EP4
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銀髪の娘は強い意志を愛する冷たい男に伝えた夜。
それからどれ程時間が経っただろうか。
この夜のことは神様も知らない。
白銀の世界の二人の秘め事。
冷たくて優しい雪だるまと、白くて真っ直ぐな女の子の、恋の歌。
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まるで永遠の様な白だけの世界にも、やがて終わりが訪れる。
―――もう大丈夫。
空が青白く、ぼうっと輝き始めた。
夜が終わりを迎えようとしている。
辺りは完全な闇からゆっくりと抜け出して行く。
視界がなく、風が”ビュー”っと吹く音と、雪の積もり重なる音しかなかった世界が、空の変化に合わせて少しずつ温度を取り戻してきた。
―――貴方がいれば私はそれだけでいいの。
吹きすさぶ雪と風は、不意に滲みだした空の明るみと共に勢いを弱め、とうとう最初からそんなものは無かったかの様に辺りは静かになった。
そして夜のカーテンは、登り来る一筋の強い光によって完全に開け放たれる。
太陽が顔を出す。
つまり朝がやって来たのだ。
陽の光は、夜の間の人の体温すら凍らす程に奪う寒さを、その優しい熱で消して行く。
―――嗚呼、やっぱり私は貴方のその笑顔が大好き。
暖かな光は静寂を溶かして、鳥だとか小さな虫だとか、蒼く咲く若葉だとかに届いた。
冷たい真っ白な世界では、生きてはいけない生き物達。
その生命の叫びは高らかに朝に伸びて行く。
それだけなら、ただ朝が来ただけだ。
雪だるまは、陽の光に少し身体を溶かし、銀髪の娘が溶け部位を雪で補強する。
繰り返した、冬に日の朝のルーティーンだ。
しかし今朝は様子が違う。
生物たちの歌声が止まない。
空はさらに青く高くなって、生の喜びを受け止めた。
小さな命の小さな声は無数に集まりいつしか不思議な力を帯びる。
それはまるで季節を運ぶ魔法。
命の煌めき達が起こす大合唱が、真冬の朝に奇跡を起こした。
―――……美しい。貴方の言う通り、本当に世界は美しいのね……。―――
燦々と輝く光は、春と言う名の熱を運び、この氷と雪の世界を暖めて行く。
”ザァアァァー”っと一縷の風が世界を通り過ぎた。
それは銀世界に一斉に新芽が生まれる音だった。
その音が号令だったかの様に、世界を真っ白に染めていた雪がみるみると溶けだして、大地に染み込んで行った。
潤沢に水を蓄えた大地には所々に水溜まりが出来る。
それがまた自然の鏡となり、太陽の光をキラキラと反射している。
―――……ほら、貴方も見える?
キラキラして……貴方の瞳、みたいだよ……。―――
見える全てがキラキラと温かく輝く。
夜の闇の白の世界が嘘だったかの様に、今は世界が輝いている。
生き物達の大合唱は季節を運ぶ魔法となって、春を呼んだのだった。
当然こうなれば雪だるまは溶けて消えてしまうしかない。
彼の望み、銀髪の女の子に抱きしめられながら最後を迎えるしかない。
しかし、2人がいた場所には、バケツや、鼻の人参も何ひとつ落ちてはいない。
2人の姿はもうここにはなかった……。
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