第6話、種明かし(姉の帰りが遅くなった理由)
隣の部屋で寝ている人を起こさないように、小声で。
「もしもし? あ、私」
「うん、いま弟くん寝たところ」
「大丈夫よ、もう帰ってきてもらって」
「本当にありがとね。今日は私たちを二人きりにしてくれて」
「……」//驚く
「ファミレスでずっと時間つぶしてたの!?」
「うわぁ、ごめん! ほんと、あなたは私の親友だわ」
「え? うん、そうそう。もちろんよ! あなたに何度も特訓してもらったホットケーキ、弟くんに食べてもらったわよ」
「そうなの、今日はちゃんときれいに焼けたのよ!」
「教えてもらった通りサラダ油は少なめに引いたし、フライパンは一度ふきんの上に乗せて冷ましたし、しっかり時間も計ったからね」
「ふふっ、あなたのおかげ」
「弟くんの大好物がホットケーキだって教えてもらって助かったわ。おいしそうに食べる笑顔が、たまらなかった! かわいかった〜!」
「え、かわいいわよ! かわいいと言えば、私の水着姿を見た彼の反応!」
「そうよ。あなたが弟くんの好みに合うって選んでくれたビキニ――」
「うん、一緒に選んだやつよ」
「勇気を出して着たら彼、目ぇまん丸にしてた。もう真っ赤になっちゃって!」
「ほんと。彼の色んな表情が見られて私、今日すっごく幸せだったわ」
「……」//思い出して癒されている
「そりゃそうよ。だってお風呂で背中流してあげるからって理由つけて水着に着替えたんだもん。一緒に入らないわけに行かないじゃない」
「うーん、それが私、彼の裸見たら暴走しちゃって」
「えー、聞いてくれる?」
「色々エッチなこと言っちゃった」
「ちょ、そんなこと言わないでよ! 恥ずかしい……」
「しかも抑えきれなくて、湯船の中で抱きしめちゃった」
「うぅ…… 馬鹿よねえ。こんなだから私、恋愛対象にならないんだわ」
「なってないわよ。近所の綺麗なお姉さんで止まってるの」
「えっ、それは――」
「……」//打ち明けるべきか迷う
「ここまでお膳立てしてもらったのに――」
「……」//決意
「彼の彼女にはなれなかった」
「……」//悲しみがあふれてくる。
「大好きって言ったら、お礼言われて終わったの」
「……」//冷静になろうと努めて、
「仕方ないよね。彼にとって私は、お姉ちゃんの親友だもん。恋愛対象に入らないよ」
「……」//涙があふれてくる。
「あ、涙が――」
「……」//笑おうとする。
「あなたにそんな元気づけられたら私、もっと泣いちゃうよ」
「あきらめるつもりはないんだ」
「……」//決意
「私は彼のこと、大好きだから」
「彼じゃないと――」
「私、恋できないみたい」
「あの無邪気な笑顔も、さりげないやさしさも、大好きなんだもん」
「いつもすぐ近くで彼を見てきたから、ほかの
「……」//好きな人を思い出して幸せな気持ちになる。
「結局、私にとって彼が理想の
「ありがとう、あなたがそう言ってくれるだけで救われるわ」
「えっ?」//ちょっと驚いて
「彼がホットケーキを好きな理由? 聞いたことないけれど?」
「もちろん覚えているわ」
「私がバレンタインデーに毎年、彼にあげる手作りチョコを失敗するもんだから、あなたがホットケーキミックスを使ったお菓子なら簡単だって、アドバイスしてくれたのよね」
「それで私、バカ正直にホットケーキそのものを作って、弟くんに食べさせたんだわ」
「でもそれすら焦げたり、まだら模様になったり、分厚すぎて中まで火が通ってなかったり――」
「全然うまくいかなかったんだけど」
「……」//過去の失敗を思い出して恥ずかしくなる。
「それでもチョコと比べたら、ホットケーキはマシだったのよね」
「……」//驚いて息を呑む。
「えぇっ!? それ以来、弟くんの好きなお菓子がホットケーキなの!?」
「うそ、なんで!?」
「恥ずかしい!!」
「……」//少しずつ喜びがわき上がる。
「じゃあ私、今日ようやくリベンジできたってこと!?」
「彼、ようやくまともなホットケーキ作れるようになったんだなって思いながら、食べてたのかしら!?」
「うわぁ、あの笑顔にそんな理由があったなんて――」
「……」//恥ずかしい。
「顔が熱くなってきたわ!」
「大丈夫、落ち着くから」
「うん、平気よ」
「……」//平静を取り戻そうとする。
「今日は本当にありがと」
「気を付けて帰って来てね」
「ファミレスまで迎えに行こうか?」
「ほんとに大丈夫? 夜遅いからさ」
「分かったわ。じゃあ私はあなたが帰ってくるまで、彼の寝顔でもながめてる。昔、あなたの家に泊まった夜みたいに」
「うん、またあとでね」
─ * ─
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姉の親友と風呂入ることになった!マッサージしてくれた上、添い寝まですることに。えっ今、俺のこと大好きって言った!? 綾森れん@『男装の歌姫』第四幕👑連載中 @Velvettino
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