第4話、お姉さんのネグリジェを着せられました

「わぁ、かっわいー! 私のネグリジェ、とっても似合ってる!!」


「足がスースーする?」


「……」//楽しんでいる。


「ほらほら似合ってるんだから、うつむかないで。色合いが落ち着いたグリーンだから、そんなにおかしくないわよ?」


「え? 胸元のフリルとリボン? 安心して。男性がレースのついた服を着ていた時代だってあったんだから」


「知ってる? 十七世紀とか十八世紀には、ネグリジェって男性も着るものだったのよ。だからルイ十四世にでもなったつもりで、堂々としていればいいの」


「……」//うっとりとながめて、


「それにしても、かわいいわねぇ」


「……」//ハッとして口をふさぐ。


「またかわいいって言っちゃった!」


「ごめんなさいっ。つい本音が口をついて出ちゃうのよね〜」


「そんな、にらまないでよぉ」


「この家きみのお姉ちゃんと私の二人暮らしなんだから、男物の服が用意してあるわけないじゃない」


「え、私に彼氏がいるかどうか気になるの?」


「……ふふっ」//いたずらっぽい笑み


「知りたいっ?」


「ま、答えは予想ついてるわよね」


「男物の服がない時点で」


「……」//気落ちしたようなため息


「この家に泊まりに来る男はいないってことよ」


「あら? 私が着ているナイトウェアが気になるの?」


「……」//恥じらう


「実は――」

「私、服を着ないで寝るタイプなの」


「タオルケットとシーツが、素肌をじかになでる感触が好きなのよ」


「でもさすがに、きみがいるときに裸ってわけにいかないじゃない?」


「だからキャミソールを着て、ホットパンツを履いているの。これでも一応、気を使ってるんだから!」


「そういえば、きみのスマホにもお姉ちゃんからの連絡、入ってた? 今夜はかなり遅くなるみたいね」


 妙に大げさに、


「うんうん、深夜になるかも。もしかしたら明け方かも!」


 演技っぽく、とぼけている。


「一体どうしたのかしらねぇ?」


「へっ?」


「……」//焦る


「理由なんか知らないってばー! なんで疑いのまなざしを向けるのよ?」


「明日の朝になれば必ず帰ってくるんだから、今夜は泊まって行けばいいじゃない」


「私のベッドならセミダブルだから、じゅうぶんに二人で寝られるわよ」


「……」//誘うように、クスっと笑う。


「きみのお姉ちゃんのベッド? それは貸してあげられないわ。彼女が夜中に帰ってきて、眠るかもしれないじゃない」


「ちょっとちょっと!」//本気で焦り出す。


「帰るなんて言わないで!」


「……」//泣きそう。


「せっかく来てくれたのに――」

「私、寂しくなっちゃう」


「……」//緊張。上目遣いで相手の出方をうかがっている感じ。


「……」//ほっとして相好を崩す。


「えへへ」

「泊まってくれる気になったのね」


「そうだ」


//演技依頼 ポンと手をたたいて


「一緒にカモミールティーでも飲みましょ? 眠くなるかも知れないわ」


「ソファに座って待っていて。今、れてくるから」


//SE 茶器の音

//SE カップにハーブティーを注ぐ音


「はい、どうぞ」


//SE テーブルにマグカップを置く音


「熱いから気を付けてね」


「私もとなりに座っていい?」


「えへっ、ありがと」


//SE 座る音


「……」//密着できて嬉しい。


「距離が近い?」


「もーう、ケチなんだから」

「彼女さんとはこれくらい近付くんでしょ?」


「え?」


「……」//やや緊張する。


「誰とも……」

「付き合ってない?」


「きみのお姉ちゃんに訊いたけど――」

「知らないって言うのよね、今きみに彼女がいるかどうか」


//SE さらに近付いてくる

 耳もとでこっそり尋ねる。


「ねえ私にだけ、こっそり教えてよ?」


「経験豊富なお姉さんが、恋の相談に乗ってあげるよ?」


「……」//いたずらっぽく笑う。


「女心の機微についてレクチャーしちゃう!」


「えっ、興味ないの!?」


「それより本人のいないところで、きみのうわさ話をするなって!?」


「いいじゃないの。きみのお姉ちゃんと私の、共通の話題なんだから!」


