ちょいラブレディ
亜来輝
1.煙草好き先輩レディ ✕ 真面目男子
目を覚ますと、思いを寄せる先輩が煙草を燻らせ、俺の顔を覗いていた。
(え、せ、先輩!?)
突然の供給過多で吃驚し、慌ただしく心臓が動き始める。
「あ、起きた?」
機械のように規則正しく首を縦に振る。
「そう」と呟きながら莞爾と笑う先輩を見て、また胸が高鳴った。
「ど、どうしてここに?」
騒ぐ心臓を落ち着かせるよう、先輩に質問を振る。
「君が仕事中に倒れた、って聞いてね。見舞いにきたんだ。出張先から此処まで来るのに少し、時間がかかったよ」
「そ、そうだったんですか…!」
「君、真面目だから、頼まれた仕事をすぐ背負っちゃうし、心配だったんだよね。案の定、そうなっちゃったけど」
「あ、あはは…つい」
「まあ、そんなところも嫌いじゃ無いよ」
(やば、心配で来てくれたって!!それも出張先から?!というか好きって(※違います)!俺今、顔赤くなってないかな…平常心平常心……)
「でも、すごく幸せそうに眠っていたから安心したよ。心配して損しちゃったくらい」
「え」
「ふふ、ほらここ…よだれついてる」
(え、嘘っ…)
頰につく生温かいものに触れた刹那、先程までの幸福感が嘘のように引いていく。よだれのつく場所を急いで拭った。
「ふふ…まあ、しばらく寝てなよ。今起きたところでまた、仕事を増やされるだけだからさ」
先輩は深紅の口角をあげ、よだれの垂れた俺の顔を指差す。
「また恥ずかしい思いしないよう、気をつけて寝るんだよ?」
「か、からかわないでください!」
「ふふ、おやすみ」
先輩は俺に紫煙とトキメキを残し、仕事に戻って行った。
先輩のハイヒールの音が遠ざかるのを耳で確認してから、胸につっかえる悲喜交々を吐き出す。
(うわ、最悪だ…よだれついてるのは恥ずかしすぎる…)
熱くなった顔を冷ますよう、首を左右に振る。
(好きな人の前でこの醜態は駄目だよ…せっかく好きだよ(※違います)って言ってもらえたのに…)
もう一度ため息を部屋に漂わせ、自分が運ばれた部屋を見渡した。
(ん、あれ?これ…)
ふと、部屋の片隅にあるものに気づく。
そこには、先輩の口紅がついた吸い殻が数本、灰皿に置いてあった。
(え…もしかして先輩、ずっと)
「待っ…てた?」
声に出した途端顔に熱が集まり、心臓が騒ぎ始める。
自惚れだと思いながらも、幸せを感じずにはいられなくて布団に潜り、足をばたつかせた。
…僕が目覚める間、先輩はどんな顔をして待っていたのだろう。
紫煙に隠れた大人の本心を少し、垣間見た気がした。
ちょいラブレディ 亜来輝 @Tellalie_TRBY
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