EP2

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……。


…………。


「ダーリン……。

 ……ダーリン!!

 嫌!!

 なんでそんなこと言うの!」

銀髪の女の子は、熱い気持ちをぶつける。


 彼女の瞳は台座に乗った雪だるまとぴったり同じ目線で繋がる。

雪だるまはビー玉の様な瞳で真っ直ぐ彼女の瞳を見つめ返す。


「見捨てないで!!

 消えようと思わないで!

 ……ずっと傍に居て……。」


 銀髪の娘は、縋る様に冷たい男を抱きしめた。


「大好き!!

 その人参の鼻が食べたいくらいに大好きなの!!

 そしてその大きなビー玉の瞳!

 キラキラしてて私の全部を肯定してくれてるみたい。

 貴方がそばに居ると安心するの……。

 だから……。

 私と一緒に生きて?」

熱い女の子は雪だるまに微笑みながら言う。


「そう出来たらどんなに良いか……。

 でも僕は雪だるまで、貴女は人間なんだ……。」

雪だるまは困り顔。


「分かってる!

 それでも……。

 雪が溶けて冬が過ぎて……。

 春が来て若葉が茂っても傍に居いて……欲しい。」


 銀髪の娘の頬から伝う涙が、雪だるまの顔を溶かす。

そしてその溶けた部分が外気の冷たさにあたり、強固に凍る。


 それはまるで二人の愛みたいに……。


 夜の帳が降りる中。

しんしんと雪は降り積もる。

気温はまた一層下がった様だった。


…………。


……。


「私は貴方がいない世界はもう要らないよ?

 私は孤独で、生きてるなんて実感一つも無かった。

 ……貴方と出会うまでは。」


 どういう経緯でこの街で一人で暮らしているのかは分からない。

しかし銀髪の娘は、この小さな家で一人で生きていた。


「独りだった私に光をくれたのは貴方。

 喜びも、楽しいも、嬉しいも愛しいも……。

 くれたのは全部貴方なの。」

彼女は真冬の夜空の下大切な雪だるまを抱きしめながら言う


 冬の始まり、創って、出会って。

それから二人は今まで同じ時を過ごして来たのだった。

 しかし、雪だるまにはこのまま今夜を乗り越える事は出来ないらしい。

芽吹く春がもうすぐそこまでやってきているからだ。


「違うよ。僕と出会ったからじゃない。

 貴女の世界は初めから素晴らしい。

 初めから美しいんだ。」

優しい男は言う。


「もう夜で真っ暗だけどさ。

 光は溢れ、喜びも悲しみも等しく貴女に何かをくれる。

 少なくとも僕にはそうだった。」


 雪だるまは台座の上でこの冬の間、世界の美しさを目の当たりにした。


「貴女に出会えた喜びも、貴女と別れる悲しみも、これはきっと僕の宝物。

 僕がこの世界から……、君が僕を生んでくれて、見せてくれたこの世界からもらえる、僕の生きた証だ。」

冷たい男は続ける


「冬のこの一時だけだったかもしれない。

 でも、時間の長さじゃない。

 これは光だ……。」


 雪だるまは、今もなお泣き続ける彼女の涙を受け止める。

動かせない身体は不自由だ。彼女を抱きしめることが出来ない。

その手を握り返す事が出来ない。


「……光は、いつか僕を溶かすだろう……。

 いつの日か、……そう遠くない未来か。

 でも、だから今。精一杯貴女を愛したい。

 僕はあなたの心の中に残る光になるから……。

 雪が溶けて、春が来る。

 そうすると、街に緑が生い茂って、花やいで来るだろう。

 僕の身体は溶けてしまって、雫になって街の花や、草に染み込んで行くよ。

 そうしたら僕は草葉の陰から貴女を見守っていられるだろう?」


 刹那の中に、大切な貴女との幸せを紡ぎたい雪だるま。 

これは彼女を想う優しい白い男の愛の詩。


 銀の髪の娘は、それでもなお動かない。


「世界はきっと貴方をこのまま奪ってしまう……。

 そうしたらもう私はこの世界が、淀んで黒く見えてしまうよ?

 憎んでしまう。」

彼女は言う。


「見え方なんて一方通行じゃないの。

 光なんてもうきっと見えない。

 貴方のいない世界に光はない。」

彼女の顔が暗くなる。


「きっと、ずっとおばぁちゃんになっても私は貴方を想って泣き続けてしまうよ?

 貴方のことを探し続けてしまうの。

 私には一瞬なんてないの……。

 一生貴方の傍にいたいの……。」


 銀髪の娘の愛は折れない強い本当の気持ち。


 その手を、腕をずっと離さない。

彼女の頬を伝う涙は、凍ってさらに体温を奪う。

白い肌は更に白く青くなっていく。


…………。


……。


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