EP1
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今よりずっと遠い遠い未来の事か……。
それとも遥か遙かな過去の事なのか……。
現実なのか作り話なのかそれは分からない。
でも、多分これは……。
限りなく強い愛の詩。
今も昔もこれから先も、誰かを愛すると言う事は何も変わらず、美しくて普遍的だと言う事。
誰かを愛すると言う事は、断固たる覚悟で貫き通すと言う事。
誰かを愛すると言う事はどういう事なのかと言うお話だ。
行き過ぎた愛なのかも知れない。
だけど、当人にとってはかけがえのない、たった一つの人生。
それはまだ息が白く凍る様な、雪が降る冬の話。
どこか分からない小さな街。
魔法の世界なのか……、科学の世界なのか。
奇跡や不思議な事がいくつも起こる素敵な世界。
そんな世界の、小さな街の小さな家の小さな庭で、起こった不思議で奇跡みたいな出来事。
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……。
…………。
優しくて冷たい男と、真っ直ぐで熱い女が、抱き合って話し合っている。
「……いいの。僕なんてどうなったっていいの。」
男は言う。
「ありがとう。僕を作ってくれて。命をくれて。」
冷たい男は続ける。
「そして……出会ってくれて、ありがとう。
貴女のそばなら、いいの。
その体温に包まれて眠りたい。」
少し汗をかいた冷たい男は、それを拭うこともなく、腕を伝い地面にぽたぽたと落ちて行く。
「……その貴女の優しいその腕の中で眠りたいんだ。
いいの。
分かってる。消えてしまってもいい。
……なくなったっていいんだ。」
冷たい男は言い切る。
その男は人間ではなかった。
冬の猛雪により積み重なった白い結晶。
それを集めて、丸くして、転がして太らした玉二つ。
1つは出来るだけ大きく。そしてもう一つはそれよりも小さく。
そして、その小さい方を上にして二つ重ねたオブジェクト。
それが彼だった。
赤いバケツを被った大きな雪だるま。
鼻には赤い人参、目は拳台のビー玉。
そして、腕には木の棒二つが刺さっていて、足は当然ない。
その白い男が貴女と呼ぶ相手によって、この世に生み落とされたらしい。
赤いマフラーも彼女の物だろう。
真っ赤な帽子バケツと、マフラー、そして、真っ白な身体。
赤と白のコントラストがくっきりと映えて、この白い雪の世界の中心の様に思えた。
「……いいの?
私がこのまま抱きしめてしまったら……。」
熱い女が言う。
「もし、お家に連れて帰って一緒に眠りに落ちてしまったら……。
貴方は、溶けてしまっていいの?
もう私と会えなくなるんだよ?」
熱い女は泣きながら言う。
「……私は貴方のいない世界でなんて生きて行けない。
そんな世界要らない。
……貴方の為ならいいの。……いいんだよ?
ほら……。
一生溶けない部屋もあるよ。そこならきっと大丈夫。」
まだ20歳程のその娘は、冬の寒空の下、貴方と呼ぶ白い男を抱きしめて言う。
絡める指は男の枝の間に収まる。
折れぬ様に優しく、慈しむ様に触れている。
その女は美しい銀髪の髪を束ねて真っ白い肌を男にピッタリ寄せている。
触れ合う事に、意識してかその頬は仄かにピンクがたつ。
「ありがとう。
うん、貴女の暖かいお家へ入ろう。
そろそろまた今夜も、うんと寒くなってくるよ。」
雪だるまは言う。
「溶けて消えてしまっても、それでいいんだ。
僕は貴女に逢えてそれだけで幸せだったんだ。
今その肌の温度に触れられて、”チリチリ”と僕の頬にも湯気が立つ。
……それがいいんだ。
それが雪だるまとして生まれた僕の定。
一生溶けない部屋なんて要らない。
二人の愛にはそんなもの必要ない。」
雪だるまは言い切る。
大切な人とのこの一瞬を生きたい。
それもまた貴女と呼ぶ娘に作られたのだろう。
白い大きな雪の台座の上で白い男は彼女を見つめる。
「やだ、貴方がいない世界なんて想像出来ない。
なら……、ずっとここに居よう?
そしたら、朝にはちょっと溶けちゃうけどさ。
私が治してあげるし、ずっとずっと一緒にいられるよ!」
彼女の顔は美しく氷の様に透明感があり、綺麗だった。
着るコートは華やかなスカイブルーで、その白い肌を更に引き立てる。
しかし、鼻からは薄らと雫が垂れて、体温は冬の寒空に奪われて。
そのコートでは防ぐ事は出来ない様だった。
「駄目だよ。
ほら、そんなに寒そう。
この街の冬の夜は、とても寒いよ。
とてもじゃないけど、ずっとこんな所に居たら貴女が凍え死んでしまうよ……。
さぁ、僕を連れて暖かいお家へ帰ろう。」
雪だるまは想っている。
愛しい貴女の健康や幸せを。
暖かい部屋で安寧に過ごして欲しいと。
…………。
……。
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