第18話 マリヤお姉ちゃんともう一組の姉妹


 翌日は休日だった。いつもどおり、のんびりしたいところだけど……。

 

「おはよう、弟くん♪」「お、おはよ、兄さん!」


 仰向けの俺に、両隣から美少女二人が四つん這いで迫る。千桜先輩と志帆だ。

 二人とも昨日と同じ寝間着姿だ。


 千桜先輩は下を向いて手をついているから、体勢的にその大きな胸が強調されている。志帆も同じで、こぶりな胸だけれど、露出度の高いネグリジェが目にまぶしい。

 

「ふ、二人とも……朝からどうしたの……?」


「決まっているでしょう? 弟くんのことを誘惑しに来たの」


 千桜先輩はどこまで本気かわからない口調で言う。


「ち、千桜先輩、いやいや、誘惑ってそんな……」


 突然、俺は千桜先輩にでこピンされた。大して痛くないけど。

 驚いて千桜先輩を見ると、にやっと彼女は笑う。


「呼び方は、マリヤお姉ちゃんでしょ?」


「……はいはい、ま、マリヤ姉さん」


 俺が仕方なく言うと、千桜先輩――じゃなかった、マリヤ姉さんは「やった! 名前呼んでもらっちゃった!」と(右手以外は四つん這いのまま)ガッツポーズする。


 いちいち仕草が可愛い人だな、と思う。

 そんなマリヤ姉さんに、志帆は対抗心を燃やしたのか、むうっと頬を膨らませる。


「兄さん、あたしのことも見て……」


「ま、まだ酔っ払ってるの?」


「き、昨日はごめんなさい。酔って兄さんに迷惑かけちゃった」


「い、いや、いいよ。昨日のことは俺も忘れるし……」


「忘れちゃ、ダメ」


「え?」


「あたし、兄さんに告白したんだよ? あれは、今も同じ気持ち」


「で、でも、志帆……んっ」


 突然、志帆が俺に顔を近づけ……そのまま、俺の唇を強引に奪った。

 志帆の小さな唇が、まるで貪るかのように、情熱的に俺を求める


「ちゅぷっ、んっ……兄さんと、ファーストキスしちゃった」


 志帆は真っ赤な顔でぽーっとした表情を浮かべている。

 そして、えへへと笑った。


「兄さんも初めてでしょ?」


「えっと、それは、その……」


「も、もしかして違うの? 相手は愛華さん? それとも――」


 志帆はちらりとマリヤ姉さんを見る。マリヤ姉さんはふふっと得意げに笑った。


「残念でした。わたしがあなたのお兄さんのファーストキスは奪ったから」


「なっ、なんで……? いつのまに?」


「昨日の夜、一緒にお風呂に入ったの」


「に、兄さんのハレンチ……浮気者っ!」


 志帆がぽかぽかと俺の頭を叩く。あまり痛くないけど、困ってしまった。


「い、いや、そのあれはマリヤ姉さんに迫られて……」


「ほとんど裸でたっぷりイチャイチャしたじゃない? それに、わたしの胸を無理やり触ってきたし」


「触れって言ったのはマリヤ姉さんでしょう!?」


「女の子のせいにして、責任逃れはカッコ悪いな、弟くん。責任取ってよね?」


「せ、責任って……」


 マリヤ姉さんは終始楽しそうだった。俺にとっては困らされるばかりだけれど。


 そんな不毛な会話の横で、突然、志帆がぽろぽろと涙をこぼした。


「し、志帆……どうしたの?」


「だ、だって、それってつまり、二人は最後までしたってことでしょ?」


「え!?」


「あ、あたし、やっと兄さんと向き合って、兄さんの一番になろうと思ったのに……もう手遅れだったなんて」


「い、いや、最後まではしてないよ!」


「ほんと?」


「ほんと、ほんと」


「なら、兄さんの初めて……あたしにくれる?」


「え?」


「あたしも兄さんに初めてを上げるから」


 志帆はとても恥ずかしそうに、そんなことを言った。


 俺は志帆の覚悟に戸惑った。

 志帆がそこまで俺のことを好きでいてくれるのは嬉しい。志帆はとても魅力的で可愛い女の子だ。


 でも、それこそ俺は責任が取れない。俺には愛華という婚約者がいるし、志帆は羽城の養女として結婚する責務がある。


 政略結婚においても、処女性は大事だ。

 

 志帆はふふっと笑った。


「あたしが兄さんの愛人になればいいんだよ」


「あ、愛人!?」


「今のご当主様には愛人はいないけど、羽城の当主なら、愛人の一人や二人ぐらいいてもいいでしょ?」


「たしかに他の五侯家では愛人はいる家もあるけど……でも、志帆を愛人にするなんて……志帆はそれでいいの?」


「あたしは平気。二番目でも何でもいい、兄さんのそばにいたいの。だって、あたしの居場所を作ってくれたのは兄さんで、兄さんしかあたしにはいないんだもん」


 志帆はそう言って、俺を熱っぽく見つめる。それから、俺の手をつかむと、自分の小さな胸に押し当てた。


「こ、これはさすがにまずいんじゃ……」


「抱いてくれたっていいのに、このぐらいなんてことない。ちっちゃいのじゃ、やっぱりダメ?」


 志帆の胸はたしかに、マリヤ姉さんや愛華と比べると大きくはない。


「えっと、中学生らしくて、これはこれで良いような……」


「本当!? ね、もっと触ってもいいよ?」


 俺は志帆の誘惑に釣られそうになる。マリヤ姉さんがいなければ、その場で揉みしだいていたかもしれない。

 兄の威厳もへったくれもないが、志帆はそれを求めている。


 俺は完全に平常心を失っていた。志帆の甘い香りと、柔らかい胸の感触が俺を惑わせる。

 だが、そのとき、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。


「よくも私の勇人くんに手を出しましたね? 志帆さん……それに、マリヤお姉ちゃん」


 私服姿の愛華が仁王立ちして、そう言った。

 俺は慌てて志帆から手を放す。志帆も顔を赤くして衣服を整えた。マリヤ姉さんは面白そうに俺たちを見比べている。


 シンプルな白いワンピース姿の愛華は、いつもよりずっと美しく見えた。黒髪ロングとあいまって、完璧な清楚系美少女だ。

 青い瞳がとても印象的で、宝石のサファイアのように輝いている。


 それにしても……愛華は今、なんて言った? 「マリヤお姉ちゃん」? 


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