EP3
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……。
…………。
銀髪の娘は大切な人の傍にいたいだけ。
ただそれだけ。
しかし、冷たい男はそれだけで済ますわけには行かない。
「……いいの。
貴女の気持ちは分かった。
でも僕には貴女が全て。」
雪だるまは言う。
「……それ以外どうなったっていいの。
僕の命ですらも……。
貴女が幸せなら、僕の命ならどうでもいいんだよ。」
微笑んだように言う男。
「ほら、もう外はこんなにも冷たい。
僕は……溶けてしまって構わない。
ほら、ね、貴方のお家へ入ろう。
そしてそこで貴女の体温に溶けて一つの命になりたいんだ。
貴女は濡れて冷たいかもだけどさ。」
雪だるまの願い。
この世に生まれて、初めて喜びを知った。体温の温かさを知った。
誰かに想われる幸せを知った。
全てそれは彼女からもらった物。
彼女に造ってもらって得た全て。
雪だるまにとって、彼女こそが世界の全てである。
そして、これから訪れるであろう出来事。
大切な人と別れる悲しみと、自分の命が消えてしまう事。
雪だるまとして生まれた命の儚さ。
それすらも、この世に産んでくれて、沢山のことを教えてくれた貴女に与えて欲しい。
僕の最後も貴方に与えて欲しい。
そう思う雪だるま。
「いいの。
僕にはこの世界は貴女が全てなんだよ。
……だから強く抱きしめて。
それでこの世界を終わらせたいんだ。
貴女の温もり全部が良いの。それが僕のこの世界の全てだったと思わせて欲しいんだ。
ほら。笑って僕を抱き寄せて、最後に貴女の笑顔を見せて?」
雪だるまは言う。
しんしんと雪が降り続ける夜更け。
雪だるまは嘆願する。
大切な女の子に自分の全てを終わらす事を求める愛の願い。
その”最後”を求める雪だるまの声に反論するかの様に、銀髪の少女は、強く強くハグをする。
石の様に硬くなった雪だるまの身体は、娘がどれだけ強くハグしようがへこむことはもう無い。
強い風が吹き、雪だるまの頭の赤いバケツはガタガタと音を立てた。
抱きしめる彼女の腕は、真っ白。
元々の白さに加え、極寒の中、雪だるまを抱きしめ続けた結果。
もう体温などなく、抱きしめたとて雪だるまは溶ける事は無かった。
「……えへへ。
ほら。
もうこうなったら、どれだけ傍に居ても、強く抱きしめても、大丈夫だよ。
貴方の傍に居たいの。ずっと、ずっと、ずぅ~っと。こうして居たいんだよ。」
彼女は笑って、雪だるまを抱き寄せた。
それはそれは、満面の笑顔で。
雪だるまが言ったこと。
強く抱きしめる事も、笑って抱き寄せる事も、銀髪の彼女は、全て願いを叶えている。
ただ、彼女自体が衰弱しきっており、雪だるまの思う通りには行かない。
「ダーリン……。
見くびらないで?」
彼女はいたずらな笑顔を見せて言う。
「愛しさとは、私の全部で持って抱きしめる事だよ。
私だって貴方のためだったらこの命を差し出せる……。」
抱きしめる腕に力が入る。
「そばに居たいと誓ったよね?
一人になんかしないよ?
私の愛はそんな簡単に折れたり諦めたりしないんだよ。」
彼女は震える唇で言う。
青白くなっており、温度はもうない。
しかし、彼女の言葉と、その目には、真っ直ぐな熱い意志がある。
大切な彼と添い遂げたいと言う真っ直ぐで純粋な気持ち。
彼女にとって、自分の命も雪だるまの命も、同じ重さなのだ。
命など、もう二人には取るに足らない。
時間と言う概念もいらない。
永遠を通り過ぎて、ずっと一緒にいられると彼女は思っているのだ。
…………。
……。
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