エピローグ
エピローグ
「うーん、よく働いた!」
充実感と徒労感を抱いていたリーネは、バルコニーに出て夜空を眺めていた。
紺青の空に、散りばめられた粉のような星々。
夏の終盤、秋の気配を運んで来る風。
両手を上げて、背筋を伸ばす。
鼻から清々しい空気を思い切り吸い込み、ゆるゆると吐き出した。
現在、リーネはバーゼル侯爵領のマルクの館に住んでいる。
そして、騎士団専属の治療院に所属し、日々、騎士たちの治療に従事しているのだ。
レーナはお針子。丁寧かつ仕事が早いので、かなり頼りにされているらしい。心なしか、病弱具合も快方に向かっている気がする。
エーヴァルトは騎士見習いの師範補助。実戦経験が豊からしく、傭兵だったとはいえ、騎士見習いたちから一目置かれているようだ。
ちなみに、ラインハルトは庭師のお手伝い。たくさんの花を知りたいらしい。
全員がリーネの部屋に勢揃いしたあの日——
「あの、私はみんなと一緒にいたいですっ」
思いの外大きな声でそう言うと、その場にいたみんなは目を丸くした後、それを受け入れてくれた。
ひとつだけ、心に引っかかっているのは、エーヴァルトが頑なに蒼きリントヴルムの涙を受け取ってくれないことだ。
『意地でも受け取るか』
何度挑戦しても態度が変わらないので、今はリーネが大切に保管中だ。
「さて、早く寝ないと」
いそいそと寝台に横になり、目を瞑る。
疲れていたせいで、すぐに寝入ってしまった。
そして、夢を見た。
「おおお⁉ う、嘘だよね⁉ ありえないっ‼ 新しすぎる! 斬新‼ でも、往年のファンは絶対怒るやつ!」
律が一人心臓を弾ませながら、スマートフォンの画面に食い入るように見入いりながら、足をばたつかせる。
寝台で寝間着姿でうつ伏せになり、眠る前のしばしの休息タイム。
立木律は、驚くべきニュース記事を見て、興奮でどうにかなりそうだった。
「リンサガ、乙女ゲーム化‼」
リマスター版の発売を知ってからそう日も経っていないのに、更に驚くべきニュースが飛び込んできたのだ。なんと、「リントヴルム・サーガ」が乙女ゲーム化するという。
「えっと、エーヴァルトにマルクに……えっ⁉ 魔王も攻略対象⁉ 精霊使い? なんだなんだ、この奇妙な異名は……」
まだ興奮冷めやらぬ頭で、思考を巡らせる。解禁されている情報があまりに少なすぎる。
「内容はともかく……買うしかない! これも要予約だ‼」
ドキドキがしばらく収まりそうもなく、今夜は眠れないかもと律はひとりにんまりした。
——その日の真夜中、マルクの館では妙な悲鳴が響き渡った。
おわり
乙女ゲームじゃありませんっ! ~勇者は恋にうつつを抜かす~ 雨宮こるり @maicodori
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