「そんな嫌がらないでよぉ」

「つい話題にしちゃうの……」


 だんだん小声になっていく。


「仕方ないんだってば……」

「私、いっつもきみのこと考えてるから」


「……」//ハッとして、


「あ、違った!」

「私たちって言おうとしたの!」

「私たち、いっつもきみのこと考えてるからって!」


「だって知ってるでしょ? きみのお姉ちゃんが弟くんを大切に思ってるのは」


「それでお姉ちゃんからたくさん話を聞くうちに、私もきみのこと、しょっちゅう考えるようになったっていうか……」


「……」//言葉を探して戸惑う


「まあ地元にいる頃から、きみのことは気になってたんだけどね」


「へっ?」

「な、なんでかって!?」


「……」//思いがけない質問に困って、


「そ、そりゃあきみは――」


「……」//目をそらして逡巡する息遣い


「その、かっこいいし――」

「いや、えっと、ちっちゃい頃はかわいいなって思ってたの」

「でも大きくなるにつれて、かっこよくなっていくなって気付いちゃって……」


「ほ、本当よ! からかってなんか、いないってばぁ!」

「冗談でこんなこと言うわけないじゃない!」


「こうやって、そのっ」


「今日だけじゃなくて――」


「これからいつも、きみのとなりにいたいなって思ってるの」


「……」//どんな答えが返ってくるのか緊張している。


「――は?」


「……」//困惑。


「お礼を言われるところじゃあないんだけどな……」


「その、きみは――」


「……」//言葉を選んで、目が泳ぐ雰囲気。


「女の子から『いつもあなたのことを考えています』とか、『となりにいたいです』って言われたら」


「お礼を言って終わっちゃうの?」


「……」//だんだん腹が立ってくる。


「それはちょっと女心を分かっていなさすぎるんじゃない!?」


「わ、私が何を言いたいのかって!?」


「……」//突然質問を振られてドキドキしている。


「簡単に答えを言っちゃったら、きみの女心の勉強にならないでしょ」


//つんとそっぽを向いて、


「次来るときまでに」

「私の気持ちを考えておきなさい」

「宿題よ」


「さて、そろそろベッドに入りましょうか」


「あ、カモミールティー飲んだカップはすすいでおくから貸して」


//SE カップをすすいでいる水音


「えぇっ、このソファで寝るって!?」


「だめよそんなの!」//断固として反対する。

「睡眠は健康の基本よ! ちゃんとベッドで寝なくちゃ熟睡できないじゃない」


「私と一緒に寝た方が熟睡できないですって?」


「あらぁ~」//わざとセクシーな演技。


//吐息交じりの声で

「お姉さんのこと意識しちゃってるのかなぁ?」

「ネグリジェが似合う弟くん?」


「……」//からかって、くすくすと笑い出す。


「ふくれっつらしちゃって、かっわいー! 思わず抱きしめちゃうっ!」


//SE 抱きしめる。


「ぎゅーっ!」


//耳もとでささやく。


「さっきお風呂で抱きしめたときも思ったけど、きみの体、ちっちゃい頃と全然違うね」


「昔はずーっと細かったのに、今はたくましくなった」


「見た目、そんなに筋肉があるように見えないのに、やっぱり男の子なんだね」


「……」//至近距離で聞こえる息遣い


「あっ、確かに私も、昔はこんなに胸なかったわよね!」


「やっぱり意識しちゃう?」


「……」//からかいたくて、テンションあがる。


「してるよね!? そうやって怒ってる顔もかわいいなあ」


「チュッ!」


「ごめんごめん! ついほっぺにチュってしちゃった!」


//身体を離して


「じゃ、私の寝室に行きましょ」


//SE 扉を開ける音


「一つのベッドで寝るのは、きみがちっとも女心を理解しない罰だからね」


「きみに拒否権は、なーいのっ」


「すぐとなりで寝てる美人なお姉さんの寝息を聞けば、にぶいきみも何か変わるかもしれないでしょ?」


「はいはい、いい子は寝る時間ですよ~」




─ * ─




次回、お姉さんが優しく寝かしつけてくれますよ!

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