不安とヨダレの川
見つけなさいと言われていた仲間をものの30分で見つけた勇者ラーメンは、シオ・コショウとミソ・トンコツと今後の事を街の酒場で話し合うことにした。
街の酒場は酔った人の酒気を帯びた匂いが充満していて、飲んでもいないのにこの場にいるだけで酔いそうになる。質素な作りの縦長な木造の机に三人向いあうように座ると、若い女性が注文を聞きに来たが、三人がこの店に入ったのは食事が目的ではなかったため、また後で呼びますと嘘をつき店員を向こうへとやった。
「んで、これからどうしようか」
「そんなの決まってるじゃないか、魔王チャーハンを打ち倒すんだろ!」
ミソは決まってるであろうと言わんばかりのドヤ顔で、さも当たり前のことを言う。
その台詞に勇者ラーメンは呆気に取られる。
「いや、それはそうなんだけどそこに至るまでの過程ってあるじゃん?何も決めずにさ魔王チャーハン倒すぞ!!うおお!!って突撃しても結果は目に見えてるやん」
「うむむ、それはそうだ。浅はかな思考だったと反省しよう」
当たり前のことを言ってるだけなのに唸るミソの頭はオムツが少し足りていないと勇者ラーメンは悟る。
シオはやけに静かなので視線をちらっと移してみると、騒音に紛れてバレないと思っているのか分からないが寝息を立てている姿が目に映った。
「おい、シオ・コショウ。起きるんだ、今は今後のことを決める大切な会議中なんだ」
「ハッ!いや寝てませんよ、考え事をしてたんです」
「じゃあ、そのヨダレの後はたまたま唾を垂らしていましたというのか」
「え!ヨダレなんて!」
「嘘だよ」
ヨダレなんか垂れてないが、カマをかけるために嘘をつくとシオは見事に引っかかってみせてくれた。跡なんか付いてない口を必死に拭う姿は、アホという他なんと言えばいいのか分からない。
勇者ラーメンはこんなチームで大丈夫なのか、という不安を抱くと共にこの二人が力になってくれると言ったレンゲにも怒りが湧いてきた。魔王チャーハンを打ち倒すどころか、こんな様子では旅に出かけた瞬間に行き倒れになるのが関の山だ。今後を決めるどころか今が不安になってきた勇者ラーメンは深い溜息を一つ吐く。吐いた溜息は酒の匂いに紛れて宙へ漂っていった。
「……あっ、そうだ。ラーメンさんこの近くに長寿の民族が住んでいる小規模な村があると、私聞いたことあります」
「えっ、まじ!?シオ、村の名前は分かる?」
「えっと、えっとぉ……確かワンタンメン村だったはずです」
顎に手を当て記憶の本棚からシオは村の名前を検索してヒットさせたが、頭の底から引っ張り出しているようにも見えたせいで、勇者ラーメンは埃を被った記憶を完全には信じられずにいた。けれども、この情報を信じる他に道はないことも理解をしていた。
「行き方はわかる?」
「さあ、分かりません」
「さあって.......」
首を傾げて分からないのが当たり前と言いたげのシオに勇者ラーメンは落胆する。
酒気を帯びた匂いに酔ってしまって適当に決めたいと心の底から思い、二人への怒気が満ち溢れてくるが堪える。
「とりあえず、ワンタンメン村への行き方を探ろう。当分はそれを目標に動こう」
「合点承知之助」
目標が決まり酒場を後にしたが、不安に溢れた心は前向きではなかった。シオとトンコツの酒場での態度や言動を見た勇者ラーメンは、本当に信頼してもいいのだろうかと疑念の心をほんの少し抱きながら、自分の前を歩く二人の背中を眺めていた。
この街には情報を得るための機関が存在しない。人から人へ聞き込みをして、また人へ。その繰り返しで途方もない。
勇者ラーメン パ・ラー・アブラハティ @ra-yu482
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