第51話 時の傍観者
ランツヴェーダー城の屋根の上、吟遊詩人は美しき聖女と座っていた。
月の綺麗な夜だ。
弦楽器を抱え、美しい調べを奏でている。
「ひとまずは、満足ですか?」
歌うように訊ねると、傍らの聖女はふふっと笑った。
「ええ、あの子は選んだもの。私と違う道を」
「そうでしょうか? 私には問題を先送りにしたようにしか見えませんが」
優しい風が、彼女の金の髪を撫でる。
顔に掛かった髪を払ってから、聖女は微笑んだ。
「でも、彼女ならきっと」
聖女が立ち上がり、ふわっと姿を変える。
彼女は小さな光になった。
楽器を下ろし、吟遊詩人も立ち上がる。
「これからどうします?」
蛍のように明滅した光に、吟遊詩人は眉を上げた。
「おや……次元を超えるのは少しばかり手間なのですが。仕方ありませんね。お供しますよ」
そうして、一人の青年と、小さな光はぱっと消えた。
まるで幻であったかのように。
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