BUFFドランカー最後の使い道

ちびまるフォイ

通常の3倍

「眠い……。コーヒーでも飲むか」


深夜におよぶ勉強。

深夜まで勉強していると終わりが見えなくなる。


気分転換もかねて外に出ると夜の風が肌にあたる。

うす暗い歩道に立つ自販機へ向かい、コーヒーのボタンを押した。


ガタンガタン。


目もくれずに缶のプルタブを開けて気づいた。


「あれ? これコーヒーじゃないじゃん」


缶には『BUFF』と書かれたドリンクだった。


「……もう開けちゃったししょうがないか」


ドリンクを飲んだ直後だった。

眠かった頭は急にクリアになり、体は暖かくなる。


「なんだこれ!? 体から力がみなぎってくる!」


エネルギーがあふれすぎて、家にはダッシュで帰った。

家についてもまるで疲れていない。


家に戻ってからは冴え渡る頭で一気に勉強を終わらせた。


「このドリンクすごいな……!」


勉強を終えてからも体には何でもできそうな万能感だけが残った。

その後で眠ってから数時間もすると元通りになった。


もとに戻ったものの、あの感動は忘れられない。


「あのドリンクがもっと飲みたい! もうあれなしじゃ生きていけない!」


ふたたび深夜にあの自販機へと向かった。

ラインナップを確認してみるが、BUFFのラベルのドリンクはない。


「自販機のドリンク補給する人が間違っていれちゃったんだろうな」


BUFFドリンクの情報も調べてみたがどこにも載っていない。

きっとまだ未発売のものを間違って混入させたのだろう。


「でもここで諦めるわけにはいかない」


バールを手に取ると自販機の扉を力任せにこじあけた。

中には缶がたくさん補充されている。


お目当てのBUFFドリンクも置かれていた。


「やった! まだ残っていた!」


自販機の中に補充されていたすべてのBUFFドリンクを回収する。

もちろん、その分のお金はそっと自販機の中に入れた。


「よしあとは見つからないうちに……」


引き返そうとしたときだった。

両手いっぱいに抱えているドリンクのラベルを見て気づいた。

いくつか異なるラベルが紛れていることに。


「DE・BUFFドリンク……?」


BUFFドリンクと似たデザインで、DE・BUFFドリンクというのも混在していた。


「もしかして、もっと効くドリンクだったりするのかな。家で飲んでみよう」


たんまり買い込んだドリンクを持ち帰り、

そのうちのDE・BUFFドリンクに口をつけた。


飲んだ瞬間、体が一気にだるくなり何もやる気がなくなった。

考えはまとまらなくなり、眠くなっていく。


「あれ……なぁ~~んにもやる気が……でない~~……」


そのまま床に倒れ込み、ぼーっとしたまま数時間を過ごした。

効き目がなくなるとやっと体を起こせるようになる。


「なんてドリンクだ……。こっちは飲むわけにいかないな」


DE・BUFFドリンクを飲んだ瞬間に自分のIQが異常に下がったのがわかった。

今後に控えている試験のためにも飲むわけにいかない。


それからはBUFFドリンクばかりをリピートし続けた。


欠かさず飲むようになってからというもの

たくさんあったはずのBUFFドリンクも底が見え始める。


「残り1本……。最後の1本はここぞというときに飲まないと」


最後の虎の子であるBUFFドリンクは手を付けず、

進学クラス最後の試験の日まで飲むのをこらえた。


試験の日当日。


自分の今後の未来をも決める大事な試験。

ついに最後のBUFFドリンクを開けた。


「よし、完璧だ。これでもう負けないぞ!」


会場のゴミ箱に缶を捨てに向かう。

ゴミ箱を見つけて捨てようとしたとき、中にはすでにBUFFドリンクが入っていた。


「BUFFドリンク!? 俺以外にも飲んだ人がいるのか!?」


あまりに想定外のことだった。

BUFFドリンクで能力向上させて、他人と差をつける作戦だった。


もし、他の人がBUFFドリンクを飲んでいたなら

その人との差はゼロになってしまう。

作戦失敗だ。


「俺が1番になるはずだったのに……。このままじゃまずいぞ……」


冴える頭でぐるぐる考えたときだった。

まだ開けていないいくつものドリンクがあったのを思い出す。


「そうだ。俺が飛び抜けることができないなら、

 俺以外を下げちゃえばいいんだ!」


慌てて家から持ってきたDE・BUFFドリンクを、試験会場のウォーターサーバーすべてに流し入れる。

幸いなことに熱中症対策とかで、みんな半強制的にDE・BUFFドリンクを飲んでくれていた。


「ふふふ。作戦通りだ。これで俺が1番間違いなし」


試験が始まると、すでに勝負は決まったようなもので

DE・BUFFドリンクにより他の受験者はほぼ机につっぷしていた。


たとえBUFFドリンクを飲んだやつがここに居たとしても、

DE・BUFFドリンクで打ち消されているからすでに自分の敵ではない。


完璧な回答で試験を終えた。



数日後、試験の結果が出た。


「あれ? 俺の結果がのってない……?」


間違いなく1番であると思ったのに、

1番は別の人で、それ以降にも自分の名前は出ていなかった。


嫌な予感がする。

自分のDE・BUFFドリンクがバレてしまったのか。


額に冷や汗が溜まったとき、校長がやってくる。


「山田くん、だね」


「は、はい……」


「ちょっと話があるから校長室に来なさい」


「あわわわわ……」


はじめて入る校長室はどこか重い空気だった。

部屋には教師ではない、外部の人間がすでに待っている。


「君の試験結果を見たよ」


「は、はい……」




「すばらしいじゃないか!!」


「え」


「この進学校の生徒の中であっても君の偏差値は100。

 軍を抜いて素晴らしい成績を収めていたよ!」


「お、怒られるとかじゃないんですか?」


「怒るわけないだろう! 私は校長として誇らしい!

 わが校の生徒から、NYASAにスカウトされたのだから!」


「NYASAってあの宇宙猫研究センターの!?」


よく見ると、すでに校長室で待っていた大人の首元には

エリートしか入れない研究機関NYASAのマークがついていた。


「はじめまして。校長から君の能力は聞いている。

 なんでも、他の生徒が5点くらいしか取れないテストで

 君だけが1億点を取ったというじゃないか」


「は、はは……まあ」


「その能力をぜひNYASAでいかしてほしい!」

「山田くん、君はわが校の誇りだ! ぜひ入りたまえ!」


目をキラキラさせた大人に囲まれる。

とても断れる雰囲気ではない。


「も、もし……あの試験が奇跡だったとして

 普段はぜんぜんNYASAにふさわしくない能力だとしたら……?」



「はっはっは。そんなわけないじゃないか。

 あんなに難しい試験を奇跡で突破できるわけない」


「もしもの話です……。た、たとえば偶然選んだ選択肢が

 たまたま正解に何個もハマったりとかで能力以上の結果になったとしたら」


「そうだなぁ」


NYASAのスカウトマンは顎に手を当てて考えた。


「もしも、身の丈以上の能力だと偽っていたなら

 宇宙ロケットに乗ってもらうかな」


「え!? そんな大役を!?」


NYASA職員はニコリと笑った。



「研究部門で役に立たない人は、

 人体実験のために宇宙へ飛んでもらい

 サンプルを回収するくらいしか使い道ないからね」

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