことはここに置いておいて?
そうしたら、また明日会えるじゃないか。」
雪だるまは彼女の胸の中で言う。
夜の間に彼女の身体はもう既に完全に冷え切っていた。
それがこの冷凍庫の中に入ったのだ。
たちまちのうちに凍り付いてしまうだろう。
「いいの。貴方をこうやって抱きしめたいの。
私がずっとこうしてたいって思ったんだから……。」
女の子は幸せそうな顔で雪だるまに語りかける。
「……それにほら。
私がこのまま凍っちゃったら、氷の彫像みたいになるでしょ?
雪だるまの貴方と一緒になれるんだよ……。
私それが嬉しくて一番幸せだよ。」
嬉しさのあまり彼女は涙を流す。
体内のなけなしの水分。
目尻から頬を通り過ぎる頃には既に凍ってしまった。
「僕は貴女に生きていて欲しいんだ。
僕と一緒になんかならなくていい。
温かい体温で、優しい瞳で笑顔で生きている貴女が好きなんだ。
ほら、まだ間に合うよ!
お家に入って!」
雪だるまの彼女への最後の嘆願。
…………。
……。
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