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村長の家の三軒隣の葉倉の嫁がオクエ様の声を聞いた。
カヤシの儀を行わなくてはならない。
しかし、今村にはオロシの儀を行える十二歳以下の子供がいない。
決まりを破れば更なる災厄が降りかかるかもしれない。
攫ってくるべきか、村の男衆で話し合った。
いくら話し合っても結論は出なかった。
代還童子の候補は十二歳以下の子供、それは昔からの決まり事だ。
それ以上では失敗したという記録も残っている。
村長が我々に見せたのは村史の平安時代の頃の記録だった。
不作で子供がおらず、若い娘を它胎洞へやったが娘はかえらなかった。
結果周りの村も巻き込む土砂崩れが起きたとあった。
子供でなければ代還童子に選ばれることはない。
夜を通しての話し合いの間もずっとオクエ様のお声がする。
村長の家の周りを回っているらしい。
早くかえせと、そういうことなのだろう。
男衆の間には重い沈黙だけがあった。
苦肉の策で、十四歳の子供を呼び出した。
古路木の長男だ。賢く優しい子だ、きっと分かってくれる。
皆で囲んで社へ向かった。
オロシの儀を行う。
現世の身を切り取る作業を任された。
オクエ様の身は柔らかく、少し温かかった。
村長の家に伝わる匕首で薄く削ぎ落す。
刃を入れた直後に少し動いたので驚いた。
注連縄で何重にも固定されている理由が分かった。
古路木の長男に食わせた。泣いて嫌がったので苦労した。
逃げようとするので縄をかけ、皆で曳いて它胎洞へ向かった。
カヤシの儀に参加するのは初めてだ。緊張感がある。
代還童子を真ん中に、皆で縄を持って洞内を歩く。
選ばれれば代還童子はかえるので、ここを「還り道」と呼ぶそうだ。
最悪だ。この子では駄目だった。
它胎洞を出てすぐ村長の怒鳴り声がした。
振り返ると、縄に繋がれたままの古路木の長男が見えた。
かえらなかったのか、と理解して目の前が真っ暗になった。
やはり駄目だった。足下が揺れている気がする。
気のせいではなかった。
お山が揺れている。
かえることの叶わなかったオクエ様が怒っている。
地面に亀裂が入った。お山が崩れる。
村はおしまいだ。
誰かがこの後、カヤシの儀を果たし、オクエ様をおかえししてくれれば。
この村はまた栄えるだろう。
還り道はここだ。
最後の力で手を伸ばしたが、できることは無かった。
オクエ様が出ていってしまう。
そう思うと、涙が出た。
カエリ道―它倉村の記録― ふとんねこ @Futon-Neko
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