第19話 愛華
「あ、愛華さん……! こ、これは違うの……!」
志帆が慌てた様子で言う。
「違うって、どういうことですか? 結局、私から勇人くんを奪おうとしていたんでしょう?」
「そ、そうじゃなくて……これは兄と妹のスキンシップで……そ、それにあたしは一番になるつもりなんてない。愛華さんが正妻で、あたしは二番目の愛人でいいから」
「そんなの認められません。勇人くんは私だけのものです」
愛華は冷たい表情で、一蹴した。志帆は「うっ」と黙ってしまう。
それはそうだろう。
彼女は誇り高い雨宮家の娘なのだから、愛人など認められるはずもない。
そして、愛華はくるりとマリヤ姉さんの方を見た。
「これは全部、あなたが仕組んだことですか?」
「そうね」
「やっぱり、生まれたときから、私たちは敵同士ですね」
「仲良くできないかしら?」
「無理ですね。たとえ、腹違いの姉妹でも」
愛華は淡々と言った。けれど、今、なんて言った?
俺と志帆は顔を見合わせる。
愛華とマリヤ姉さんが姉妹?
その愛華は、急に優しい表情で俺を見つめた。
「勇人くん。悪い女に騙されちゃダメです」
「愛華は何を知っているのさ? 婚約者の俺に教えてくれないの?」
「そうですね。でも、そのまえに勇人くんに聞きたいです」
「え?」
「二人にはどこまでしましたか?」
「それは……」
「答えてください」
愛華の有無を言わさない表情に、俺は洗いざらい喋らされる羽目になった。
「つまり、キスもしたし、胸も触った、と」
「ごめん。愛華、裏切るような真似をして」
「そうですね。私、とっても怒ってます。でも、それは勇人くんが浮気したからじゃないです」
「え?」
「勇人くん、本当は私のこと、全然好きじゃないでしょう?」
愛華は淡々とそう告げた。
そう言われると、それはそうだ。
愛華は幼馴染で、ずっと一緒にいる存在だった。そのせいで、異性として見ることができない。義妹の志帆は出会ったのが遅かったから、何なら志帆以上に愛華は妹みたいな存在なのだ。
「まあ、そんな勇人くんが私以外の女の子とイチャイチャしていたところで、裏切りにもカウントできませんよね?」
「でも、俺は愛華の婚約者だしね」
「それが良くないんです」
「え?」
「勇人くんは私のことが好きじゃないなら、私を好きにしてみせます。たとえ、婚約者じゃなかったとしても、私を婚約者にしたいと思うぐらい。ううん、両親が認めていなくても、私をさらってでも結婚したいと思うぐらい、です」
愛華は昔から俺にべったりで、今もこんなに俺を好きでいてくれる。
それはどうしてなのだろう?
「私って美人で優しくて、勉強もできて、ピアノも上手いし、天才でしょう?」
愛華がそんなことを平然と言ったので、俺はかなり驚いた。
いつも愛華は控えめで、自慢するような発言とか、まして傲慢な発言なんて、一度もしない。
だけど、今日の愛華は別のようだった。
「勇人くんが完璧な私のことを嫌っているのは知ってます。でも、私が勇人くんを好きなのは、私が完璧だからなんです」
「ええと、それは劣った存在の俺を気に入っているということ?」
愛華は頬を膨らませた。
「そういうことではありません! 勇人くんは劣ってなんかいません。優れているから、好きなんです」
「俺は……愛華の足元にも及ばないよ」
「違いますよ。勇人くんは私にだって、きっと勝てるんです。少し前は、学年で二番目に成績が良いですし、ピアノだってすごく上手でしたし……昔は私をライバルとして争おうとしてくれましたよね?」
「でも、俺は勝てなかったし、何の意味もないよ」
「私にとっては、そんなことないんです。みんな、完璧な私のことを敬遠して、本当に親しくはしてくれないんです。でも、勇人くんは違いました。婚約者の私に勝とうとしてくれた。私を対等な存在として見ようとしてくれた。勇人くんだけが、私と同じ視点で物を見れるんです。だから、勇人くんのことが好き。ううん、単なる『好き』とは違います。ずっと……一生一緒にいたいんです」
「どうして、それを……」
早く言ってくれなかったのか、と俺は言いかけた。
愛華は寂しそうに笑った。
「こんなこと言ったら、勇人くん、怒っちゃうと思って。でも、私も……覚悟ができました」
そう言うと、愛華はベッドの上に乗り、俺に迫った。清楚なワンピースの上から、大きな胸がぶるんと揺れる。
そして、いきなり俺にキスをした。
マリヤ姉さんとも、志帆とも違った濃厚でとろけるような感触だった。
「ちゅっ……ちゅぷっ……んんっ」
愛華が俺の唇を舐め、俺は驚いて口を開く。その隙に、愛華が舌をねじ込んだ。
まるで愛華の沼にはまるように、俺の舌は愛華の舌に絡め取られる。愛華は必死で俺を自分のものにするように、情熱的だった。
俺はその気持ちよさに溺れそうになり、反射的に愛華を押しのけようとする。けれど、その拍子に、両手で愛華の豊かな胸を触ってしまうことになった。
ま、マリヤ姉さんのよりも大きいかもしれない。俺は思わず、力をこめてしまう。
びくんと愛華が震える。それでも、愛華は俺から離れようとしなかった。「ちゅぷっ……んっ、ちゅっ」と扇情的な音を立てて、俺の唇と舌を放そうとしない。
やがて愛華はキスを終え、俺を解放した。その顔は真っ赤だった。
「……勇人くんのエッチ」
「愛華がしたんだよね?」
「でも、この手はなんですか?」
俺は慌てて愛華の胸から手を放そうとする。けれど、愛華がそれを止めた。
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