最終話 

「いいんです。もっとしてくれても……勇人くんは私の身体を滅茶苦茶にしてください。そうすれば……私は勇人くんだけのものになります」


「そ、そんなこと……」


「婚約者なんだからいいですよね? 勇人くんの子供を生んでもいいんですよ?」


 妊娠してもいい、とすら愛華は言った。さすがに、いくら五侯家の婚約者とはいえ、高校生で妊娠するわけにはいかない。

 スキャンダルになる。


 けれど、愛華は本気のようだった。


「ともかく、私が一番ふさわしいんです。勇人くんと結婚するのも、勇人くんの子供を生むのも、勇人くんの恋人になるのも……。志帆さんやマリヤお姉ちゃんではダメです」


「あの……さっきから気になっていたんだけど、『マリヤお姉ちゃん』ってどういうこと?」


 愛華はちらりとマリヤ姉さんを見た。マリヤ姉さんはこくりとうなずく。

 そして、愛華はため息をついた。


「私と千桜マリヤは、父親違いの姉妹です。つまり、私は、雨宮和樹が千桜アナスタシアを手籠めにして産ませた娘なんですよ」


 マリヤ姉さんと愛華が、異父姉妹だという事実が明かされ、俺はベッドから転がり落ちそうになった。


 たしかに、愛華の母親は雨宮家の前妻だった外国系の女性と聞いている。実際には前妻ではなく、愛人だったんだろう。


 愛華もマリヤ姉さんも、母親譲りの青い瞳をしている。


 最初に会ったとき、マリヤ姉さんは「きょうだいに会いに来た」と言った。あれには二重の意味があったんだろう。


 新しい弟の俺と、昔からの妹の愛華。その両方に会いに来た、と。


「そして」と愛華は言う。「マリヤ姉さんは、千桜アナスタシアと羽城智人のあいだの子供です」


 つまり……マリヤ姉さんは、俺の異母姉だった。

 マリヤ姉さんは知っていたらしい。肩をすくめる。


「あーあ、バレちゃった」


「実の姉なら、どうして、俺とキスしたり……したんですか?」


 マリや姉さんは寂しそうに笑う。


「わたしは君のことが好き。それは本当なの。昔……羽城のパーティで初めて会ったときに、君だけが優しくしてくれた。『マリちゃん』って呼んでくれたよね」


 それで思い出した。たしかに、幼い頃に俺はマリヤ姉さんと会ったことがあるらしい。マリちゃんというのは、羽城の係累だといっていた少女だ。


 小学生のときに会って、俺は年上の彼女とすぐに仲良くなった。お互い、ピアノを習っていたこともある。


 最初は羽城のパーティで会ったけど、それ以来、コンクールとかピアノ関係の場所で何度も会ったと思う。

 愛華とは違って、マリちゃんは決して天才というわけじゃなかった。小学生にしては十分上手だったけれど、俺もかなりの腕だったから、彼女に教えてあげたりもしたっけ。


 ふふっとマリヤ姉さんが優しい表情を浮かべる。


「わたしは、あのころ、君が弟だって知らなかった。あとで私の父が羽城の当主で、母が捨てられたって知ったの」


「そうだったんですか……」


「でも、一度好きになったのに、諦められないもの。だから、君がわたしを実の姉と知る前に、女の子として意識させたわけ」


 それで、マリヤ姉さんがかなり積極的だった理由も納得できる。


 愛華が横から口をはさむ。


「姉さんは知らないと思いますけど、羽城のお義父様は、私たちの母親を愛していたんです。二人は同級生でしたから。でも……雨橋が……私の父が、それと、お義母様、つまり羽城文香さんも、クラスメイトで、二人は結託して……」


 千桜アナスタシアを雨宮家に強奪させたのだという。

 羽城智人は、アナスタシアと駆け落ちするつもりだったらしい。でも、千桜アナスタシアは雨橋の家で軟禁され、手籠めにされて妾となることを強要され、愛華を産んだ。


 そして、羽城文香は、智人を婿養子として迎え、愛する人を夫とした。

 そんなドロドロの過去があったなんて、俺は知らなかった。


「そして、羽城家と雨橋家は、私と勇人くんを婚約させました。これは罪滅ぼし……だったのだと思います」


 本来なら結ばれるはずだった、智人とアナスタシア。

 それを次代の息子と娘で実現させる。それが羽城智人、羽城文香、雨橋の当主、そして千桜アナスタシアのあいだの約束だった。


 智人や文香が、愛華にこだわる理由がわかった気がする。


「だから、私が勇人くんと結ばれるべきなんです」


 愛華はそう言い切って、俺を上目遣いに見た。

 マリヤ姉さんはずっと考え込んでいたが、口を開く。


「それなら、わたしでもいいじゃない?」


「え?」


「アナスタシアの娘は、わたしも同じ。雨宮の血は引いていないけどね」


「まあ、それはたしかに……でも、マリヤ姉さんは姉ですし……」


 マリヤ姉さんは俺にすっと顔を近づけ、キスをした。

 一瞬のことで、抵抗もできなかった。


 俺から離れると、マリヤ姉さんは笑った。


「もうわたしのことを女の子としてしか見れないくせに」


「そうさせたのは、マリヤ姉さんです!」


「ふふっ、嬉しいな。わたしも……君の子供を産んであげる」


「で、でも……」


「君もわたしに欲情しているくせに」


 そう。俺はマリヤ姉さんを異性として意識している。こんな魅力的な美少女が俺を好きだと言ってくれるのだから。


 志帆がそんな俺たちのあいだに割って入る。


「あ、あたしを忘れないでよ! あたしが一番兄さんのことを好きなんだから! あたしも兄さんの子供を生むの!」


 そんなとんでもないことを言い、志帆は顔を真っ赤にする。

 そして、愛華、志帆、そしてマリヤ姉さんは一斉に俺を見つめる。


「私が勇人くんの一番になってみせます」

「愛人でもいいから、あ、あたしを愛して」

「血が繋がっているわたしが、一番君のことを可愛がってあげられるよ?」


 俺は三人の美少女に同時に迫られ、逃げ出したくなった。

 このなかから一人を選ぶなんて、できるんだろうか?


 いや、選ばなくてもいいのか。もし俺が覚悟を決めれば、全員を妻にすることもできる。

 一人が正妻で、ほかは愛人という形だけれど。


 彼女たちを一番幸せにする方法はなにか。


 俺の頬を、マリヤ姉さんが触り、ふふっと笑った。









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完璧美少女の幼馴染婚約者を裏切って、小悪魔でエッチな姉と恋をした 軽井広💞クールな女神様 漫画①3/12 @karuihiroshi

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