勇者ラーメン

パ・ラー・アブラハティ

目覚めなさい勇者ラーメン

「目覚めなさい……勇者ラーメンよ」


 ぼんやりとした頭にくっきりとした風鈴のような優しい声が響く。ゆっくりと瞼を開く。


「……ここは?」


 見慣れない世界、かすかに鼻の奥をくすぐる塩っぱい匂い。自分の前に立つ、白髪の美少女に困惑を隠せない。


「ここはショウユ王国。あなたはこの世界を魔王チャーハンから救うべく目覚めた存在なのです」


 理解が出来ない文字が羅列される。平々凡々に生きていた自分が世界を救う存在だと急に言われて、誰が簡単に呑み込めるだろうか。


「まだ状況を把握できてないようですね」


「……その前にあなたは誰だ?」


「私ですか?私はレンゲ、この世界の神というべきでしょうか」


 警戒する自分にそっと囁くように神と名乗ったレンゲは言う。神と名乗る女の言葉を簡単に信じていいものだろうか、ただ単に頭がおかしい人かもしれない。


「本当に神と言うなら、力を見せてくださいよ」


「無理です」


「何でだよ」


「神の掟によって見せることは出来ません」


「なら、世界救わない」


「それは困ります」


「なら、力見せてください」


「今から勇者になろうとしてる人が神を脅すなんて、人選ミスでしょうか」


「人選ミスではないよ。ただ自分を神だと言っている人が特別な力も見せないから疑ってるだけ。普通でしょ?」


「……正論は時として神をも黙らせることが出来るんですね。いいでしょう、あなたへの餞別も兼ねて特別に力を見せてあげます」


 正論で顔をボコボコに変形するまで殴られた自称神のレンゲは、渋々力を見せることに了承する。


 レンゲは腕を向けると眩い光をこちらに向かって放ち、目をつんざくほどの光はふわっと消えると、髪の毛は茶色から淡い黄色に染まっていた。


「これで信じてもらえますか?」


「なるほど、これは確かに人間には出来ない。けど、僕の髪の毛を茶色から黄色に変える必要はありました?」


「雰囲気作りですよ、そっちの方がやる気が出るでしょう」


「出ませんよ、髪の毛を染めたぐらいじゃ」


「私の辞書とあなたの辞書はどうやら違うようですね」


「まっるきり違うみたいですね。んで、僕は何をしたらいいんですか?」


「これ以上、会話の麺を伸ばすわけにもいかないからぱっぱと説明します。あなたはこれから勇者ラーメンとなって、ショウユ王国に迫っている魔王チャーハンの手から守ってもらいます」


「一人でですか?」


「いいえ、ショウユ王国にはあなたの力になってくれる存在が二人います」


「そりゃ心強い」


「回復の使い手シオ・コショウ。剛力戦士ミソ・トンコツ。この二人があなたの力になってくれるでしょう」


「わかりました。その二人を仲間にしたらいいんですね」


「必ずやあなたの力になってくれることでしょう。では、おゆきなさい勇者ラーメン、あなたの力で世界を魔王チャーハンの手から世界を救うのです」


 ふわっと体が空気より軽くなり、頭がぼんやりとしてきてパツンと電源が落ちる。


 太陽の光で小鳥が鳴く平原で僕は勇者ラーメンは目を覚ます。のどかな空気が流れるどこまでも水平線が続いていそうな平原は、レンゲの言っていた状況とは正反対の平和を象徴していた。視線の少し先は国を護るように作られた強固な塀と大砲が見えた。


 草原に寝ていた体を起こすと、腰に違和感を覚える。ズシッとした重たさがあり、明らかな違和感の正体はレンゲから餞別と書かれてた手紙と剣だった。身体には立派な甲冑が着せられていた。


『おはよう、勇者ラーメン。君がこの世界で不自由しないようにと、装備一式を餞別として一緒に。些細な手助けだけど頑張ってpsこの手紙は入国書としても使えるから止められたら見せてね』


「裸一貫よりかはマシか」


 何もないよりはマシかと思い、餞別を身に付けたままショウユ王国へ足を進める。こちらへ進んでくださいと言わんばかりの一本道を歩いていくと、丁寧なことにショウユ王国へ着くことが出来たが憲兵に入国を止められてしまう。しかし、レンゲから貰った手紙は入国書としても使えると書かれている。完全には信じてないが、一か八かで出してみる。


「そこの旅人、御用は」


「あ、えっと。観光ですかね?」


「入国書は?」


「……はい」


「よし、通れ!」


「いや、行けるんかい!」


 本当に通れたことに憲兵と驚きながらショウユ王国へ入国する。賑わいを見せるショウユ王国はあちこちから塩っけの強い匂いがして鼻がくすぐったく、犬に舐められている気分になった。


 石畳の上を馬車が軽快に走っていく。魔王チャーハンの恐怖なんて微塵も知らないのか、とても平和で活気に満ち溢れている。


 初めての国を観光して回りたい気分は山々だけど、今は仲間を見つけなればならない。魔王の手から平和を守らなければいけない、のんびりしていて魔王の手が迫ってきて尊い命が亡くなってしまったら耐えれない。耐えれないが、この人の中から選ばれた二人だけを探すというのも心が耐えれないだろう。


 まずは聞き込みからしてみよう、名のある奴らならすぐに見つかるだろうと信じて街の人に手当たり次第に話を聞いていくこと三十分、僕の目の前には例の二人が立っていた。


「……えっと、シオ・コショウさんとミソ・トンコツさん?」


「はい、そうです。私がシオ・コショウです」


「力自慢のミソ・トンコツとは俺の事よ!」


 華奢で人形のようなサラサラとした金髪の女性シオ・コショウ、丸太のような筋肉を全身につけた黒髪のミソ・トンコツ。彼らがレンゲの言っていた力を貸してくれる仲間である。


「単刀直入に言います、僕の仲間になってください」


「はい、喜んで」


「おう、もちろんよ!勇者ラーメンさんよ!」


「なんで自己紹介してないのに名前を知って」


「二日前ぐらいだったかな?夜寝てたら、神様とか名乗るやつに、近いうち勇者ラーメンがあなた達の元に訪れるから、その時は仲間になってあげてくださいと言われたからな」


「私も同じです。最初は信じてませんでしたが、こうしてあなたが訪れたことによって信じざるを得ません」


「俺も最初は信じてなかったが、こうしてあんたが訪れたってことはそういうことなんだろうな。喜んで力を貸すぜ、勇者様よ」


「そこまで話が通っていたなんて……えっとじゃあよろしくお願いします」


 こうして、世界を救う勇者のチームはたったの三十分足らずで出来上がり、後にこれは麺をゆでる目安にもなったと言われている。

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